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驚くこと勿れ②

 「……はい?」 英雄は数秒の沈黙の後、ようやく口を開いた。


 「なに、言ってんの? 寝ぼけてる?」


 「寝ぼけてるのはそっちじゃない? だって、さっき竜技、体感したでしょ?」


 瞳子はくるりと一回転して、光の尾を残すように着地した。 その軽やかさと裏腹に、周囲の空気がわずかに震えたような気がした。


 「……まあ、正確に言えば、私は竜と人の間の竜人なんだけどね」


 そういえば、この世界に来る前、彼女は確かに「混血」だと語っていた。 だがまさか、それが“竜と人”の混血だとは、夢にも思わなかったけど……。 英雄は想起しながら、事実を咀嚼し飲み込む。 


 まあ、実際に瞳子は翼を生やして空を駆けていたので、納得感はある……か。


 「ってか、竜って何なんだ 龍とは違うのか?」


 「この世界を創った龍が、”世界の秩序を守る”ために生み出したのが竜なんだよ この世界の実質的な覇権は人じゃなくて、その竜が握っているんだ」


 世界の覇権を握っている? つまりは、細菌から草木、草食動物から肉食動物、果ては人間へ連なる生態系ピラミッドのさらに上に竜がいる、ってことか。 この世界は神に等しい龍が生み出し、命を与えられた竜が、人間に再び謀反を起こさないように人間を統治している。 人間の神をも恐れぬ底知れない悪意には、竜という超常的な生物を世界に君臨させることで、その意を削いでいるわけか。


 「そしたら、瞳子 君もこの世界の秩序を守るために――役割を果たすために、俺をこの世界に連れてきたのか?」


 「察しがいいね」瞳子はうんうんと頷く。


 「実は、この世界も君の世界同様、滅亡の危機に陥っているんだ そこで君の力が必要になってくる 君が向こうの世界で東京災禍"から生き残ったその力が」


 瞳子は英雄にピンっと指先を向ける。 俺が”アレ”から生き残ったのは、ただ運がよかったから……っていう安直な理由で片づけられるものではないのは、うすうすわかっていた。 


 「君は自分の力を知覚し、自覚する必要がある それで、はじめて君自身に根を張り、世界を救う力に昇華する」


 私が全部教えちゃったら、面白くないしね☆ 瞳子は可愛らしくウインクを決める。 けれどその目の奥には、どこか憂いの色があった。


 俺の中に眠る力……。 ”東京災禍”から俺の身を護ったであろうその力は、いったい何なのか。 瞳子は自分で認識して初めて開花するというが、未だその片鱗すらも感じない。 この世界で生きていくと決めたばかりだというのに、己の前途多難さに辟易する。


 「まあまあ、いろいろ悩んでも仕方ないよ 英雄はとりあえず“経験”が足りなさすぎるし、まずはそれからだね☆」


 「慰め、ありがと ……んっ、経験?」


 「そーそー、経験経験、……


 接敵経験☆」

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