イジメでズタボロにされた俺のことを親父は「お前は人間じゃない」と言った件
俺はよく意味がわからなかった。
何故男どもは俺が無抵抗でいると殴ったり蹴ったりして来るのかと。
そして俺をボコボコにしながら奇声を上げて喜ぶ意味が全く理解できなかった。
俺はそのことを親父に言ってみた。
すると親父は言った。
「誰に何回殴られたか、何回蹴られたか全部覚えているか?」
「覚えてる」
「後ろから蹴ったり殴ったのも?」
「うん」
「倒れてから踏んづけた分も?」
「うん」
「期間はどのくらい前から」
「もう123日間、ほぼ毎日やられている」
「傷は残ってるか?」
「いや、始めから傷とか跡はつかない」
暫く考えてから親父が俺に言った。
「実はお前は人間じゃない」
「えっ?」
「前にお前には母親がいないと言ったな。あれは本当だ」
「つまりいないと思えってことでしょ?俺を捨てた母親のことなんか忘れろって」
「違う。最初からいないんだ。お前は俺が分裂して生まれた命だからだ」
「ぶ……分裂?」
「もう俺の体の細胞は古くなってしまって固定化しているが、お前の体の細胞はまだいろいろと変化する可能性がある。
だから打ち明けた。お前は人間じゃないと言ったろ?俺もお前も疑似人類なのだ。
人間じゃないものが人間の振りをしている人間もどきだ」
「あれは何かの比喩だと思ったけど、本当に俺は人間じゃないの?
ホモサピエンスじゃないの?」
「人類が生まれる前に、分裂で増えるスライムのような不定形の生き物がいた。
それが祖先だ。
その中でミーミックスライムのような種が生まれ、哺乳動物のふりをして擬態したのが始まりだったらしい。
そういう擬態を繰り返して行くうちに擬態自体が何代も続くうちに固定化してしまったのだ。
そうして生まれたのが我々の種族だ」
この話は冗談にしてはひどすぎる。
だが親父は最後まで冗談だとは言わなかった。
何故なら本当のことだからだ。
俺は法的には養子になってるが、DNAは親父とほぼ100%同じということだ。
「そこで忠告だが、お前はもっと人間らしくしなきゃならない」
「人間らしくとは?」
「理由もなく殴られたり蹴られたりすれば人間は泣きわめいたり殴り返したり、なんとか反応するものだ。お前はしたか?」
「いや……特になにも。そのままされるがままだった」
「それがいけない。もしかしてお前が人間ではないと周囲が気づき始めるぞ」
「殴ったり蹴ったりしていないけど、それを見て笑った者には何もしなくて良いのかな?」
「いやそれは侮辱の類だから頬をビンタするくらいはお返しした方が人間らしい」
「先生が知っていても少しも止めなかったのは?」
「先生はそれを止める責任がある。そういう先生は一発殴ってノックアウトする方が人間的だろう」
「だんだん分かって来た。親父、俺何とか人間らしくふるまえそうだよ」
「よし、それで良い」
「ちょうど明日から宿泊学習だから、人間らしくふるまえそうだよ、親父」
「まあ、頑張って来い」
翌日は7:30に学校グランドに集合し、そこからバスで山の中のキャンプ場に向かうことになった。
バスの中では俺が席に着く前に通路で足を出して転ばしたり、小突いたり色々されたが場所が狭いのでいちいち反応するのも面倒なので後まわしにすることにした。
もちろんこれも全部数えている。
「おい、人間サンドバッグ!向こうに着いたらみんなでたっぷり可愛がってやるぜ」
「お前はみんなのストレス解消剤だ」そして周りの人間がげらげら笑う。
俺は誰と誰が笑って、笑わなかった人間が誰か全部覚えている。
俺の周りの人間は360度全方向確認した。
視覚だけでなく聴覚や僅かな振動なども、笑った時の内分泌の匂いも含めて全て記憶した。
きっと祖先の中でHSAMの能力を身につけた者がいてそれが遺伝として残ったのだと思う。
また俺は一応前方に対して視覚を持っているが、視覚に限らず全方向を知覚できる。
そしていよいよバスはキャンプ場に到着した。
点呼、自由時間のフィールドアスレチック、炊事と食事、キャンプファイイヤーなどなど。
一日の予定がすべて終わり、就寝時間になったときに俺は行動を開始した。
級友たちは班ごとにバンガローに布団を敷き眠ることになっている。
俺の班は男子6人で他に男子班が2つ女子班が3つある。
寝る時間になると同じ班の男たちは変な目つきになった。
まるで獲物を狩る者のように残忍な笑みを浮かべていた。
俺は何かされる前にトイレに向かい、それから自分のバンガローに戻った。
同じ班の者は全員揃っていたが俺の顔を見てみんな凍り付いた。
いつもと違う迫力のある顔つきだったから、びっくりしたかもしれない。
「佐々木修吾君、君にはこの123日間で78回殴られ17回蹴られたよ。
これから君にされた分だけお返しするけれど時間がかかるから少し時短でするね。
なお、叩く場所や強さは僕の記憶のデータ基づいて正確に再現するからね」
「「「えっ?」」」
「あっ、それから他の人は順番が来るまで大人しく待っていてね。
と言っても動けないと思うけど」
気が付くとバンガローの中の空気は甘ったるい匂いに満たされていた。
俺が体内から出した軽い麻痺作用のあるガスだ。さあ、これからゆっくりやるぞ。
ある新聞記事から。
〇〇市内の▽▽小学校6年生の宿泊学習で事件が起きた。◇◇キャンプ場でバンガローで宿泊していた男女生徒の大多数が顔面を中心に何度も殴打されたような跡があり、中には重傷の子どももいた。けれども一体何があったのか思い出せる児童は一人もいなく、心に深い傷を負った状態である。市の教育委員会は被害児童の治療に合わせてカウンセリングを受けられるように医療機関に要請している。警察では犯人の捜査を続けているが、引率教師を含めて手に殴打した痕跡がある者は一人もいないので、外部の人間の通り魔的犯罪とみて捜査を進めているとのこと。なお体に残る打撲の跡から判断すると、同年齢の子どもの小さな拳の跡と思われるものが……後略。
数か月後。
あれからクラスの人間は俺に何もしてこなくなった。
何も覚えていない割に俺のお返しをしっかり心の奥底に刻み込んだものと思われる。
いちおうすべてが終わった時に何があったかを忘れて貰うための処置をしている。
俺の種族に伝わる秘儀なのだが親父から直伝で教えて貰った。
俺の目の前に不良高校生が3人立ちはだかっている。
先日カツアゲをしてきた二人をノックアウトして人間らしいことを示したのだが、その関連らしい。
新顔の一人はシャドーボクシングを華麗にしてみせてから、俺の方に向かって来た。
「ガキがなにかやってるらしいが、本物の喧嘩を教えてやろう」
その男が近づくときに俺は半身になって右足を前に長く伸ばした。
その分後ろの左足は短くなる。
まだ相手の間合いになる前に俺の上半身は前にスライドして進みストレートに出した右拳が相手の顔面に向かった。
「ふん、届かねえよ」
向こうは軽く頭を逸らして避けた積りだろう。
でも俺の右腕はどんどん伸びて奴の顔面にヒットした。
上半身の移動と右腕の伸びによって勢いづいたパンチは相手の脳を揺らして、ダウンした。
人間は頭を打つと大抵ダウンする。
脳が揺れる為に、脳震盪をおこすからだ。
俺たちの頭には脳は集中していない。
全身の細胞に脳神経が分散しているからだ。
「あんたたちもまだやる?」
ほかの二人は伸びている一人を抱えて退散して行った。
人間の目では俺の手足が瞬間的に伸び縮みしたことは分からなかったと思う。
すると俺の背後から見ていた者がいたので俺は声をかけた。
「吉田君、見てたのかい?」
「う……うん」
何か焦った様子の声が聞こえて来た。
「もしかして……キャンプの時のあれは……」
しまった。
気づいてしまったか?
しかたがない。
今の記憶を封じるしかないな。
秘伝の出番だ。
「吉田君、なんのこと。
ちょっと良いかな?」
俺は最高の人間らしい笑顔で同級生の吉田少年に近づいて行った。




