驚くこと勿れ①
嵐のような一日が過ぎ去り、静かに朝日が地平を染める。小鳥がさえずり、徐々に町は普段の活気を取り戻していく。
それは、理想的な一日の迎え方……。とは程遠いテンションで仮初英雄は異世界来訪一日目を数える。
となりで悠長に爆睡こいている瞳子はさておき、英雄はこの一夜、まるで眠れずにいた。
エフシイの案内によって険しい獣道を降り、村に着いた後、二人残された英雄と瞳子は夜をしのぐ場所に頭を悩ませていた。瞳子はこの時すでに寝ていたため、頭を悩ませていたのは実質一人だけ、だが。
英雄は悩んだ挙句、村のはずれの小屋で夜を乗り切ることを選んだ。肩にもたれかかる瞳子を背負い、小屋の扉を開ける。使用用途は不明だが、人二人が眠れるくらいに乾草が積まれていたのでここで夜を過ごすことにしよう。
依然、爆睡な瞳子を起こさないよう乾草の上に寝かせ、英雄自身も疲労が限界まで達していたため、崩れるように乾草の上に倒れ込む。
しかし、現代の生活に飼いならされている英雄は干草の上で安眠を取るのは、非常に難易度が高かった。眠れない!! 身体は疲れているはずなのに、乾草が身体に触れる感覚にどうも慣れない。意識の内では寝ようとしているのに、無意識の内に起きてしまう。そうこうしている内に時間は着々と経過し、夜明け。
太陽が東から昇り、夜明けを迎える。結局、一睡も出来なかった英雄は昇りゆく日を眺めながら、今日の朝を迎えた。
「おはよぉ英雄。」瞳子は瞼を擦りながら、小屋から出てくる。
「あぁ、おはよう瞳子。」
「ぶふっ! はは!! すっごいクマだね、英雄。ふふっ、もしかして……私と一緒で興奮して眠れなかった? 」
ねーねーと瞳子は英雄を煽るが、瞳子は見当違いな勘違いをしているようだ。俺が寝れなかったのは断じて、無防備な瞳子を前にし、興奮したからではない!! ただ安眠をとるには、ひたすらに不向きな環境だったからだ! と英雄は喉元まで出た言葉を飲み込む。なぜなら、この瞳子の煽りに乗っかってしまえば、さらなる煽りが自らを襲うと直感していたからだ。なので、英雄は、休息を経て絶好調な瞳子のサンドバックに徹するほかなかったのだ。
「でも、こーいうときに役立つのが、竜技☆」
瞳子乾草のくずを手で払った後、両手に光のエネルギーを滾らせ、英雄に照準を合わせる。次の瞬間、英雄は微かな光に包まれる。
「どう? 楽になったでしょ☆」
「……さっきまでの疲労感が無くなっていく。」
瞳子の竜技によって、これまでの疲労が嘘のようになくなっていく。この瞳子の人間離れした芸当にそろそろ慣れた英雄は今更、驚かない。しかし、英雄の世界の常識では語れない竜技という力を、自分にも使えるのか。英雄はにわかには信じられなかった。
「この魔法は……この力は、俺も使えるようになるのか」
「私は自分の力を英雄に分け与えただけだよ。魔法なんて大層なもんじゃないよ。」
英雄を包む微かな光は瞳子が手をそらした後、役目を終えたかのようにゆっくりと霧散していく。……でもね。と瞳子は続ける。
「私のこの力は、私たちの世界のこの力は、竜と契約を結ぶことで使えるようになるんだ。この世界を創造した龍から、世界の秩序を守るために生み出された竜との、ね☆」
竜との契約。その契約という一種の重みを含んだ言葉に英雄は言葉を失う。
「あーあー、そんなに身構えなくてもいいよ。英雄、君はもう契約、済んでるから。」
「は?」英雄は思わず声を漏らす。
「だって、私が」瞳子は微笑む。「……竜だもん。」
前言撤回。瞳子の衝撃発言に英雄はただ驚いて言葉を失うほかなかった。




