調書報告・06
「バイクでヘリに突っ込む、というのは、どういう思考だったんだい?」
ミッチェルが頬を引き攣らせながら言う。
神谷真理は鼻で笑っている。
棒付き飴を口内で転がし、答える。
「それが確実だと思ったんだ。これも、理性って奴なんだったんだろうな」
「あくまでも、目的に向けた最適解だけを弾き出す理性、か。なるほどね」
二人は訳知り顔で小さく笑った。
「確かに追跡しながらだとヘリに向けた射撃も難しいし作戦行動範囲から離脱されたら元も子もない。位置的にもヘリに対する確実な有効打はバイクでの衝突か。ま、理には、適っているとも言えるかな」
言えるとは思えないが、恐らくそれはもう、長年神谷真理を見てきたからこその「慣れ」もあるのだろう。
それは言い方を変えるのならば、「信頼」である。
「だがあの時に君を受け止めるために『暴風雨』が一緒に飛び出したのは意外だったね」
「でも意味なかったけどな」
「ただ一緒に落ちただけというね」
二人は乾いた笑いを発する。
棒読みの笑いである。
「まあその後三人に救助された君たちは敵の本隊との戦いへ向かった訳だね」
「この時に『夜』の話題が出たんだったか」
「ブギーマンの最大の因果にして、世界にとっても『愛国者』に次いで現れた最悪の支配者、それに最も近づいた存在だ。君達が、休む間もなく闘いの日々に突入するきっかけともなった存在だね。まあでも君達が直接戦うことになる相手でもない。置いておこうじゃないか」
「とばっちりもいいところだが、まあそうだな」
神谷真理は忌々し気に棒付き飴を嚙み砕いた。
「そういえば、それこそこの少し前だよね。君がрассвет、少佐と再開する応援任務があったんだったね」
「ああそうだな。『愛国者』戦争か。その掃討戦に参加したんだったな」
「世界全てを懸けた未曽有の最終決戦。敗北が決定し、公表と避難勧告を余儀なくされた『最終防衛線』と当時の政府各機関は一度は諦めた。20分後に公表すると宣言までした。だが彼女、いや彼女たちはその20分の内に戦いを終わらせるきっかけを作って見せた」
「伝説の狐のねぐらの最後の戦いか。カッコウは、そこで死んだんだったか」
「失うには惜しい人物だった」
「その戦いの後に俺を含めた一般隊員数名が掃討戦に参加した。しかしその時点で敵のほとんどに戦意はなかった。無意味な応援だったと思う。だが、あの時の少佐は、酷くやつれていたな」
「あの戦いで生き残ったのは116名だ。元々『最終防衛線』は彼女が入隊した時には300万近くいた。それが二度の大戦でそこまで殉職したし、そのどちらにも彼女はいたんだ。心は擦り減るだろう」
「そうだな」
神谷真理はコーヒーを啜る。
「だが結局、少佐達があの戦いを終わらせた。その後はブギーマンが台頭し始め、『最終防衛線』の役割すらも塗り潰す勢いだった」
「それと並行するようにして君ら『あだ名付き』もその名を広めていった。もう誰もがあだ名付きを知っている。良くも悪くも注目の的。そんな時だったな。あの任務は」
「あいつ、か」
「イタリア戦からわずか二週間後、君は『あだ名付き』として初めて一般隊員とのペアを組んでの任務となった。君が世界を救ったと誰もが認めるに至った任務を、次は語ってもらおうか」
「……俺が核に関わった、二度目の任務だった」
神谷真理は、天井を見上げた。




