エフシイという少女
……て…………きて。…………起きて……………………………。
「起きろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
英雄は、瞳子のグッドモーニング的大声という気付けによって飛び起き、覚醒する。
「ようやく目覚めたね。英雄☆」
「瞳子……。君は破天荒すぎる。」
それもそうだ。二人が空で放され落下したとき、瞳子はあろうことか減速という手段を取るより、加速という手段を取ったのだ。パラシュートを展開したかのようなゆるやかな着地ではなく、隕石のごとき激突をもってしての着地。というより、衝突。これで死ななかったのが嘘みたいだ。森の木々をなぎ倒し、窪んだ地面のクレーターの中心で英雄は確かに拍動する命に安堵する。
「楽しかったでしょ☆ 君の世界では落下死以外こんなこと経験できないでしょ☆ 命もあって一石二鳥!☆」瞳子はブイっとポーズを決め、ニカっと笑う。
「落下死も何も、今回で人生二回目だよ。地面とぶつかんのは。」英雄は瞳子の気付けのせいでズキンと痛む頭を軽く押さえ、はぁっとため息をつく。瞳子の破天荒すぎる行動にいちいち驚かなくなった英雄は自分自身に驚きつつ、瞳子のその後ろに隠れている“何か”を見つける。
「ところで、瞳子。後ろに隠れてんのは……。」
「あー、この子ね。ここに着地したとき巻き込んじゃって☆」
巻き込んじゃってじゃないだろ。てへぺろと舌を出す瞳子はいったん差し置いて、その子を見やる。一辺の木々がなぎ倒され、クレーターができるほどの衝撃に巻き込まれたのに対し、その子に目立った外傷はない。瞳子のドラゴンズ・サイン?という超常的な力に関係しているのか。などなど考察する。
「瞳子お姉ちゃん、この人は?」その子は瞳子の背に隠れ、不安そうに瞳子の顔を見上げる。
「エフシイちゃん、この人はね。仮初英雄っていうの!」瞳子はその少女と打ち解けたのか、親し気に俺のあれこれを説明し始める。
俺が気を失っている間に瞳子が仲良くなったその少女はエフシイというらしい。見た目は小学生くらいの、少女?なのか。瞳子が“ちゃん”をつけるのでおそらくは。俺にはどちらか判別できないほど中性的な外見。しかし、冷たく澄んだ特徴的な青髪であり、それが生来のものと直感できるほど自然なものだった。
「ところで、エフシイちゃん。なんでこんな時間にこんなところにいるの?」瞳子はしゃがんで、エフシイと視線を合わせる。
「……っ! それはっ……。」エフシイは、核心を突かれたかのように、言葉を失う。
たしかに月明かりだけが覗くこんな深夜のこんな森の中に一人でいるのは不自然だけど、今更過ぎる質問じゃないか。ってか、ここはもう異世界なのか。周りの環境に明確な違いがなく、その事実を忘れていた。
「……祈って、たの。流れ星に……。」
エフシイは涙を目に浮かべ途切れ途切れに、言葉を紡ぎながら。
「ママとパパが、帰ってくるって、わたし、願い事してたの! そしたら、流れ星が、落っこちてきて……。」エフシイは息を切らし、絶え絶えに言葉を伝えきる。
「……なるほどね。」瞳子は納得したかのような表情を見せるが、この世界の部外者である英雄はその納得の表情の訳がわからない。
「なるほどねって瞳子。いったい何がわかったんだ。」
「…….英雄。今、この世界では新たな龍の座をかけた戦争”第一次龍歴戦争”が勃発しているんだよ。」
「第一次……龍歴戦争。」
「そう。この世界は人類が龍に敗けた世界線だって説明したよね。そして、勝者である龍、創世龍は人類との共存を選んだ。しかし、創世龍というただ一つの存在では人類の底知れない欲を抑えることが出来なかった。」
瞳子は立ち上がり、ただ暗闇を照らすだけの月を見上げる。
「創世龍は欲深き人類を統治するために、七種の竜を生み出した。そして、竜は自らの使命を全うするため、さらに直属の眷属を増やし、その勢力を広げていった。でも、勢力を広げていくと自ずと対立が起きるよね。それは、竜も例外じゃなかった。」
「……その末に創世龍の座という明確な対立目的が生まれて、戦争が起きたわけか。」
「正解。そして、この子の両親もこの地を支配する竜の戦争のために、連れていかれたということだよ。」瞳子は月から目を反らし、足元にいたエフシイの頭をなでる。
「瞳子……それは俺をこの世界に連れてきた理由もこの戦争に関係しているのか。」
瞳子はエフシイの頭をなでるのをやめ、沈黙する。
「聞かせてくれ瞳子。俺がこの世界にきた理由を。」
「……言わなければならないね。私のことを。」瞳子はあきらめたかのようにはぁっと息を吐く。
「私はこの戦争を止めるため、世界の創造主、創世龍から天命を受け、その力を授かった龍の遣い、天眼瞳子。君をこの世界に連れてきたのも、創世龍の天命による行動であり、これから成すこともすべては創世龍が創り上げた世界を蝕む戦争を止め、果たすための使者である。」
瞳子の突然のカミングアウトに静寂が場を包み、沈黙が広がる。
「っていうのも、やるべきことがこの力を通じて伝わるだけなんだよ☆」瞳子は手に発光エネルギーを滾らせながら、自らが作り出した沈黙を、自ら引き裂き、ケタケタ笑う。
しかし、一方で英雄は困惑していた。なぜ一般人だった俺が創世龍に選ばれたのか。東京災禍から生き残ったからか。あの事件はこの世界の戦争による被害なのか。頭に無数の疑問が広がる。
「君の言いたいこともわかるよ。英雄。私も異世界人の君がこの世界に何ができるのか、わからない。しかし、創世龍は君を選んだ。そこからただ一つわかるとすれば、君にしかできないことがあるから君が選ばれたんだ。私ではなく、君が。私は君をこの世界の英雄にプロデュースする。それが私の天命。」
瞳子は続けて、君はあまり気負い過ぎない方がいい。難しいことを考え過ぎちゃうと、君自身が先に潰れちゃうからね☆ というが、英雄は自分自身に自分が知らない創世龍が求める何かの素質があるのかと、訝しむ。
「まぁ、とりあえずその疑念も時間が解決してくれるさ。英雄も疲れたでしょ。もう夜も深いし、どこかお邪魔しよう。エフシイちゃん! 森の抜け方教えて☆」
すっかり泣き止んだエフシイは二つ返事で、森の抜け方を教えてくれた。エフシイの辿る道は険しく、体に茂みの木々が刺さって痛い。瞳子の力ですぐ村に行けないのか聞いたが、力を使い果たしたらしく、ごめんね☆ とかわいらしくウインクしながら謝られた。
ようやくの思いで茂みを抜けると、木造の家が何棟か建つ村があった。辺鄙な村だが、どこか懐かしさを感じさせる風情があり、心が落ち着く。しかし、少し騒がしい。瞳子の衝突的着地による騒ぎらしいということがすぐに分かったのは、瞳子がまたもかわいらしくウインクをしながら謝ってきたからだ。
エフシイは、保護者に黙って、外に出たらしく、おばさんに怒られるっ……。と漏らし、焦り急いで帰っていった。
「俺たちはどうしようか。瞳子。」残された二人、英雄は瞳子に聞いたが、返答は来ない。瞳子? 英雄が振り返ると瞳子は立ちながら寝ていた。見事な鼻提灯を膨らませ、次第に英雄にもたれかかる。しかたなく、英雄は瞳子をおんぶし、ひとまず休めそうな場所を一人探すのであった。




