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『あだ名付き』達と『Z』戦
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『あだ名付き』達と『Z』戦 ACT 4

 神谷真理は狙撃に専念していた。

 撤退を開始した第一、第二中隊は変わらず苛烈な攻撃を受けて遅々として撤退が進んでいない。

 神谷真理の頬にまた汗が伝った。

 敵重迫撃砲部隊の狙撃はほぼ完了した。

 交代でやってきた者を確認し次第狙撃する作業を不定期で行う必要はあるが実質的に無力化している。

 しかしそれ以外の兵器や兵士もまだまだ健在。

 第三中隊は第一、第二中隊の援護、防衛しか実質出来ていない。

『あだ名付き』の百人が何とか戦線を維持している形になってしまっている。

 しかし、スコープ越しに見る『あだ名付き』達も、明らかに苦戦している。

 ほぼ拮抗した実力。

 彼らの破天荒な戦い方が予想外故に何とか押せているという形だ。

 だが、それも徐々に敵も理解し始めている。

『あだ名付き』が組織ではなく個人の群体(・・・・・)であると。

 故に各個撃破に入ったようで、一人一人に対して小隊を宛がうやり方に移行。

 そうなってから『あだ名付き』の動きは明らかに悪くなっている。

 さすがに、長くは持ちそうにない。

 見ると第三中隊付近で動いている『暴風雨』と『徹甲弾』もさすがに疲弊している。

 近接特化の最悪のデメリットは息継ぎの回数が圧倒的に少ない事だ。

 野戦で彼らのような戦闘スタイルはそもそも現代戦では悪手が過ぎる。

 長期戦には向かない。

 『巨人』は工兵のようで、爆弾などを使用した戦闘スタイルを得意としているようだが、事ここに至ってはそれも有効活用できる場がなく小銃での戦闘を余儀なくされていた。

 戦闘開始から一時間半が経過している。

 第一、第二中隊も攻撃を受けつつの撤退だ、どうしても遅い。

 加えて神谷真理は敵重迫撃砲から更に後方約2000mに敵の増援らしき歩兵部隊を確認。

 その数はおよそ千。

 大隊だ。

 現状では、さすがにそれに対抗できる戦力は、ありはしない。

 さすがに残り千人を倒しきる残弾もない。

 迂回している味方の増援到着まで一時間弱。

 それまで持ちこたえられるとは、到底思えない状況だった。

 敵の兵器などは『あだ名付き』でも奮戦し、何とか倒せている。

 しかしやはり歩兵。

 数の勝負となるとどうしようもない。

『鯱』はまだまだ動けるようで第三中隊と協力しながらしっかりと情報を神谷真理に与えている。

『あだ名付き』の疲弊を感じてた分割された戦力を再度戻して第一、第二中隊への攻撃態勢に力を再注入し始めたようだ。

 その結果第二中隊の半数が負傷している。

 撃破ではなく、意図して負傷させている節があるというのが『鯱』の見解だった。

 敵を負傷させることで救助、治療に人員を割かせる、典型的な戦術だ。

 それをここまで明確に、専念的に行うとは。

 それ故に、行動が遅れている。

 もちろん応急処置以外現場での治療は出来ない。

 銃撃されながらなのだから当たり前だ。

 このままでは追いつかれてそれこそ全滅する。

 その時に無線が入った。

 後方の連中だった。


『戦線に通達。敵航空戦力の増援を確認。地上への攻撃が目的だと予想される攻撃ヘリの編隊を確認した』


 神谷真理は舌打ちをした。

 さすがにどうしようもなさ過ぎる。

 空を見ると戦闘機が飛び交っている。

 友軍は敵対空網の脅威から接近が出来ない。

 陸戦兵器も迂回を余儀なくされて接近はまだ時間がかかる。

 その上で敵の航空機の増援。

 絶望的すぎる。

 敵は一体、何者なのか、

 神谷真理の脳内は思考が駆け回る。

 ここまでの兵器運用や人員の運用はかなり大きな正規軍でも難しい。

 しかし敵は正規軍ではない。

 神谷真理は頬に伝う汗が顎に流れるを感じながら呟いた。


「これが『語られない特殊部隊(ブラックオプス)』、か」


 神谷真理は無線機に向かって言葉を投げかける。


「『白い悪魔』、敵の標的は第二中隊に絞っている。第二中隊に攻撃しようとしている奴を優先して倒せ」


『無理。私だって攻撃されてる。敵を選別してるほどの余裕はない。敵も回避能力が高い。二発に一発が精いっぱい。守りながら戦うのは無理』


「……ならそのままで良い。出来る限り敵を押さえつけろ。『鯱』」


『ああ』


「第三中隊の損害は」


『目立ってはいないが継戦能力が落ちている。敵はこちらをほぼ無視して第二中隊ばかりを狙っている。しかししっかりとこちらの攻撃から避ける様にも動いている。相当強いぞ。弾切れを起こすのも時間の問題だ。持ってあと一時間だろう』


「わかった。そのまま続けてくれ」


『敵の攻撃ヘリはどうする? 味方の兵器は間に合わないぞ』


 神谷真理は、『鯱』のその質問に、少し考える。

 兵器はない。

 個人対空火器もない。

 神谷真理では十分な対空戦は出来ないしそれは他中隊や『あだ名付き』でも無理だ。

 しかし、敵の攻撃ヘリは今も刻一刻と近寄っている。

 神谷真理は目を凝らす。

 空に、黒い点が見えた。

 もうこの位置でも、攻撃ヘリの羽音が聞こえていた。

 超低空。

 対空の探知にはなかなか反応されない位置を心得ている飛行。

 しかし神谷真理はそれを見て、頷いた。


「『鯱』、『白い悪魔』、『暴風雨』、『徹甲弾』、『巨人』、お前らはそのまま続けろ。他『あだ名付き』、お前らは俺が合図したら戦域を離れて移動しろ」


『なんだと!? 状況を見ているのか!?』


 そう叫び返してきたのは『北欧最高神』だった。

 怒りの籠った声で言う。


『敵の攻撃ヘリが来ているんだろう!? ここで下がれば背中を撃たれるぞ!』


「このままでは顔面を撃たれるだけだ。俺たちの任務は第一、第二中隊の撤退支援とその完了にある。殲滅じゃない。それを果たす」


『……だからそのためにもここに残らないと』


「後方には敵の増援が確認されている。歩兵だ。残って戦えるのか? 大隊規模だぞ? 生き残る方法を模索する方が賢明だ」


『何か策が?』


 その問いに神谷真理はもう一度だけ遠くの空を見た。


「攻撃ヘリを狙撃する」


 沈黙が訪れた。

 数秒、本当に誰も言葉を発さなかった。

 最初に口をきいたのは『白い悪魔』だった。


『面白いね。何を言ってるか自分でもわかっているのかい? ……アッハッハッハッハッハッハッハ! 面白い!』


 無線機越しに、『白い悪魔』以外の笑い声も聞こえる。

 しかしそれは当然の事だ。

 攻撃ヘリを狙撃する。

 そんなのは普通やろうとはしない。

 そもそも神谷真理の狙撃銃(AWM)の.338ラプラマグナム弾では攻撃ヘリの装甲を貫通することは出来ない。

 ダメージを与えられないのだ。

 ローター部分を攻撃し続けることで、というのならあるいは、だが神谷真理の狙撃銃では継続的な攻撃は不可能だ。

 小銃ならもっと不可能。

 近距離に行く必要が出る以上それは敵の射程圏内でもある。

 そうなると、遠距離で、装甲が比較的薄く、一撃で倒せる部分しかない。

 そんな場所は攻撃ヘリには……


『操縦席を撃ち抜くとか言わないよね』


 笑い声を含んで『白い悪魔』が言う。

 そんなことは、到底不可能な話だった。

『鯱』からの声。


『やれるのか』


 不安は、含まれていない声だった。

 もちろん笑ってもいない。

 答えなどもうわかっていて、彼が何をするのかもわかっていて、確認のために聞いた程度のような、確信を持った声音だった。


「俺は、外さない」


 無線機の向こうで無数の笑い声が響いた。

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