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『赤い稲妻』と『カイン』
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『赤い稲妻』と『カイン』 ACT 10

 戦闘を行った旧炉室から出て、敵の痕跡を辿る。

 手榴弾により転がった瓦礫とその埃で人の動線は推測出来る。

 その前に全ての部屋を索敵し敵が残っていない事を確認してある。

 埃を踏んだ足跡を追跡。

 本来隠密時であれば訓練された兵士は自身の足跡を残さないように徹底するが先程は戦闘状態で、急いであの場から撤退する必要があった。

 敵の痕跡は十分以上に残っていた。

 神谷真理はゆっくりと歩き、その痕跡を辿る。

 照明が不規則に点灯した廊下は、却って濃い影を生む。

 この照明が規則的に不規則だ。

 その影を辿って、神谷真理は壁を叩く。


「二度同じ手は食わん」


 言って、神谷真理が押した壁は扉のようになっていて、奥に開いた。

 そこは土がむき出しになった壁や床、天井で、そのまま穴を掘ったような通路が広がっていた。

 それ故、敵の足跡が無数に残っている。

 二人は頷き、進みだした。

 通路は少しずつ下っている。

 例のシャフトの、その先に繋がっていると考えて良さそうだ。

 二人が列になって何とか歩ける程度のその道は、二人に圧迫感を与える。

 前後から挟まれれば、逃げ場はない。

 神谷真理はカインの呼吸の感覚が浅くなるのを感じている。

 だが、振り返ることなく進む。

 施設に侵入してから三時間が経過している。

 神谷真理は舌打ちした。

 日付が変わるまで残り二時間程。

 敵の動きが読めない以上、時間にも余裕はない。

 敵の数も、目的も現状不鮮明であるなら、ここで手間取っている余裕はない。

 カインもそれはわかっている。

 だから何も言わないのだ。

 幸いにも、その後一時間、通路が終わるその時まで敵には遭遇しなかった。

 開けた場所に出た。

 照明が煌々と照り付けられたその場所はあまりにも広く、大きい。

 多くの車両が行き来した形跡がある。

 物資が置かれていた形跡も相当な数ある。

 だが、その全てが撤去されていた。


「遅かった。管制官、敵の物資格納庫を確認した。だが車両、物資全て残っていない。外で敵の動きは確認されているか」


『いやこちらでは確認されていない。地下空間はお前たちの動きでマッピングしている。恐らくだが、核兵器運用のための広い場所に続いていると思われる。お前たちが見たという多連ロケットシステムの車両はそこに向かった可能性が高い。推測されるポイントはいくつかあるが、どれもそこから数キロ離れている。部隊を割いて向かわせる。だが、確実に追跡出来るのはお前しかいない。先は長い。急いでくれ』


「核兵器のアラートは」


『今はない』


 無線を切った。

 余程広大な施設のようだ。

 敵の技術力と開発能力は想定以上かもしれない。

 神谷真理は周囲を確認しながら進んでいく。

 広大なその空間の壁に沿いながら進み、反対側の大きな通路の入口を目指す。

 神谷真理の眼帯を着けた左目が、強い痛みを発する。

 彼は眼帯を外して、その入り口を見る。


「ケイン、もう引き下がれないぞ。大隊が、そこにいるようだ」


 振り返った神谷真理に、カインは頷いた。


「最初から、もう引き下がれない所に来てんだよお互いに」


 神谷真理は頷いた。

 弾倉の残弾を確認し、チャンバーチェックも実施する。

 カインも同様に行う。


「長い混戦になる。可能な限り、敵の銃、弾丸を使え。疲労した時の不慣れな銃の扱いは通常よりも困難になる」


「鹵獲の常だ、わかってるさ」


「死ぬなよ」


「お互いに」


 二人は駆け出した。

 照明のついた通路に同時に飛び出して左右の壁にそれぞれ貼り付くように構える。

 敵の銃弾が二人の間を突き抜けるようにして通り過ぎた。

 広い通路だ。

 敵が横一列になれば銃弾の波に押し潰される。

 敵の拡散を防ぐ銃撃を優先的に行う・

 カインが通路の中心付近に走らせるように弾丸を放つ。

 神谷真理が左右に向けて交互に弾丸を放っていく。

 そうしながらもゆっくりと敵側に進んでいく。

 敵の攻撃は二人の弾丸を避けつつも継続されるがやはり緩慢となる。

 手榴弾が飛んでくるが、神谷真理は一瞬の無駄のない照準で手榴弾を撃ち抜いて押し返す。

 弾かれた手榴弾が転がっていき起爆、敵の悲鳴が通路に響いた。

 左右に横道が出現した。

 神谷真理が前に出る。

 カインは即座に左右に交互に撃つ牽制射撃に移行。

 横道から顔を出した敵の首に神谷真理は仏陸軍小銃の負い紐を絡めて一気に引く。

 バランスを崩して体を曝け出した敵の腹部に膝蹴り。

 その勢いのまま地面に叩き付ける。

 仏陸軍小銃を構え直すと同時に足元に倒れた敵の首を両足で挟み、自分の体を捻らせるようにして首の骨を折る。

 短い空気の漏れる音を鳴らした敵はそのまま動かなくなる。

 姿勢を低く、膝を付いた神谷真理は左手を仏陸軍小銃から放し、敵の小銃の負い紐に伸ばす。

 射撃を続けながらバックルを外し、小銃を手に取る。

 足で押さえて左手でチャンバーチェック、チャンバー内の弾丸と弾倉を抜き、敵の懐に収められている弾倉と交換。

 ついでに数本弾倉を抜きそれを後方にいるカインの方に滑らせる。


「受け取った。レアものだな、AK-12か」


 カインが言いながら銃を持ち替えた。

 後方からの銃声の質が変わった。

 カインの銃撃が再会されたのを確認して横道に飛び込んだ神谷真理は目の前にいた敵の顎に掌底、仰け反った敵の首に左拳を放った。

 そのまま後ろ回し蹴りで敵を薙ぎ倒す。

 その後ろにいた敵が小銃を向けるが彼が腰から抜いた拳銃を放つ方が圧倒的に速かった。

 拳銃弾を食らって崩れ落ちる敵を支えて盾にする。

 敵の脇から仏陸軍小銃の銃口を出しそこから射撃する。

 そうしながらも左手で盾にした敵の小銃を抜き取り、指の感触でチャンバーチェック。

 弾倉を抜いて新しいものへ交換。

 チャンバーの弾丸も抜き、槓桿を引く。


亜音速弾短小銃(AS-VAL)か。スペツナズがいるな」


 言いながら仏陸軍小銃を背中に回してを構える。

 敵の攻撃は激しい。

 神谷真理は弾倉を拾いながら戦い、少しずつ数を減らす。

 だが、深追いは危険だ。

 横道に入って単独で進むわけにはいかない、射撃を継続しながらゆっくりと後方に下がった。


「何人倒せた? こっちは8人くらいだ」


「俺も同じだ。連中、スペツナズも交じってるぞ」


「ああくそ。ロシア随一の強面じゃないか」


 背中合わせにそれぞれの通路で合流した彼らは向きをそのままそう言って、元の針路に戻る。

 横道から追ってきた敵が二人に追撃するが、全てを捌いていては時間が足りない。

 移動を優先し、彼らは後退りしながら攻撃する。

 左目の痛みを覚えて神谷真理は眼帯を装着した。


「ドーピングタイムは終わりか? なら、俺ももう少し頑張らないとな」


 カインはそう言って、射撃を強めた。

 何となくだが、神谷真理の左目に時間制限があることを認識し始めたようだ。

 神谷真理の左目は驚異的な視力を保有する。

 右目と左目では見え方が根本的に異なる。

 色合いどころの話ではなく、根本的に、見えているもの(・・・・・・・)が異なるのだ。

 それは空気その物を見ているともされている。

 故に、両目で物を見た時、彼の脳は視覚情報の辻褄合わせを行う必要があり、それ故に負荷が強い。

 彼の目が痛み出すのはその負荷を体が認識し始めた証拠で、限界値は二時間とされている。

 しかしそれは本来弱点となりうる情報だ、カインはその情報は与えられていないはず。

 察した、と言う話だろう。

 神谷真理は鼻を鳴らして射撃を再開する。


「俺達、良いバディになれてると思わないか? お前とドイツ軍時代に出会えていれば、何か違う未来があったかもな!」


「もしもの話は好かん。ドイツ時代も知らん」


「今は一緒にいるだろってことか? 素直じゃないな」


 からかうような言葉に神谷真理は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 敵は無数に押し寄せる。


「余程俺達を行かせたくないらしいな」


「先からも来やがった。ケイン!」


「後ろは任せろ!」


 神谷真理は向きを変えて進行方向に銃口を向ける。

 無数の人影がそこにはあった。

 背中越しに感じるカインの呼吸が荒くなっている。

 緊張感が限界に達しているのだ。


「少し頑張れ」


 神谷真理はカインの背中を肘で小突いて一気に走り出す。


「『稲妻』!」


 銃声の中でカインの叫び声が響いた。

 しかしそれでは止まらない神谷真理は敵の銃撃に地面にヘッドスライディングするように回避して一気に接近する。

 一番近くにいた敵の足を神谷真理は掴み、遠心力で地面に弧を描くように回る。

 半回転したところで体を捻らせて右手で自分の体を叩き起こしその勢いで敵の側頭部を蹴りつける。

 バランスを崩した敵の首にかけられた負い紐を後ろから一気に引く。

 神谷真理によって背負い込むようにして引き上げられた敵の小銃は持ち主の気道を圧迫する。

 負い紐を左手に持ち替えてそのまま敵の群れに突っ込み、動揺している敵に亜音速短小銃を向ける。

 背中からの攻撃を少しでも守るためだ。

 一番近い敵の首筋に弾丸を放つ。

 亜音速弾は首を貫通して後方に血をまき散らす。

 その血を浴びた者達が一瞬怯んだ。

 その一瞬を逃す彼ではない。

 左手を離して解放された敵を、入れ替わりに掴んだ拳銃で目視もせずに撃ち抜く。

 拳銃を戻しながら血を浴びて怯んだ敵に突っ込み抱え込んだように構えた亜音速短小銃を放つ。

 頭頂部から弾丸が貫通した敵は即死して神谷真理の方に倒れてくるが腰のベルトを掴んで右から接近してきた敵に押し付ける。

 人一人の体重に咄嗟に耐えられなかった敵は背中から倒れ込んだ。

 一歩だけ前に出て今度は左の敵二人に弾丸を連続して放つ。

 一瞬で首を正確に撃ち抜かれた敵はそのまま崩れ落ちる。

 そして今度は正面。

 神谷真理は踵を軸に一瞬で向きを変えて先程死体で押し倒した敵を死体越しに踏みつけて飛び、壁に飛びついて更に壁を蹴りつけて飛ぶ。

 正面で盾を構えた三人の敵の内、真ん中の一人に飛び掛かり、盾の上辺を掴んで無理矢理捲る。

 前のめりになり顔を出した敵の顔面に銃口を押し付けて引き金を引く。

 即座に手を引き、右足で盾ごと蹴り飛ばす。

 次いで左右の敵。

 同じく盾を構えている。

 真ん中の敵を蹴り飛ばしたことで敵の目線がそちらに逸れた。

 その隙に彼は身を伏せる。

 盾はクリア素材を使用されている。

 だが、それでもそこに物体がある以上文字通り物理的な死角が生まれる。

 敵は神谷真理を見失った。

 反応が遅れる。

 一秒にも満たない時間。

 だがやはりその時間で神谷真理は今度は下から盾を押し上げる。

 敵が抵抗する間もなく太腿、足の付け根に連続でナイフが突き刺さった。

 一気に急所を攻撃された敵は盾を落とす。

 今度は開いた脇にナイフを突き刺し、一気に引き抜く。

 血を吹き出した敵はそのまま下に落下するようにして倒れた。

 まだ反応出来ていないもう一人の盾は神谷真理に向いてもいない。

 つまり体を晒している。

 直ぐに右足で膝を蹴りつけてバランスを崩させる。

 低くなった敵の頭に同じく右足の太ももと脹脛で挟み込むようにして掴み、体重を掛けて俯せに倒す。

 その背中にナイフを突き立てた。

 だが敵もやられたままではない。

 更に現れた敵が神谷真理に向けて銃撃を開始した。

 しかし神谷真理は怯まない。

 神谷真理は、多勢に無勢の戦闘に極端に長けている。

 判断にあまりにも躊躇がない。

 この展開にも一瞬の迷いもなく走り出し、接近する(・・・・)

 横一列に四人で並んだ斉射。

 だが彼はまた走りながら地面に伏せるようにして弾丸を回避する。

 もちろんすぐに敵が照準を調整してくるので横に転がって勢いを保ってまた走り出して壁に飛びついてまた飛んだ。

 空中で側転するようにして飛距離を伸ばした彼は落下に敵の一人を巻き込んだ。

 そこから素早く前転し、並んだ敵の後ろに出た。

 振り返りざまにフルオートで弾丸をばらまき敵を薙ぎ倒す。

 弾倉を交換してすぐに射撃を再開する。

 フルオートで敵を押さえつける。

 左手で手榴弾を抜き、放り投げる。

 敵の懐からも手榴弾を取り、放り投げる。

 爆発音が二回、彼の鼓膜を叩いた。

 その後、静寂が起こった。

 直ぐにカインが合流してくる。


「おいおいお前化け物かよ! 見てたぞなんだよあの動き、ワイヤーでもついてんのか!?」


 カインが膝立ちで銃を構える神谷真理の頭上で掌を数回行き来させる。

 舌打ちをした神谷真理は立ち上がる。


「横道の敵は全員撤退したらしい。危なかったぜ」


 神谷真理は煙草を咥えた。


「今のでもせいぜい合わせても40人程度だ。まだ300人以上いる。敵がここにある物資を全て移送が終わっているのだとすれば埋め建てられるかもしれない」


「生き埋めは勘弁だな。急ごう。あと何ラウンド続くんだか」


 カインの足は震えていた。

 神谷真理は煙草に火を点けた。


「本当にお前、大丈夫か?」


「大丈夫だって。体力的にはまだ十分戦える。ただ、少し気疲れしてしまってる」


「……」


 神谷真理は煙草を差し出した。


「一旦休め。俺が警戒する。座れ」


 言われたカインは頷いて自身の前で手を揺らして見せた。


「……もらうよ」


 言って彼は神谷真理の煙草を受け取り一本抜き取った。

 腰を下ろして、神谷真理の差し出したライターを受け取る。

 深く吸い込み、カインは、舌打ちした。

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