58話 エリーナとデート。
「待ちきれなくて……来ちゃいました♡」
そう言うエリーナはデート用に新調した白いワンピースと緑色のカーディガンを合わせた装いに僕は内心…ドキドキしていた。
「エリーナ?来てくれていたんだ。」
「はい♪ソロソロかなって思って準備してから待ってようと思っていたのに……ノルったら同じタイミングなんだもん──クスッ♪」
結婚してから初めての二人だけのデートに僕は少しだけ緊張していた。それは、彼女も同じみたいでお互いに顔を赤らめつつ、手を繋いだ。
「人も多いし、手を繋ごっか……」
「はい…ぜひ!」
差し出した手を取ると僕らは同じ歩幅で町を歩いた。
「エリーナは何か見たいものとか、食べたいものはあったりするかな?」
「そうですね〜」
考えを膨らませると一つの答えに辿り着いたのか話し出した。
「でしたら…ロースト……」
「ん?ロースト!?」
「はい。ローストビーフのトロトロ煮を食べてみたいですわ!」
「了解♪先ずは腹ごしらえしてからだね!」
「では、ローストビーフのあるお店を探してみましょう♪さぁ、しゅっぱーつ!」
せっかくのデートだけど僕は女性とのお付き合いはコレが初……どんな風にしたら喜んでもらえるかをずっと考えていた。
初めての遠出だし、旅行ってわけじゃないけど、エリーナに楽しんでもらえたら……頭の中で考えを膨らませていると急に手をグイッと引っ張られた。
「うわっ!ど、どうしたの?」
「ねぇねぇ、ここなんてどうですか?私の勘が言ってます……この料理屋は美味い…と!」
見て見ると他の店に比べて誰も並んでいない。
普通は並ぶお店が美味しいって言うケド……彼女のギラギラとした目に僕はゴクリと息を呑んだ。
「よし、エリーナの勘で行こっ♪」
店内はガランとしているが、確かに彼女の言っていた通り美味しそうな匂いが店内を包んでいた。
「すみませーん!だれかいませんかー?」
僕は声を張り上げる……すると中から年配のお婆さんがゆっくりと顔を覗かせた。
「あらあら…お客さんかえ?」
「はい…」
(ちょっと失礼かもしれないが、あんなに手が震えている 本当に大丈夫なのか?!)
不安はある。しかし、エリーナは満面の笑みで椅子に座ると渡されたメニューを見ながら嬉しそうに見ているのを見て僕も注文に集中した。
「コレにします!お婆さま このローストビーフは今から作れるでしょうか?」
ちゃんと作れるかを確認する辺り……流石です!
「なぁ〜に言ってるんだい……作れるに決まってるガババ……」
老婆は話をしている最中にあるモノが口から飛び出てきた衝撃に二人は恐怖した。
「「なんだコレーーーッ!!?」」
僕は初めて見た……入れ歯が持ち主から離れる瞬間を……。