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辺境ごはん屋とわずがたり ~静止スキルで至高の味を永遠に~  作者: kiyoaki


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第29話 鉄血の聖女たちに捧げる美と豊穣のガレット【後編】

 食事が終わると、私は彼女たちが持ってきた小麦粉や膨らまし粉、砂糖を使ってクッキーを焼いた。私はそうでもないけど、若い女の子というものは甘いものが大好き。清貧を重んじる「鉄血福音教導隊」では、お菓子は滅多に口にできないと言う。奉仕活動は大変だけど、出先では好きなものを食べていいからそう悪いものではないとも。

 三人は焼きたての香ばしいクッキーを、大袈裟すぎるほど喜んで食べてくれた。

 ……ここまで反応がいいと、もっと何かしてあげたくなっちゃうわね。


 満腹になった三人は、お茶を飲みながらおしゃべりに花を咲かせる。

「店主さんはもしかして貴族の生まれ?」ラミアが屈託なく尋ねてくる。

「ええ。実家は没落しましたけど」

「やっぱり! 道理で品がいいと思ったわ。滲み出るものが違うと思ってた」とレスティア。

「皆さんはそうではないの?」

 と私が問うと、三人は苦笑いしながら首を横に振った。

「違うわ。私たちは平民の出身よ。魔法の素養があることがわかって修道院に入れられたの。親は喜んでたわ。入れば食べるのに困らないし、学校にも通えるし」ラミアが説明する。

「一定期間ごとに試験があって、さらに選抜されて『鉄血福音教導隊』に入ったの。入隊後は俸禄が貰えるようになったけど、出費も多くて。お金は全然たまらない~」とレスティアがぼやく。


 私は、先日店に来たカイゼル司祭のことを思い出した。

「先日、ここにカイゼル高司祭さまがいらっしゃいました。もしかして、お知り合いかしら?」

「カイゼル先生が?」カリンが目を輝かせる。

「カイゼル先生は、教官の一人です。先生は優しいけど、授業は絶対にサボれなくて……」

「どこに逃げてもすぐに見つかっちゃうしね」とラミアが拾う。

「……でしょうね。【広範察知(パーシーブ)】は唯一無二の魔法ですし」私は相槌を打った。

 

 ラミアは私をじっと見て、しみじみと言った。

「……いいわね、店主さん。あなたの魔法、【静止(ポーズ)】は。料理には最高だわ。正直、羨ましいくらい」

 私は驚き、慌てて言った。

「私の方こそ、皆さんの使う回復魔法、高位魔法が羨ましいですわ。私の魔法は、人の命を救うことはできません。聖女とは、あなた方のような人を言うのだと」

 ラミアがころころと笑った。

「まさか。私たちが聖女なら、まず『戦う教会』が聖人と聖女だらけね。多すぎて価値が大暴落よ。市井ではどうか知らないけど、聖女なんてそうそう現れないから」

「全員が列聖されちゃ、肖像画も建てる銅像も追いつかない~」とレスティアが茶化す。


 ラミアはお茶のカップを置くと、真剣な眼差しで言った。

「私たちは、あくまでもその場の命を救うだけ。救った患者が生きてくれるかは、その人の生命力と心次第。美味しい料理は明日への活力。楽しみがなければ人は生きられない。それは私たちも同じ」

「店主さんの料理は……美味しい希望みたいなものかと。どんなに辛いことがあっても、お店に行って美味しいものを食べるんだと思えば、また頑張れます」カリンがはにかみながら言う。


 レスティアが少し声を潜め、秘密を共有するように身を乗り出す。

「それに……私たちシスターは、別に生涯を神に捧げる誓いを立てているわけじゃない。そういう人もいるけど少数よ。今のお務めは、あくまでもお仕事。還俗すれば結婚もできる。……知ってる?  今の王妃さまも、かつては戦場を駆けた従軍修道女(バトル・シスター)だったこと」

「ええ……まあ、それは」

 現国王の正妃、イザベラ王妃が平民、しかも孤児で従軍修道女だったのは有名な話だ。彼女は、たぐいまれな魔法の才能で王妃にまで上りつめた立身出世の見本のような御方。魔法の力は、家柄や容姿以上に結婚の際に重要視される。強力な固有魔法を持ち、自在に操れる女性は王族や貴族から伴侶に求められる。

 

「固有魔法は完全に無作為(ランダム)で発露すると言われているけれど……実はよくわかっていない。今のところは『母系遺伝』が強く作用するという学説が有力。だから……ね?」ラミアは含みを持たせる。カリンとレスティアも誇らしげに頷いた。

「そうですね、本人の育った環境や人種、性格が影響するという説もありますけど……」

 この国では、母親の血筋こそが次代の魔術師を生むための要……と信じられている。少なくとも、上層部はそう考えている。

「王族のお妃選びにおいて、一番大事なのは魔法の力。私たちみたいな平民も、頑張れば玉の輿に乗れる可能性があるってわけ! これはもう狙うしかない~」レスティアが胸を張る。

 キャッキャと無邪気に笑いあう三人。彼女たちの言葉は、伯爵令嬢として育てられた私の価値観を、根底から揺さぶるものでもあった。家柄でも美貌でも財産でもない。自らに宿る「魔法」という才能で運命を切り開く。残酷な実力主義であると同時に、ひと筋の光明、確かな希望でもある……。


 私は談笑する彼女たちを見つめながら、新たな決意を固めた。この「とわずがたり」には、レオンハルトのような騎士や、シレイのような謎めいた実力者も訪れる。けれど、男性だけがお客ではない。

 従軍修道女のような職業婦人や、自らの力で未来を掴み取ろうと頑張る女性にも来て欲しい。

 ……ならば。 彼女たちを応援するような、女性向けの心ときめくメニューをもっと増やさなくては。疲れた心身を癒し、乙女心を潤し、その魔力を美しく開花させるような――。


「皆さま、お礼を申し上げますわ。私、決めました。次にお会いする時は、皆さまをさらに美しく幸福にする特別な料理やデザートを用意しておきます」

「あら、本当? それは楽しみ! その時はまた、今日みたいにたくさん働いてから来るわね!」と意気込むラミア。

「私、絶対また来ます。店主さんのガレット、最高でしたから」と頬を赤く染めるカリン。


 三人のシスターたちは正規の料金を払い、元気よく手を振って帰っていった。余った食材たちは全部置いていってくれた。気前のいいことだが、これから十日ほど辺境を回るため、もらった物品を持ち運びたくないと言う。去りゆく彼女たちの背中は、どんなドレス姿の貴婦人よりも美しく、逞しく見えた。


 私は厨房を振り返り、置いていった食材を見つめる。砂糖はまだある。スイーツなら、クリームとベリーを使った魔力活性化のパルフェでも作ろうかしら。

 もしくはバラの香りを【静止】させた『若返りの琥珀糖』……とか? 

 この指先が紡ぐ魔法で、彼女たちの戦いも、恋も全て応援してみせようではないか。

 私は不敵に微笑み、新たなレシピを書き記すためにペンを取った。

 

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