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『あだ名付き』達と『Z』戦
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『あだ名付き』達と『Z』戦 ACT 5

 神谷真理は再度岩場に沿って狙撃銃(AWM)を構える。

 接近している敵の攻撃ヘリがスコープに収められている。

 正確には、ヘリの、操縦席だ。

 それに向けて、神谷真理は真っ直ぐに目を向けて、呼吸を行う。

 吸って。

 吐いて。

 吸って。

 吐いて。

 低空飛行の敵攻撃ヘリ。

 数は五機。

 一機を倒した所で戦力的には意味はあまりない。

 しかし、戦術的(・・・)には意味がある。

 敵は神谷真理らが対空兵器や対物戦闘能力がないと思っている。

 故に、ないと思っている物が実はあると思わせる(・・・・)必要性がある。

『白い悪魔』に神谷真理がやらせた別角度に敵がいると錯覚させる射撃と同じだ。

 神谷真理らに対空能力があると思わせる。

 それを脅威として認識した一瞬の警戒に撤退を進めるのだ。

 この作戦の可否は、神谷真理のこの一発に掛かっている。

 再び弾倉を抜いて、ボルトを引いて薬室(チャンバー)内を確認。

 弾丸が入っていることを確認してボルトを押し戻す。

『あだ名付き』達は戦闘を継続している。

 しかしやはり苦戦しているようで、徐々に押されている。

 このままではどのみち負ける。

 攻撃ヘリが来る前にも押し倒されかねない。


「これから攻撃ヘリを一機落とす。すぐに合図するから第三中隊の下へ走り、第一、第二中隊の撤退を支援しろ」


『壁になれってんだろ。難しい言葉使うな』


 無線機越しのそんな悪態を無視して神谷真理は深呼吸をする。

 吸って。

 吐いて。

 吸って。

 吐いて。

 銃口が上がり、下がりを繰り返す。

 規則的に動く視界をの中で神谷真理は攻撃ヘリを見ている。

 狙撃には高度な計算が必要だ。

 距離に対する弾道の計算。

 湿度や気温、風向、風力。

 距離によって地球の自転などの計算も必要になる。

 加えて攻撃ヘリの狙撃となればなおのことだ。

 ただ当てるだけなら違う話だが、操縦士をダイレクトに撃つ、命中させるとなると難易度は跳ね上がる。

 ヘリを浮かせている主翼から発生する浮力、つまり強大な風圧がある。

 その状態で操縦士を撃ち抜くなど不可能に近く、少なくともそれを進んでやろうと考える人間などそういはしない。

 だが神谷真理は違う。

 神谷真理には、見えている。

 攻撃ヘリの操縦士が。

 他のあらゆる環境の情報が。

 神谷真理の左目には見えている。

 神谷真理は、左目で攻撃ヘリを見ている。

 銃口を少しだけ持ち上げて。

 吸って。

 吐いて。


「撃つ」


 吐いて。

 吸って。

 引き金を素早く、真っ直ぐに引き絞った。

 強い銃声。

 衝撃で神谷真理の周囲の砂が小さく舞った。

 銃口から初速秒速850mの速度で打ち出された.338ラプアマグナム弾は加速しながら空気を突き破って進んでいく。

 約2.9秒後、少しだけ孤を描いて進んだ弾丸は敵迫撃砲の頭上を通った敵攻撃ヘリの機体に直撃した。

 神谷真理の位置へも届くほどに強い、何かが割れるような音を響かせた攻撃ヘリは、暫くそのまま飛行し、高度を急速に落とし、地面にその機首を突き刺した。

 九十度近い形で突き刺さった攻撃ヘリはそのまま主翼に残った推力でその機体を更に跳ね上げて半回転する形で倒れた。

 機体を普通とは逆の形の地面に置いた攻撃ヘリ。

 それを見て敵攻撃ヘリ編隊は高度を一気に跳ね上げた。

 回避行動。


「撤退!」


 神谷真理は無線に向けて叫んだ。

 瞬間戦線の『あだ名付き』達は一気に戦線を離脱して第三中隊の方へ向けて走り出した。

 第二中隊へ攻撃を集中させていた敵勢力は急速接近し始めた『あだ名付き』に意識を一瞬取られた。

 そのタイミングで第一、第二中隊は一気に行動を開始した。

 直ぐに敵勢力は第二中隊を追う素振りを見せたがそこに合流した『あだ名付き』たちが少し遅れて乱入。かき回していった。


「攻撃は最低限。あくまでも撤退行動だ。逃げながら戦え!」


 神谷真理の無線を聞いて『あだ名付き』達はまたもそそくさと乱入した敵勢力の輪から抜け出していく。

 敵はその行動の不規則さに戸惑い、攻撃力が衰えた。

 神谷真理も走り出して『鯱』たちへ合流へ向かった。

 無線が響く。


『「復讐の虎」、敵勢力が一気に後退を始めた。これ以上の攻撃はこちらの損害も激しいため追跡はしない。我々の負けだ』


 ミッチェルだった。

 神谷真理は走りながら答える。


「結局あいつらは、『Z』とは一体何者なんだ」


『……わからない。目下調査中だ』


「『あだ名付き』でも、勝てない実績を作ってしまったぞ」


『……どうにかするさ。少なくとも、撃退は出来たんだ』


「……そうか」


 その時、神谷真理の左目が痛んだ。

 強烈な頭痛のような症状。

 神谷真理は「もう二時間経ったのか」と呟いた。

 外した眼帯を左目に着け直して右目だけになる。

 神谷真理は狙撃銃を背に回して走り続けた。

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