表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

天眼瞳子という少女

 ――夢の最後、業火の海の中、佇む巨大な竜が俺のぼやける視界に映る。 その姿は、おとぎ話の一幕のように儚げで、それでいて現世のものとは思えない異様さを放っていた――

 

 俺が目を覚ました時、最初に目に映ったその天井は、とても無機質で飾り気のない、病室の天井だった。 なぜ俺が即座に病室だということが分かったかというと、俺の身体には点滴が打たれていたからだ。

 

 病室に差し込む月明かりを頼りに、俺は首だけを動かし周りを見渡す。 俺がこの状態で確認できるのは点滴台と丸テーブル。 点滴はそのパックの三分の二以上満たされており、静かに滴が落ちていた。 そして丸テーブルの上には、誰かがお見舞いに来たのか、リンゴやバナナの入ったフルーツバスケットが置かれていた。 しかし、この空間には俺以外の人影は見えない。 個室のようだ。


 そう理解したあと、窓の外を見遣る。 なぜかカーテンが開いていたので、外の様子を確認できた。 空は暗く、かすかに街明かりだけが覗けた。 街明かりは、地上からずっと遠い場所にぽつぽつと灯っていた、

 

 俺は首を戻し、天井を見つめる。 こういう時に「知らない天井だ」というのだろうか。 俺は寝ぼける思考に身をゆだねつつ、点滴を打たれていない右腕を天井に掲げ、おなじみのセリフをつぶやいた。 ……おとなしく脳の覚醒を待つことにしよう。

 

 脳が徐々に覚醒してきたころ、俺は上体を起こす。 おそらく寝すぎたせいか倦怠感で身体は重く、上体を起こすのにそこそこ苦労した。 背中が妙に冷たい。シーツに触れるたび、じっとりとした汗の感触がよみがえる。


 汗はすでに気化し、不快なほどに冷たい。 こんな量の汗をかくとは、悪夢でも見ていたのか。 確かに長いような短いような夢を見ていた気がするが、その内容は覚えていない。 悪夢なんてわざわざ思い出したくもないが。

 

 しかし、俺の身に起きたあの出来事が、夢じゃないことだけは確かだ。 その証拠に、俺の胸元には見覚えのない大きな傷跡が残っていたのだ。 傷は…痛まない。 がしかし、こんなに大きな傷が身体に馴染むくらいに癒えているとは、いったい何日間寝てたんだ!?


 「ちょうど一週間だよ。英雄(ひでお)くん☆」


 俺の疑問に回答をだすその少女は、ごく普通に、自然に、当たり前のようにいつのまにか開け放たれた窓のその枠に座っていた。 風が吹き込み、少女の長い髪が風にたなびく。そして、月明かりというスッポトライトに少女は照らされる。

 

 いつからいたのか、なぜ口に出していない俺の疑問を答えられたかより、まず俺はその美しい姿に目を奪われていた。


 絹のように滑らなで純白の肌と、対照的に深淵よりも純度の高く照り輝いた黒色の髪をもつ、絵にかいたような大和撫子。 しかし、深紅の瞳といたずらに覗かせる牙のような八重歯、そして軍服のような衣服に身を包んだ少女の姿は果てしなく日本人離れしていた。


 「君の傷がうまく治ってよかったよ。 私が傷を癒さなかったら、君も死んでいたところだったよ。」彼女は唖然とする俺を無視し話を続ける。


 「……一週間……寝て、いたんですか? この傷はあなたが、治してしてくれたんですか?」


 俺はそう彼女に確認する。 おそらく一週間ぶりに声帯を使ったため、初めはうまく声が出なかったが、声を出すうちにその感覚を取り戻す。 単にこの状況に困惑しているだけなのかもしれないが。


 「そそ、ほんとにうまく治ってよかったよ。 そして、そんな君は一っ週間も寝てたんだ。 まあ、正確には一週間と48秒だけどねっ☆」


 少女は嬉々として、ベッドに備え付けられているデジタル時計に指を指す。 俺もまたそのデジタル時計を確認するが、確かにあの日から一週間が経過していた。


 「あっ! 自己紹介が遅れたね。 わたしは天眼瞳子(てんげんひとみこ)☆ 並行世界から君をスカウトしに来たよ!」

 

 少女は思い出したかのように自己紹介をすると、楽し気に窓から俺のベッドの前まで飛び跳ね、見事な着地と同時に、けったいな決めポーズをとり、楽しそうにかっこつける少女。


 もしかして俺、まだ夢の中なんじゃないか? 現実って、こんなにファンタジーだったっけ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ