スターゲイザー
―――その日、私は初めて流れ星を見た。
夜空に大きな尾を引いて走るそれは、驚くほど綺麗で……けれど、すぐに消えてしまった。
あまりにも儚くて、まるで今の私みたいだと、そう思った。
創生龍の後継を巡る争いは、長きに渡って続き、今や苛烈さを極めている。
竜の血を引く私のママとパパも、その戦いに駆り出され、帰ってこなくなった。
……私も、いつかは戦場に立つことになるのだろうか。
でも、何の力もない私は、すぐに命を落とすだけだろう。そう思えてならなかった。
親戚のおばさんの家の窓から、星空を見上げる。
「ママ、パパ……迎えに来てよ……」
震える声でそうつぶやいても、その言葉は誰にも届かず、夜の静けさに溶けていった。
夜が更け、家の中がすっかり寝静まったころ。
私は物音を立てないようにそっと部屋を抜け出し、きしむ階段を慎重に下りた。
木造のこの家は、少しの音でもすぐに響くから。
玄関の鍵を開け、外へ出る。
おばさんには「夜に出歩いちゃダメ」と言われていたけれど、少しだけなら大丈夫。すぐに戻るつもりだった。
夜空には、星がびっしりと散りばめられていた。
私は、こういう夜が好きだった。
宝石を詰め込んだようなこの空を見ていると、少しだけ、心が温かくなるから。
村を抜け、整備されていない森を歩く。
目指すのは、ママとパパとよく星を眺めた、あの小さな丘の開けた場所。
茂みを抜けると、見慣れた風景が広がっていた。
そこに立って夜空を見上げると、不思議と二人を近くに感じられる。
……そう、かつて三人でこうして星を見上げていたあの頃のように。
「ママ、パパ……今日のお空、見てる?」
目を細めながらつぶやく。返事はもちろんないけれど、それでも言わずにはいられなかった。
風が吹き抜け、草原がざわめく。夜の冷たさが、素肌にじわりと染みてくる。
私は両腕を抱えて寒さに耐えた。
……そろそろ帰ろう。そう思って振り返りかけたとき、ふと、もう一度だけ空を見たくなった。
その瞬間――
夜空を駆ける、いくつもの流れ星が視界に飛び込んできた。
目を奪われた。
これまで話でしか聞いたことのなかった流れ星。
パパが教えてくれた。「流れ星に願いを三回唱えたら、その願いが叶うんだ」って。
私はとっさに、願った。
「ママとパパに会いたい。ママとパパに会いたい……お願い、もう一度だけ……」
ママの優しい笑顔が浮かぶ。あたたかなご飯。私の髪を撫でてくれた手。
パパの大きな背中。面白いお話。たまに歌ってくれたあの曲――
あの日々を、もう一度。
……私は、ただひたすらに、願い続けた。
でも。
流れ星は、叶えてくれなかった。
言い終える前に、次々と消えていく。
あんなにたくさんあった星たちは、何ひとつ私の願いを受け止めてはくれなかった。
……パパは言っていた。流れ星の一瞬の儚さが好きなんだって。
ママは、「本当に願う気持ちがあるなら、自分で叶えられる」と笑ってくれた。
ママ、パパ。
私、今ならわかるよ。流れ星って、まるで私自身みたい。
一瞬だけ輝いて、すぐに消えてしまう……。
私はその場に座り込んで、膝を抱えた。
あの日々に戻りたい。二人に、会いたい。
「ママ、パパ……さびしいよ……」
寒さも、時間も、忘れていた。
ただ、流れ星が流れ終えるのを、ずっと見つめていた。
けれど――
帰ろうと立ち上がったとき。
夜空に、ひときわ大きな流れ星が走った。いや、二つ――重なり合うようにして。
私は、思わず願ってしまった。
すると、その流れ星は……消えなかった。
むしろ、どんどん大きくなって、こちらへ向かってくるように見えた。
なにこれ……?
私は、ただ立ち尽くしていた。逃げるという判断すら、浮かばなかった。
そして、それは――落ちた。
爆発のような衝撃と、舞い上がる土煙。
私はとっさに顔を腕で覆い、何とか踏みとどまる。
しばらくして――
「着地、成功☆」
そんな、やけに明るい女の子の声が聞こえた。
おそるおそる目を開けると、そこには、翼を持った黒髪の少女と――気を失った男の子がいた。
男の子はその少女に首根っこをつかまれたまま、ぐったりとしていた。




