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一週間ぶりの朝

 天眼瞳子(てんげんひとみこ)。 深紅の瞳と深淵より純度の高い長い黒髪を持つ少女。 彼女が去ったあと、俺はしばらく情報を整理していた。


 彼女の話した並行世界の存在とまるで魔法のような力。 そして、世界の終わり。 振り返ると情報が膨大過ぎだと改めて思う。 膨大すぎる情報の整理を諦め、俺は明日の自分にそれを任せるとする。 現在の時刻は午前一時と数分。 俺は明日に備え、睡眠を優先することにした。一週間という期間、飽きるほど寝たというのに、俺は不思議とすぐに眠ることが出来た。




 ――夢を見た。 その夢では、野球部のみんながいた。 赤松先輩や監督、同期が見える。 仲のいい友人、卒業以来疎遠になったかつての友人見える。 家族がいた。 いつも試合に駆けつけ、応援にしてくれる両親が見える。 そして、その後ろに万を超える人の群れが出来ていた。 その正面には俺。 ただ一人。 俺は野球部のみんなを、友だちを、家族を呼ぶ。 呼んだ。何度も。けれど——届かない。 その声は、二つの空間を隔絶する見えない障壁に反射し、俺の空間だけに虚しく響き渡る――

 


 俺は夢の終わりとともに、目覚める。 目覚めた……はずだった。いや、今度こそ夢ではない——病室の天井が静かに俺を迎えた。 


 目覚めた直後、俺の目には一人の若い看護師が映った。 一通りの仕事が終わったらしく、次の病室へ行くためか、若看護師は身支度を軽く整えていた。 それが終わり、退室する間際、俺の方へ振り返る。 その時に、俺とその看護師の目と目が合う。 若看護師は驚いたらしく、肩をびくりと震わし、パタパタと俺の病室をかけ出る。 遠くの方から「せんせぇーー!!」という若看護師らしき声が響き渡る。


 若看護師が病室を出ていったあと、俺はゆっくりと上体を起こし、日の光を浴びる。 そして、ベッドに備え付けられたデジタル時計を確認する。 現在時刻は八時三十分。六時間強寝たのかと考えながら、さっき見た夢について考える。 夢にしては、具体的過ぎるそれは俺の一つの記憶になった。 奇妙な夢だったなと思い返していると、二つの足音がリノリウムを打ち、近づいてくる。 俺は、若干の緊張感で身を引き締め、その時を待つ。


 「君は一週間の間、うなされ眠り続けていた。」


 先ほど俺の病室を駆け足で出ていった若看護師につられてきた、対照的に老いた医者がそう結論づけた。 俺の身体は無事だったが、精神に異常をきたしていたらしい。 鎮静剤を投与し落ち着きを保っていたが、一週間経つうちに効きが薄くなったらしく……と医者は俺の病状を苦労話のごとく説明する。 対して、俺は他人事のように相槌を打つ。


 「ところで君の胸元の傷はどうしたんだ?」老医者が俺に尋ねる。 俺は天眼瞳子の存在について、話してしまっても良いものかと言い淀む。 が、若干ぼかして伝えることにした。


 「この傷は……。」


 しかし、この先の言葉が出ない。 発音できない。 まるで天眼瞳子に関わる情報がブロックされているみたいに。 そんな俺の様子を察した老医者と若看護師は顔を合わせ、お互いに頷く。 何か決心したのか老医者は「無理に話さなくてもいい」と俺を親切にフォローしてくれた。 そんな俺はありがたく老医者のフォローに乗っかることにした。


 「……ところで君は知っているのかね? いま日本がどうなっているのか。いま日本は……」


 「そこから先は私の仕事だ!」


 いつの間にか俺の病室に入っていたスーツの男が老医者の話を遮る。


 「すまない。 驚かせた。 私は東京災禍対策本部長、黒羽忠臣くろばただおみだ。」


 スーツ越しからでもわかるほど鍛えられた肉体。 上背は180センチメートルを優に超え、猛禽類のような鋭い眼をもつ男がそこにいた。


 「仮初英雄くん。君には話さなければいけないことがある。」


 黒羽は東京を襲った事件について語る。

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