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『あだ名付き』達と『Z』戦
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『あだ名付き』達と『Z』戦 ACT 2

「第一、第二中隊の撤退が難航している。第三中隊が支援をしているが敵は第一、第二中隊にしか興味がないらしい。合流する第四中隊と共に第三中隊の支援行動に助力し、第一、第二中隊の撤退を完了させる」


 神谷真理は輸送ヘリから出てきた『あだ名付き』に向かって言う。

 あまり、聞いている感じではない。

 端末を開き、神谷真理は情報を確認する。


「『暴風雨』、『徹甲弾』、『白い悪魔』、『巨人』、『鯱』、お前らは俺と来い。他の奴らは敵に突っ込め。敵に(・・)、だぞ。五人と六人の班で分ける。五人班が十五、俺たちを含めて六人班が五か。とりあえず、全部で十九班だ。俺たちは別行動を行う。お前たちはお互い300m範囲には入らないようにして戦え。そして、味方を殺すな」


「区別がつかないぞ」


「迷彩服を覚えろ。味方は俺と同じ迷彩服を着ている。敵は着ていない。単純だ」


 何故かちょっと笑う『あだ名付き』に頭を抱える神谷真理。


「とにかく、お前らの仕事は戦うことだ。それ以外はどうでもいい。好きにしろ。しかし敵は上空にも展開しているし後方支援隊も展開し迫撃砲を撃ってきている。上には十分注意しろ」


「何分戦う?」


「別命あるまで戦え。勝手に帰るなよ。撃つからな。もう行け。『悪魔の巫女』、標的以外への『活動』は許さんぞ」


 返事もせずに動き出した『あだ名付き』。

 見ると後ろで一般兵士が輸送機から檻を引き下ろしている所だった。

 忘れていたと神谷真理は舌打ちをしてそこに歩み寄る。

 檻を移動している一般兵士に檻越しに威嚇している『不明』。

 神谷真理に気付くと、例の『貼り付けた笑顔』を向けてくる。

 やはり口角からは血が垂れていた。


「お前、なんで笑ってるんだ?」


 言いながら輸送機から出た檻の鍵を受け取り、開ける。

 一般兵士は即座に離れて逃げてしまう。

 鍵を回しながら神谷真理は「さすがにあの反応はどうなんだろうな」と言う。

 扉を開けて、手招きをすると『不明』は足を引きずって腕だけで動いて檻から出てきた。

 腕力は、細腕の割にはしっかりとしているらしい。

 というか前回神谷真理を檻に叩きつけた際の力は、並の物ではなかった。

 立ち上がらずにそのままの姿勢の『不明』に神谷真理は話しかける。


「仕事だ。敵を倒せ」


「……」


「これを着ている奴は味方だ。味方に、着てないやつもいるが、とにかく、これと同じ物を着ている奴は攻撃するな」


 神谷真理は自分の服を指さす。

『不明』は神谷真理の顔と胸元を交互に見比べる。

 そして目を別の者に向ける。

 神谷真理も確認すると、一般兵士を見ているようだった。

 第三、第四中隊のメンバーを攻撃されては困るから出来れば理解してほしいと神谷真理は考えるが。

 もう一度『不明』は神谷真理の顔、胸元、一般兵士を見比べる。

 そして、その笑顔の顔を神谷真理に見せる。

 何を考えているかわからない、あるいは何も考えていないのかもしれない深い底なしの目を神谷真理に向けて。


「」


 何も言わなかった。

 神谷真理は腰に手を当ててため息を吐いた。

 まあいいかと頭を掻いて、輸送機の中に。

 中に『不明』用の拳銃(M92F)とホルスター、予備弾倉があった。

 それを拾い、そこで気付いた。

 それはライフルだった。

 黒く、細長い。

 銃と言うには、あまりにもそれは細長く、()のようだった。

 少し妙な形だった。

 その棒に、本来あるべきグリップがない。

 銃床(ストック)の部分が削られて、握るようなデザインに変更され、その底部には同サイズのスイッチのような物があった。

 そして本来はスコープなどを設置するためのレールなどがある場所も削られて、そこにはハンドルが取り付けられている。

 銃身的に、それはゲパート対物ライフル M3。

 大口径対物ライフルだ。

 それをまるで、片付けではなく、腰撃ちでもするかのようなデザインに、変更されていた。

 よりにもよって、14.5㎜の大型モデル。

 それを、不安定になりがちな腰撃ちに敢えて変更している。

 神谷真理はため息を吐いた。

 無線機に向かって声を向ける。


「『悪魔の巫女』。お前ライフル忘れてるぞ。せっかく技術部がお前用に作った奴だろ。ちゃんと使ってやれ。お前のために作ってくれたんだぞ。戻ってこい」


『お父さんみたいなこと言いますね。わかりました。すみません、うっかりしてて』


 ゲパートはそのままに拳銃だけ持って輸送機を出る。


「お前も結局、包帯交換してくれる奴は出てこなかったか」


 神谷真理は『不明』の腰にホルスターを巻きつけてやりながらそう言う。

 予備弾倉をホルスターのベルトと体の隙間に無理矢理挟んで締める。


「銃の使い方は覚えてるよな? 味方と敵だけは間違えるな。違う俺じゃない。今でもない」


 顔を近づけてきた『不明』の顔を押し返して言う。

 なんだか、犬のようだと神谷真理は感じていた。

 しかしその顔はやはり、あの貼り付けた笑顔のままで、口角からは血を流していた。


「行け」


 指さすと『不明』は走り出した。

 ちゃんと、二足歩行だった。

 それと入れ違いに『悪魔の巫女』が走ってきたのを確認し、残っていた『鯱』らに向き直る。


「他の奴らは好きにさせる。どうせ言うことは聞かない。ミッチェルの言うようにこれから合流する第四中隊と共に第三小隊の支援に入り、第一、第二中隊の撤退を実現する」


「六人で何が出来るんだ? 相手1200人だろ?」


「だからそれをあの馬鹿どもに頼んだんだろ」


「あ~ね」


『暴風雨』の気の抜けた質問に神谷真理は端的に答える。

 端末を操作し、小さい画面だがそれを他のメンバーに見せる。


「第四中隊はこの後すぐ俺達と同じく低空飛行で現地入りする。あと四分ほどだ。それと共同し、第三中隊と共に第一、第二中隊へ攻撃を行っている敵兵士への攻撃、防衛を展開する。俺たちはそこに参加。『暴風雨』、『徹甲弾』」


「おう」


「お前らはどの道近接戦しか出来ない。前に出ろ。後ろは気にするな」


「「了解」」


「『鯱』」


「ああ」


「お前は第三中隊、第四中隊に一番近い位置に展開し、全体の把握をしてほしい。それを逐一俺に報告だ。戦闘しながらだ。お前が一番負担が強く手間がかかるだろう。やれるか?」


「二個中隊程度、把握は容易い」


 さすが大隊指揮経験者は違うらしいと神谷真理は頷く。


「『白い悪魔』」


「はい」


「俺とお前は支援狙撃だ」


「君の観測手かい? いいよ」


「違う。好きに撃て。酒を飲んでも構わん。お前に合わせて俺も最初は中距離に展開する。何も考えずに撃て」


「いいね隊長。そう来なくっちゃ。全部喉笛吹き飛ばしてあげる。健康に!」


『白い悪魔』は懐から酒瓶を取り出して天に掲げた。

 それを無視して神谷真理は背から狙撃銃(AWM)を下ろした。

 少し離れた位置に第四中隊を乗せていると思われる輸送ヘリの編隊が見えた。

 もう二分と経たず目の前に現れるだろう。

 それを確認し、皆もそれぞれの銃を下ろす。


「第四中隊が下り次第行動開始だ」


 しかし、五人の返事を聞くことは出来なかった。

 一瞬の大きな風切り音。

 それが聞こえた瞬間には八機の輸送機その全てが(ひしゃ)げていた。

 それはすぐに弾け、爆発し、炎上して地面へ落下していった。

 地面に叩きつけられたそれらは原型もなく砕け散り、燃え盛り、大きく爆ぜた。


「なん、」


 神谷真理が振り返ると第二波。

 もう一度同じだけの風切り音と共に今度は大型な砲弾を視認した。

 それはほぼ真っ直ぐに神谷真理たちの頭上を通過し、地面に叩きつけられた輸送ヘリたちを再度叩いて焼いた。

『白い悪魔』が測距機(SOFLAM)を取り出して覗く。


「榴弾砲だね。例の敵後方支援隊だ。すごいね。距離はここでは3800mだよ。榴弾砲的に見ればすぐ目の前だが、どうやら彼らはほぼ直線に撃って当てたらしいね。平行と言った方が伝わるかな? 理屈上は出来るが、狙ってやることでは、ないね」


 つまり、敵は本来曲射法と言うやり方を使う榴弾砲で、あえて真っ直ぐ弾丸を当てるやり方で、当ててきたという事か。

 それは、相当な練度(・・)だ。

 神谷真理は舌打ちをした。

『鯱』が神谷真理を見る。


「『虎』、どうする? 第四中隊は全滅だ。第三中隊だけで支援となると、この六人での助力がどれだけの効力を発揮するか、疑問だが」


 神谷真理は自身の狙撃銃を見て、『白い悪魔』に目線を投げる。

 不思議そうな顔をする『白い悪魔』。

 神谷真理は左目の眼帯を外した。


「『あだ名付き』の奴らの奮戦に賭けるしかないっ」


 六人は第三中隊の下へ走り出した。

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