アルテアの防衛線 〜影で支える最強の女たち〜
フィン王国の夜。路地裏の喫茶店『アルテア』は、一見すれば静かな閉店時間を迎えているように見えた。だが、その地下室では、地上と空の運命を左右するもう一つの戦いが始まっていた。
「……マリア、空の状況はどうなってる?」
レイラが愛銃『アルテマ』のボルトを締めながら問いかける。カウンターで端末を叩くエリナが、眉をひそめて画面を見つめた。
「最悪よ。帝国軍のジャミングが強すぎて、フリオニールの『心臓』との同調が不安定になってる。このままだと、あの子の精神がアルテマの出力に耐えきれず、焼き切れるわ」
店主のマリアが、静かに紅茶を淹れ、二人の前に置いた。その瞳には、いつもの穏やかさとは違う、静かな怒りの火が灯っている。
「……オレの可愛いフリオニールの邪魔をするゴミ掃除は、オレたちの役目よね」
その時、店の外から不気味な駆動音が響いた。帝国の暗殺部隊が、フリオニールのバックアップ拠点であるこの店を特定し、包囲を開始したのだ。
「レイラ、準備は?」
「……いつでもいい。紅茶が冷める前に終わらせる」
レイラは漆黒の外套を羽織り、店の裏口から闇へと消えた。直後、路地裏で爆音と閃光が弾ける。 レイラの放つ魔導弾は、敵の装甲を一撃で貫き、帝国の暗殺兵たちを次々と無力化していく。
一方、店内ではエリナが端末を通じて、上空を飛ぶフリオニールの機体へと「解析データ」を送り続けていた。
「フリオニール、聞こえる!? 私が敵の防壁プログラムを書き換えるわ。あんたはその隙に、心臓の鼓動を最大まで高めなさい!」
空の上で戦うフリオニールは知らない。 自分が今、指先一つで帝国を圧倒できているのは、地上の喫茶店で必死に端末を叩く少女と、降り注ぐ銃弾の中で道を作る「氷の騎士」がいるからだということを。
「マリア……予備電源、限界よ!」
エリナの叫びに応えるように、マリアが自らの胸に手を当てた。彼女の心臓もまた、フリオニールと対になる「共鳴核」として青く輝き出す。
「……オレの波を、あの子に届けて。……愛してるわよ、フリオニール」
マリアから放たれた膨大な生体魔力が、回路を通じて天へと昇っていく。 それは地上と空を繋ぐ、一筋の青い救いの光。
激闘の末、路地裏に静寂が戻った。 ボロボロになったレイラが店に戻ると、マリアは少しだけ疲れた顔で、けれど満足げに笑った。
「おかえり、レイラ。……ちょうどいい温度の紅茶が入ってるわよ」
「……ああ。空のアイツも、少しは楽になったはずだ」
彼女たちは決して表舞台には出ない。だが、最強の英雄を支えるのは、間違いなくこの「赤い屋根の喫茶店」に集う女たちの執念だった。




