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現実と真実

 「ごめん、話が見えない。 俺が救世主? どういうこと?」


 天眼の衝撃発言に困惑しながら、当然の疑問を天眼に投げかける。


 「まあ当然の反応だよね。 私もそんなこと言われたら同じ反応すると思うもん☆」


 天眼はケタケタと笑いながら、けったいな決めポーズを解いた。 そして、天眼は開け放たれた窓の枠に再び腰を掛け、肯定の意を示す。 仮初は自分の反応が正しいのだと安心して胸を撫でおろす。


 胸を撫でおろした仮初は、その時再び胸を傷を確認する。 それは、大きく袈裟切りされたかのように彼の胸元を大きく迸り、さらに切り口から炎が燃え広がったかのようにその傷は痕を残していた。 普通なら命にもかかわるほど大きな傷を彼女はいったいどうやって治したのか。

 

 「まぁ、それはさておき、私が君を救世主としてスカウトしたのは、君の身に起きた出来事に起因しているんだ。」


 さっきまで楽しそうに笑っていた天眼は一変、真剣な表情になり、仮初を見つめる。


  態度を改めた天眼に、仮初少年は緊張ゆえに固唾をのむ。 しかしながら、彼女の口元だけは、以前のように楽しげなのは気のせいだろうか……。


 天眼がいう英雄の身に起きた出来事。 当然、一週間前のあの事件を想起する。 思い出すだけで吐き気を催す、業火の海と瓦礫の山、おびただしいほどの人の灰塵。 形容するならば、まさに地獄の光景。


 そういえば、野球部のみんなは大丈夫なのか? 家族は無事なのか? 学校は? 友達は? 次々と仮初の脳裏に疑問と困惑の汗が浮かぶ。


 「残念ながら、君だけを残してあの地の生命は全て死滅した。」

 

 天眼はまた、口に出していない仮初の疑問に答える。 実にあっさり、答えをだす。 彼はその発言に再び呆然とした。 呆然とする彼をそのままに、天眼は話を進める。


 「君の世界は、あれを「東京災禍」と名付けたらしいね。 あの事件で東京という地の生命は全て根絶やしにされた。 ただ君だけを残してね。」天眼は追い打ちをかけるように、現実を突きつける。


 仮初はそう告げる天眼から顔を背ける。 彼女が嘘をついてるように見えない。 だからこそ、彼は顔を背けた。 目を背けた。 違う、そんなはずない。家族が、友達が……俺だけ生き残った? どうして?


 でも、天眼が嘘をついてるようには見えないのも事実。 顔を背けた仮初は混乱する情緒を必死に落ち着かせるために今までの情報を整理する。 しかし、情報の整理ができない。 したくない。 ほんとうにみんな、みんな死んだのか?! 動機が止まらずに、全身から汗が流れ出る。 ストレスという負荷が怒涛のように押し寄せる。 呼吸は浅くなり、視界がにじんでいく。知らず知らずのうちに手が震えていた。


 天眼はそんな様子の仮初を考慮したのか、しばらく間を取った。まるでこの空間には俺しかいないと思わせるほど、そのときの彼女は空気に徹していた。


 そして、はじかれた弦がその振動を自然に鎮めるように、仮初は時間経過とともに落ち着きを徐々に取り戻していった。 それはとても長く、つらい作業だった。 家族が死んだことを受け入れる時間、野球部や地元の友達が死んだことを受け入れる時間、もう二度と今までのような生活を送れないことを理解する時間。 落ち着きを取り戻すには、それらが必要だった。


 「君が理解した通り、みんな死んだ。 でも、君は、君だけは生き残った。 生き残った君だけにはこの世界の真実を知る権利がある。」


 天眼は顔を背け続ける仮初にそう告げた。


 仮初少年は未だ催す吐き気を全身全霊で抑え込む。 しばらくして、吐き気が止んだあと、彼は背けた顔を天眼に向け直した。 自然と頬を伝う涙はそのままに、話を聞くことにした。


 「ん、いい子だ。 真実を話すよ☆」


 天眼は調子を戻し、俺に世界の真実を語る。

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