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BAD NAME  作者:
赤い稲妻
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世界5位の狙撃手

新作第二話となります。

 輸送ヘリから降りた白髪の男は担え(つつ)のような形でAWMを抱えて歩く。

 長い髪を靡かせている彼の左目には六角形を半分にしたような黒い眼帯が着けられている。

 彼はヘリポートからまっすぐ歩き、少し離れた所にある白い建物へ向かっている。

 周囲は慌しく黄色のジャケットを羽織った者たちが走り回っている。

 それを縫うようにして彼は歩く。

 彼の耳に付けられた無線機から声がする。


『やあ稲妻(ライトニング)、調子はどうだい?』


 一瞬だけ無線に意識をそぐように彼の目線が動いた。

 が、返事はせずに彼はそのままの速度で歩き出す。


『もう君との付き合いも4年目に入る』


 無線の先の声は無視されても気にせずお調子者の様子で変わらず話し続ける。


『あの時の君はまだ22歳。今年でようやく26歳になるわけだが、いやはや逸材だよね。化け物と言ってもいいだろう。一度除隊した後戻ってきてからもそうだった。君の戦いを見続けたこの4年間でどれだけのミラクルを見せられたかわからないよ。ジャッカル戦は見事なものだった』


 稲妻と呼ばれる男は無視を続ける。

 建物の中に入って少し進むと暗い部屋がある。

 金属臭く、それでいて油の匂いだ。

 武器庫だ。

 無数のガンラックが並べられている。

 稲妻はその中の一つを網膜スキャンとハンドスキャンでロックを解除する。

 銃、AWMを格納するのだろう。


『今回の狙撃もそうだ。射幅10㎝。弾丸はもちろん理屈の上では通るが問題は距離。今回の射撃距離は2512m。観測手スポッターも無しにだ。一発。試射も無し。そう、試射も無しだ。普通じゃない』


 無線の男は続ける。

 稲妻はラックから金属の箱を取り出して中身を確認する。油と、細かく切られたウェスと金属の棒と金属ブラシと布ブラシなどが入っていた。

 それを取り彼はラックを閉めた。

 AWMを整備するらしい。

 当然と言えば当然。

 武器は使用後は煤が付くし砂などの細かい物も内部に入るだろう。

 内部をしっかりと整備しないと後々に影響が出てしまう。

 それを脇に抱えて稲妻は武器庫から出てまた歩き出す。


『さすがは世界1位の狙撃手って所、か』


 無線の男は最期少しだけ物憂げな声でそう言う。

 その時遠くから悲鳴が聞こえた。

 少し遅れて爆発音と、何かが崩れるような音が聞こえた。

 稲妻は歩きながらしかし目を閉じてため息を吐いた。

 そこで初めて彼は口を開く。


「管制官、今度は何をやった?」


 呆れたような声で彼は言う。

 顔の向きを変えて廊下の窓の外を見る。

 薄い煙が見えた。


 何かが燃えたというよりは軽い爆発が起こったような雰囲気だった。

『あ~。「超新星爆発スーパーノヴァ」が何かを零して爆発騒ぎらしい』


「それだけか?」


『「赤ずきん」と「ZIGZAG」が喧嘩騒ぎだ』


「どうして」


『いつも通り属性被り、だろ?』

 彼はため息を吐いてそのまま進む。


『止めないのか?』


 管制官は小さく笑いながら言う。

 稲妻はそれを無視して進む。

 管制官もそれ以上は追求せず話題を切り替える。


『やはり命中精度の秘訣はその左目かい?』


 稲妻はやはり無視をして自室にまで戻ってきた。


「そろそろ切れよ。任務終わっただろ」


 稲妻はそう言って扉を閉めた。


『そうだな。稲妻、いや、神谷真理(かみやまこと)。ご苦労さん』


 無線が切れた。

 稲妻、神谷真理は耳から無線機を外してベッドに放る。

 上着の灰色のパーカーを脱いでベッドに放る。

 下に着ていたTシャツも同じく脱いで放る。

 姿見で彼は自身の姿を確認する。

 白髪、眼帯、頬にある十字の裂傷痕、体に無数の銃創や裂傷痕、加えて左肩の虎のタトゥー。

 華奢な肉体に見えがちだが細いというよりは無駄を削いだからだといった風。

 彼はその体をぐるりと確認し、気付かずうちの傷などがないかを確認して床に座る。

 そこに白い布を引いて自身の愛銃AWMを置き、分解を始めた。

 慣れた手つきで物の数十秒で解体されたAWMのパーツがきれいに整頓されて並べられていく。

 機械のような正確さでパズルにはめる様に等間隔でパーツを並べて、それを順に整備していく。

 埃を除去し、油を染み込ませた布で全体を吹いていく。

 布がすぐに煤で汚れていく。

 一発でもやはり内部で爆発が起こっているのだし反射防止に銃口付近を始め目立つ箇所はライターで炙って反射防止も施している。煤汚れはどうしても出る。

 そこでスマホがなった。

 チャット画面には「執務室へ」とだけ書かれていた。

 宛名をは「ミッチェル」。

 彼は面倒だと吐いて、しかし慌てずに整備を完了させて、また機械のような速さで結合を修了させた。

 熟練の技だろう。

 ここまで銃の分解結合が速い人間は少ない。

 それでいて掃除も怠らないのだから彼の銃はそう不良を起こすこともないだろう。

 服を着て、AWMにスリングを着けて背負い、部屋を出る。

 と思えば戻ってきて自分の机の上にあるドックタグを掴む。

 ドックタグには「Taylor」と彫られている。苗字部分はひび割れていて読み取れない。

 それをポケットに入れて今度こそ部屋を出て歩く。

 暫く歩き、別の棟へ。

 入り、また少し歩いたところにある執務室とタグが貼られた部屋に彼はノックもせずに入る。


「来たか。座りなさい」


 それを咎めもせずに部屋の中にいた白人男性は立ち上がり、神谷真理を受け入れる。


「コーヒーは?君は甘い方が好きだったね」


 言われて彼は言われもせずに部屋の中央に合う向かい合ったソファのうち片方に不躾にも雑に座る。


「人生は辛いからな。酒とコーヒーくらいは甘くていい」


 そうかいと白人男性は言ってシュガースティックを取り出す。


「なんだよ。ミッチェル。戻ったばっかりに呼び出しなんて。また誰か何かやったか?対S戦隊に治安出動させればいい」


「今回はまだ被害は出ていないからね。ただのぼやと喧嘩騒ぎ。いつもと比べたら優しい方だ」


 ミッチェルと言われた男の胸にはネームプレートがある。

「ミッチェル」という名前で呼ばれるには程遠い名前であった。

 肩の階級章的には少将となっている。


「何度も言うが君がその名前で呼び始めたせいで一部ではそれを本名だと思っている者もいるらしくてね。ミッチェル少将と、そう呼ばれることが存外多いんだ」


「覚えてもらえていい事だな」


「君が私の名前を覚えないことは問題だけどね」


「覚えてるさ。呼ばないだけでね」


「では私の名前は?」


 ミッチェルはネームプレートを手で隠す。


「ジャックだ」


「違うね」


 神谷真理は舌打ちをした。

 ミッチェルはくくくと笑う。


「要件に入ろう。君もつかれているだろうからね。まあ毎年恒例の奴さ。過去の戦歴と本人である君の証言と照らし合わせていく調書だ」


「尋問だ」


「調書」


 ミッチェルはコーヒーをソファの間の机の上に二つ並べて自身もソファに座る。

 彼はタブレットを取り出して数度スクロールする。

 もう一つのデバイスも取り出し、それも机の上にボイスレコーダーのように見える。


「構える必要はない。今回の『狂犬』の訓練、ご苦労だったね。君言う処のわんこ教官。いい教官だった。それも踏まえて、もう一度思い出そう」


 ミッチェルは端末を操作する。

 向かい合ったソファの横にスクリーンが下りてきた。


「ほんの少し、昔話をするだけさ」


 神谷真理は脇の置いたAWMをしっかりと立てかけなおし、「長くなりそうだ」とぼやいた。


「君の人生だからね。そうかもしれない」


 神谷真理が頷くとミッチェルも頷いて、ボイスレコーダーを操作した。


「では、始めよう。まずは手始めに君がここに入隊した時の話」


 彼は一呼吸おいてから、続ける。


「君があだ名付きに出会い、世界五位の狙撃手になる前の話だ」

お疲れ様でございました。

次話もどうぞお楽しみに。

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