『赤い稲妻』と『カイン』 ACT 11
煙草の煙を吐いたカインは、頭を振った。
煙草を挟んだ指は震えている。
奥歯は音を鳴らしている。
呼吸は浅く、酸欠気味なのか少し顔色が悪い。
額は汗に濡れている。
疲労の気配も強い。
追い込まれていると言った風だ。
神谷真理は周囲を警戒しながら横目で彼を視界に収めている。
「長時間の戦闘は苦手か?」
神谷真理は顔は向けずにそうカインに問いかけた。
カインは首を振った。
「いや、そうじゃない。半年間の単独任務を任せられるんだからな、そこは平気だ」
「なら、どうした? 今回の話が核だからか」
「……そうかもな」
カインは煙を吐いた。
やはり、その言葉は震えていた。
「ここに置いていくわけにもいかん、無理してでも来てもらうが」
「おいおい馬鹿にするなよ。最後まで付き合うさ」
「……そうか」
カインは浅い呼吸に紛れた煙を吐いた。
しながら彼は懐から端末を取り出す。
それを操作する。
「……メールか? 傍受される可能性があるから控えろ」
「あ、ああ、そうだな。少し、友達にな」
「……お前、凄い汗だぞ。落ち着けよ」
神谷真理は腰の収納に手を入れる。
そこから取り出したのは金属ケースに入れられた飲料だった。
それをカインに差し出す。
「お前、水分補給とかしないのかと思ってたぜ」
「極力しないようにしているだけだ」
カインの軽口を聞き流し、ケースを揺らして見せる。
端末を仕舞ったカインはそれを受け取り、キャップを開ける。
「ああ、日付変わっちまってるのか。夜明けまで、残り六時間ほどだ」
カインが言って、水を口に含んだ。
「夜明けがどうした。早く帰りたい用事でもあるのか」
「……深い意味はない。ただ、少し眠いだけだ」
「……お前、様子がおかしいぞ。精神鑑定を最後に受けたのはいつだ」
「半年前だ。任務中には受けられないだろ」
「制度上の問題点だな。帰ったら確実に精神鑑定を受けろ。多分お前は今、あまり正常ではない」
「今、か。ずっと前からかもしれない」
「……もう無理はするな。付いてくるだけでいい」
神谷真理はカインを振り返った。
そして腰を落とし、カインと目線を合わせる。
カインは顔の前で掌を振った。
「気を遣うな。ただ、本当に疲れてるだけだ」
「あと3分で動くぞ。行けそうか」
「……大丈夫だ。なら、3分間話そうか」
「それで落ち着くならそうしろ」
神谷真理は再び立ち上がってカインに背を向ける。
「もし、今お前に何か、納得出来ない何かがあったとして、どうする」
「抽象的過ぎるな。心理テストか?」
「定期的に流行るよな。そうじゃない。じゃあ仮にだ。時間が戻って、復讐する前に行けたとしたら、お前はどうする。もちろんお前はそのことを理解してるし記憶も同じだ」
「……嫌に、その話に拘るな」
「……」
神谷真理は、少しだけ黙った。
考えて、ネックウォーマーを持ち上げて口元を隠した。
そのネックウォーマー越しに、左頬に触れる。
ゆっくりと、ネックウォーマーに覆われた口が動いた。
「恐らく、また俺は同じことをする」
「どうしてもか? また、逮捕されるかもしれないのに」
「……そんなのは最初から想定してる。だが自分の人生や、家族の人生を懸けてでもやる必要があると、そう思ったんだ。そう、何かに後押しされたんだ」
「その何かっていうのは」
「……わからない。だが、俺はあれを間違いだったとは思っていない。正当性を主張する気もないが」
「……じゃあ、もし、お前が今度は逆の立場だったらどうする?」
「逆?」
神谷真理は顔を半分だけ振り返って横目でカインを視認する。
「反逆者を阻止しろって任務をお前が請け負ったらだよ」
「やるさ。あの時俺を止めようとした奴らがいたように、俺にその役目が振られたのなら、俺はやる」
「……どうしてお前はそこまで強くあれる」
カインの言葉は強く震えている。
手も足も、震えている。
極寒の中にいるかのようで、逆に、灼熱に焼かれているかのような汗をかいて、彼は震えている。
カインは煙草の火を地面に擦り付けて消す。
「行けるか」
立ち上がったカインに神谷真理は問う。
カインは頷いた。
「3分だ。約束だろ」
カインの言葉に神谷真理は頷き、カインの肩を掴んで揺すった。
「無理に戦わなくていい。俺がやる」
「残り300人をお前一人でか? 2万人に追われても戦い抜いた奴の言葉は重いなあ」
「……」
神谷真理が歩き出す。
その時、神谷真理に無線。
『敵の戦闘隊が周囲に展開。待機していた別動隊が戦闘を開始した。お前の任務に変わりはない。続行だ』
神谷真理はカインを振り返る。
「300人よりは減りそうだ」
「そうらしい」
カインは苦笑いし、神谷真理は鼻を鳴らして、共に走り出した。




