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調書報告
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調書報告・05

「あの時の彼らは、君の奥さんが出産を目前に控えているという情報を聞いて少し大人しくなったんだよ。君たちの関係はあの時点で半年、他の人間は彼らを拒否していたが君は拒否はしても拒絶はせず、なんだかんだ言いつつも放っておかなかった。だからじゃないかな? 君が戻ってくることを明らかに嫌がっていた」


 ミッチェルは頬を緩ませてそう言った。

 心なしか彼も嬉しそうな雰囲気を出している。

 しかしそれを聞く神谷真理の顔は信じられないものを見るかのように歪んでいた。


「そうかあ? ぐちぐち言う奴がいなくなってそれを長引かせたかっただけだと思うぞ。そんな、人情溢れる奴らかね」


 神谷真理の言葉にミッチェルは顎に手を当てて目線を上に向けて考える。

 神谷真理も考えてみる。

 結論「そうかもしれないしそうでないかもしれない」。

 良くも悪くも気まぐれの気分次第の自分勝手。

 それが彼らであり、彼らたる由縁なのだ。

 ミッチェルは続ける。


「『あだ名付き』開始から半年。彼らの奇行により一般兵士からは畏怖や嫌悪の対象となっていた。彼らによる死傷事件も発生していたが、それを上層部が不問としたのも、拍車をかけていた。その状態で第二回『Z』戦だ」


 神谷真理は頷いた。


「君が参加してでも、君たちはやはり『Z』には勝てなかった。彼らが撤退したから撃退した、と記録されているが実際にはただ見逃されたと言った方がいい。むしろ、あのタイミングでの撤退は君を待っていた(・・・・・・・)のだろうね。今ならそう思える。敵は、君が現れるのを、君の狙撃を待っていたんだろうね」


 神谷真理は、そうかもなと笑った。


「あいつなら、やりかねない」


 神谷真理はそう言って、懐かしいと言いたげに薄く笑った。

 ミッチェルも笑った。


「あの時君の合流時の戦闘の激動ぶりを見て『鯱』が君のことを『赤い稲妻』だと表現した。これは君の頬の傷跡が赤く発色することに由来するが、しかし稲妻と呼ばれたのは君の近接戦闘の速さ、激しさにあった。一般隊員も『あだ名付き』も、一度は昔の君と戦ったことある『鯱』ですらその激変ぶりに驚いていたんだ。あまりにも、君の近接戦闘は常軌を逸していた。速さ、攻撃性、倒す際に選ぶ方法の残酷さ、そこに他『あだ名付き』と通ずる狂気性があった。その狂気性が、まるで高威力の落雷のようで、その攻撃力を表すとしては稲妻は、正に適切な表現だったろう。な? 『赤い稲妻(レッドライトニング)』」


 ミッチェルはからかうように笑う。

 神谷真理は、右の口角を歪めて苦笑いを浮かべつつ鼻を鳴らした。

『赤い稲妻』。

 彼の今の名だ。

 この名前は、今では『語られない特殊部隊(ブラックオプス)』で彼の名を知らない者は限られていると言われるほどだ。

 伝説の狙撃手。

『あだ名付き』最強の戦士であり指揮官。

 26歳にして戦闘実績だけで大尉にまで上り詰めた男だ。

 彼は自分の狙撃銃(AWM)をつついた。

 ミッチェルは「話を戻そう」と切り替えた。


「ただでさえ嫌われていた『あだ名付き』達は二度の敗北をもって本格的に一般兵士からの反感を買ってしまった。除隊、または厳正なる処分を求める声がそれ以前の数倍にも跳ね上がった。毎日幹部連中の会議室に嘆願に来る者まで現れ、処分や対処が行われないのであれば自分たちが除隊すると名乗り出る者まで現れた。さすがに状況を重く受け止めた上層部も悩んだ。結論として、せめて被害を抑えるために『あだ名付き』の分断を決定した。各支部に2~3人という分配。ここ、本部だけは君と後に『ガンギマリーず』と呼ばれたテイラーに縁のある五人と、『悪魔の巫女』、『鯱』、ちーこと『不明』、『シャルル』、管理する名目で『破壊』の十名が残った。まあそれはまた次に話そうか」


 ミッチェルはコーヒーで口を潤す。


「次は、君たちが分断される前の、最後の任務、だね。それを語ってもらおう。ガンギマリーず結成に至った君達五人の、イタリアの戦いだ」


 神谷真理は、コーヒーにスティックシュガーを一度に五本流し込みながら「あ~」と思い出すような顔になる。


「懐かしいな」


 言って、コーヒーカップを揺らして攪拌する。


「あれは、イタリア大統領暗殺阻止任務だった」

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