第2章 海の町リートレ【2】
数時間の船旅を終え、船はクルトゥーラ大陸の港に到着する。意気揚々と船から降りると、おお、とウォーロックは辺りを見回して感嘆を上げた。
「本当にいろんな種族がいるんだな」
燃えるような赤の髪。落ち着いた水色の髪。猫耳と猫の尾。見渡す限り、ウォーロックが見たことのない人々で溢れていた。
「あの赤い髪は炎族」スクワイアが言う。「炎を自在に操る種族で、水に触れると鎮火してしまいます。トカゲがマナを得て人型に進化した種族です」
「ほう。進化を経て人間になったってことか」
真っ赤な髪の炎族は肌が浅黒く、擦れ違った際に少し熱気を感じたような気がした。体内に炎の魔力を有しているのだろう。
「青い髪は人魚族。水中で暮らしていて、長時間、陸上にいると蒸発してしまいます。魚がマナを得て人型に進化した種族です」
「水でできているような種族か。炎族とは相性が悪そうだ」
もし炎族と人魚族に触れたとき、炎族は蒸発してしまうのだろうか、とウォーロックは考えていた。
「背が低いのが猫人間。猫がマナを得て人型に進化した種族で、体が小さい分、俊敏さを持ち合わせています」
猫人間は子どものような体型で、頭に猫耳、尻に猫の尾が生えている。まさに猫のような動きをするのだろう。
「特徴がない人間は“人の子”と呼ばれています。私たちと変わらない人間です」
「あとはエルフやヴァンパイアが存在していますが」アモルが言う。「この三種が大半を占めているそうですわ」
「面白いな。オクターヴィル王国よりさらにファンタジーな世界みたいだ」
こうして様々な種族の人間が闊歩しているところを見ると、ファンタジーな世界に来たことがより実感できる。クルトゥーラ大陸で過ごしていれば、彼らと接触する機会もあるだろう。ウォーロックにはそれが楽しみだった。
「さて、まずは住むところか」
「それなら心配ありません。この大陸にもゴード神の加護を受けた者がいます」
「ほう。ではさっそく会いに行こう」
ゴード神の加護を受けた者は、ウォーロックを歓迎するだろう。エウル神の遣いと出会ったとき、ウォーロックのことをどう思うか。いまは考えても意味はないのだろう。
スクワイアは、港のそばにある町にウォーロックを案内した。町は商店街のようで、様々な店が立ち並び、多くの人々が行き交っている。あちこちに様々な種族の姿が見られ、まさにファンタジーな光景であった。この中に自分がいることがまだ少しだけ不思議に思えたが、これからこの世界で生きることがより楽しみになっていた。
「あ、いたいた。ポポル!」
スクワイアが軽く手を振る。その視線の先に、紺がかった黒髪の少年の姿があった。十二、三歳くらいだろうか。見たところ人の子のようだ。スクワイアに気付くと、少年は親しげな笑みを浮かべた。
「スクワイアさん、こちらにいらしてたんですね」
歩み寄って来た少年を手のひらで差し、スクワイアはウォーロックを振り向く。
「彼はポポル。ゴード神の加護を受けた者です」
「ウォーロックだ。よろしく」
少年――ポポルは、ウォーロックに簡素な辞儀をして見せる。
「お待ちしておりました。この町のことは僕に任せてください」
「俺が来るのがわかっていたのか?」
「ゴード神から仰せつかっていました。この世界は岐路に立たされているようですね」
せかい屋の主人と同じように、ポポルもウォーロックに好意的らしい。ウォーロックがエウル神を取るかゴード神を取るか、それはまだ決まっていないのだが、彼らは結論を急くつもりはないようだった。
「しばらくここに滞在する。当面のあいだ暮らす場所はあるか?」
「はい。ご案内します」




