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三題噺もどき3

桃缶

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくはちじゅういち。

 


 今日も雨が降っている。


 このまま一週間ほどは雨続きなんだろうか。

 それでも別に困りはしないが、妙な疲労がまとわりつく。

 夜も降っているから、雨音のせいで若干寝不足だったりする。

「……」

 昨日はとうとう食料が心もとなくなってきたので、雨が酷くないタイミングで少々買い物に出たりもした。

 あまり大量には買わなかったが、まぁ、必要最低限水さえあれば死にはしないのでいいだろう。缶詰も何個か買ったし。

「……」

 というかまぁ、雨がこうも続くと食欲が失せてくるんだよなぁ。

 いつも以上に動かなくなるのもあるだろうけど、食べようと言う意思が動かない。

 確かに空腹ではあるんだけど、食事にありつくまでの時間が異様に長い。

「……」

 今だって、何かを腹に入れた方がいいなぁ……とぼんやり思いながらもソファにすわったまま動けずにいる。雨粒が窓を叩くさまをぼうっと眺めている。

 腹の虫が鳴ったのは体感30分ぐらい前。実際どれぐらいなのかは知らない。

「……」

 あーでも、そろそろなんか入れないとなぁ。

 空腹が過ぎると気分が悪くなるし、最悪腹痛まで引き起こしかねない。

 でもなぁ、無理して食べたらそれはそれで吐き気に襲われたりするからなぁ……。

「……」

 食事を心待ちにしていた幼い頃が懐かしい。

 まだだろうかと、楽しみにしながら食事を摂っていたあの頃が羨ましい。

 歳を重ねるにつれて、生きていくにつれて、食事に対するあの感情が薄れて言った気がする。なんというか……生きるのに必要で、生理現象として体が求めるからであって、そうでなければ食べなくてもいいし、食べたくもないと思うことの方が多い気がする。

「……」

 だからまだ、食べないとなぁ、と思える今はマシな方だ。多分。

 時間はかかれど、最終的には何かを口にしているし。酷い時は一日何もたべなかったりしたこともあるから……水だけは飲んでいた。

「……」

 しかし、何か食べようにも。ホントに何も食べる気になれない。

 空腹ではあるんだけどなぁ……とりあえず動くかぁ。

 そろそろここに座りっぱなしなのも疲れてきた。

「……」

 沈めていた体を起こし、ソファから立ち上がる。

 ペタペタと歩き、キッチンへと向かう。

 たったの数歩だが、これでも疲労が増してしまう。今日はいつも以上に身体が重いような気もするんだが……空腹を満たせば治るだろうか。

「……」

 さて。

 キッチンに来たのはいいモノの。

 何を食べようか。

「……」

 ご飯やパンの気分ではないし。お湯を沸かしたりするのも面倒。

 インスタント麺はそれで行くとナシ。電子レンジに何かをいれるのもめんどくさい。

 というかもう、皿を出したりするのが若干億劫なんだが。

「……」

 キッチンに立ち、さてもうどうしたものかと思案していると。

 視界の隅に、何かが入った。

 昨日買い物をして、片付けるのを忘れていたのだろう。

 いつもなら棚の中に入れておくものなんだけど、あんなところに置くから忘れるのだ。

 キッチンの隅の方に、桃の缶詰が置かれていた。

 ―あれでいいか。いいモノを見つけた。昨日の私ナイスだ。

「……」

 いくつか種類があって、安い方を買ったので、缶切りがいる。

 キッチンに備え付けの引き出しを開き、そこから缶切りを取り出す。

 1人暮らしを始めてすぐはいらないだろうと思い買っていなかったが、何気に必要なものだと分かったので百円ショップで買ったものだ。

「……」

 蓋に缶切りを刺し、てこの原理で開けていく。

 缶詰が憎いわけでもないが、憎き誰かや憎き天気を思いながらやると、なんとなく晴れた気分になる。こういう発散はいつでも大事だ。

「……」

 ほんの数センチほどは残しておく。缶切りは後で軽く拭くとして、とりあえずそのあたりに置いておく。このまま忘れそうだが。

 手を切らないように注意を払いながら、缶詰の蓋を開ける。

 中身は、黄桃である。黄色の、瑞々しい果物が缶詰の中に詰まっている。

 シロップに浸かったそれが、いかに甘いものか容易に想像がつく。

「……」

 シンク横に置いてある、箸立ての中から、小さめのフォークを探し出す。

 いちいち片付けるのが面倒で、箸やフォークなんかは基本ここに立てっぱなしだ。

 来客用のものは片付けてあるが、そもそもそんなに来ないので使うことはない。

「……」

 皿に取り出そうかと思ったが、めんどくささが買ったので、そのまま頂く。

 缶詰の中にある黄桃をまずは半分に割る。

 そのまま一口サイズまで割ってから、フォークを刺し口に運ぶ。

「……」

 口内で広がる甘みは、けして気分の悪いモノではなく。

 心地のいい甘さとして残り、飲み込んでもまた一口食べたいと手が伸びる。

 先程までの食欲のなさが嘘のように掻き消え、まるまる一缶食べきってしまった。

 ホントのところは、タッパにでもいれて何日か食べようと思っていたんだけど。

「……」

 まぁ、空腹は満たされたし。

 糖分を摂ったおかげか、少々気分もよくなってきたし。

 また雨が止みそうだったら、買い物に行けばいいし。

「……」

 とりあえずは、自分のご機嫌取りができたので。

 よかったかもしれない。






 お題:憎い・フォーク・心待ちにする

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんか不思議な小説ですね。 と感じる私はバカなのでしょうか?
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