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辺境ごはん屋とわずがたり ~静止スキルで至高の味を永遠に~  作者: kiyoaki


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第28話 鉄血の聖女たちに捧げる美と豊穣のガレット【中編】

 私とガルドは大急ぎで掃除して、床の血とその匂いを払拭した。

 コリンが、採ったばかりの森の食材を持ってきた。彼はケインたち一行の惨状をまったく知らなかった。魔の森は広大で四方八方から人が入ってくる上、コリンは人間には見えないエルフ独自のルートを辿る。森の中で他の冒険者やパーティに出くわすこともないと言う。

 店の中には、香ばしい穀物の香りが立ち込めた。さらに三人のシスター――ラミア、カリン、レスティアは、外から荷物を運んできた。カウンターに麻袋や木箱をずらりと並べた。


「私たちは修行の一環で、辺境に奉仕活動にやってきたの。病人や怪我人を診て回ってるんだけど、この辺りにごはん屋があると聞いてね。魔の森の近くに店があるなんて……驚いたわ。これは謝礼で村の人たちから貰ったもの。よくわからないけど、そば粉に小麦粉、膨らまし粉、栄養たっぷりの雑穀らしいわ。精製したお砂糖もある。折角だから使ってちょうだい」

 そう言いながら、ラミアが差し出したのは、素朴ながらも大地の生命力に満ちた食材だった。

「承知しました。『奇跡』を見せていただいたお礼として、私の魔法で最高の一皿を作りましょう」

「やったあ! 楽しみ!」

 シスターたちは、年相応にはしゃいだ。その屈託のなさに、私の頬も自然と緩む。


 私は厨房に立つとメニューを考えた。魔法の行使で疲れた彼女たちの身体が必要としているのは、まずエネルギー。それから、過酷な任務で荒れがちな肌や髪を癒す美容成分も。何より、乙女心をくすぐる華やかさ……ときめき。料理は見た目も重要。美しくて美味しい、女性客向けの一皿を考える。

「エリス、今日は何を作るんだい?」コリンがカウンターに寄りかかりながら尋ねてくる。

「そうね……コリンが採ってきてくれた『真珠アロエ』と『紅蓮豆ルビー・ビーンズ』を使おうかしら。どちらも栄養価が高いし。ガルド、新鮮な卵とチーズを」

「ほいよ」とガルドが卵やチーズを取り出して台に並べる。


 私は、彼女たちが持ち込んだそば粉をベースに、隠し味に蜂蜜とシードル(林檎酒)を加え、生地バッターを作った。熱した鉄板の上に、生地を薄く円形に広げる。ジュワァァァ……という心地よい音が響き、香ばしい湯気が立ちのぼる。火傷しないように気をつけながら、鉄板に手をかざす。

「【静止ポーズ】――!」

 私は、生地の表面がパリッと焼け、内側の水分が飛びきる直前の「最も食感が良く、香りが高い瞬間」を魔法で固定した。通常の調理では、食べている間に湿気てしまう薄い生地も、私の魔法なら最後の一口まで焼きたての食感を保ち続ける。


 その上に、鉄分が豊富で魔力を補うとされる『紅蓮豆』のペースト、体内毒素の排出効果がある『真珠アロエ』の果肉、それからセロリ、レタス、トマトや黒きのこといった彩り豊かな森の生野菜をたっぷりと乗せた。中央には、半熟卵と濃厚で塩味の強いチーズ。仕上げに、ナッツとピンクペッパーを散らす。ピンクペッパーは味は普通のペッパーだけど、色がピンクなのが愛らしい。辺境では売れなかったようで、余っていた在庫を安く買えたのはよかった。


「お待たせしました。『鉄血の聖女に捧げる、美と豊穣のガレット』ですわ。召し上がれ」

 運ばれてきた料理を見て、三人の娘たちは目を輝かせた。

「わあ、かわいい……! お花畑みたい!」レスティアは両手をパンと叩いた。

「すご~い、お洒落すぎる。野菜が宝石みたいに光ってるわ。これ、全部食べていいの?」

 感心するラミアに、私は微笑みながら答える。

「ええ、どうぞ。ガレットの生地は魔法で時を止めていますから、具材の水分を吸ってふにゃふにゃになったりはしません。急いで食べなくても大丈夫ですよ」

「助かります! 私、食べるのが遅くて」カリンがホッとしたように言った。

 三人が喜び勇んでフォークを入れた瞬間、半熟卵の黄身がとろりと溢れ出し、ガレットと絡み合った。 口に運んだ彼女たちの表情が、一瞬で蕩ける。


「んんっ……! 美味しい! そばの香りがいいし、生地の外側はサクサク、中はもっちりしてる! この弾力!」

「豆のペーストが甘くて濃厚……。なんだか、食べたそばから魔力が満ちていくみたい」

 レスティアが頬をバラ色に染め、ラミアが満足げに喉を鳴らす。

 コリンが持ってきた紅蓮豆や薬草は、いわば森が産んだスーパーフード。私の【静止】によって栄養素が劣化することなく、彼女たちの体内にダイレクトに吸収されていく。それはまさに、食べるポーションであり、食べる美容液。


 私は料理に使った材料の説明もした。

「紅蓮豆や真珠アロエは、森が産んだ至高の食材。栄養価だけでなく、美容効果も高いですよ。肌に潤いを与え、きめ細かくしてくれます」

「これは俺っちの鼻じゃないとまず見つけられないよ」とコリンは得意満面だ。

「俺にはまったくわからないんだよなあ……。たぶん気づかずに通り過ぎちまってるんだろうな」とガルドは少し残念そうだ。


「ああ、生き返るわ……。労働の後の一番の楽しみは、やっぱり食事よね。こんなに美味しくて、お肌も綺麗になるなんて一石二鳥じゃない」

 ラミアがフォークを動かしながら、幸せそうに笑った。笑顔を見て、私は胸が温かくなるのを感じた。私の魔法は、傷を塞ぎ、千切れた手足を繋ぐことはできない。人の命を救うことも……。けれど、美味しい料理で彼女たちの心と身体を癒し、笑顔を引き出すことはできるのだと。


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