ずっと姫をお守りいたします
『マリア姫、14歳の誕生日、おめでとうございます。これから先もずっと、私が姫をお守りいたします。』
ロイはいつもそう言ってくれていた。
『ロイはまだ15歳でしょう?なんでそんなに堅苦しい言い方なの?』
私が少し茶化すように言うと、
『マリア姫は私の恩人です。それに•••』
と言うと、ロイは左手で頭をかいた。
ロイと初めて出会ったのは去年の冬、宮殿の門の外だった。
『マリア姫!少年が倒れています!』
衛兵から報告を受けた私は、父上と母上と共に門の外に向かった。
そこで目にしたのは、身体中キズだらけの男の子だった。
『ちくしょう!アイツら許さねえ!』
男の子は傷口を押さえながら苦しそうに叫んでいた。
『マリア。頼んだぞ。』
父上にうながされ、私は男の子の傷口に手をかざした。
『祝福を•••』
その瞬間、男の子の身体を光が包み、痛々しいキズがふさがっていった。
『こ、これは•••!』
男の子は驚いた様子で自分の体を確かめた。
『もう大丈夫』
私は一安心した。
私はなぜか、人の傷を癒す魔法を使う事ができた。
大昔には何人か居たようだが、今は私一人しかいない。
『あなた、お名前は?』と私は聞いた。
『ロ、ロイだ!』
男の子は少し照れくさそうに答えた。
『どうして傷だらけだったの?』
と私が尋ねると、
『ケンカだよケンカ!アイツら、1人じゃ勝てないからって5人で襲ってきたんだ!絶対許さねえ!』
ロイはさっきの出来事を思い出して、こぶしをガンガンと地面にたたいた。
『ふふふっ』と私は笑った。
私は王女として暮らしてきて、ロイのような男の子と話をするのが初めてだった。
『ありがとな!じゃあ行くぜ!』とロイは言った。
『どこへ行くの?』と私が尋ねたら、
『さっきの奴らのところだ!許さねえ!』とロイは叫んだ。
私はロイの勢いに圧倒されつつ、行くのを止めなければいけないと思った。
『せっかく傷が癒えたのにまた行くの?また怪我してしまう知れないわよ?』
するとロイは、
『オレの体だ!別にいいだろ!』と言った。
『あなたの体にまた傷ができたら、私は悲しいわ』と私は言った。
『どうして?』ロイは大きな目をぱちくりしながら私に尋ねてきた。
『だってもう、私とロイはともだちだから•••』と私は言った。
ロイは大きな目をさらに大きくして驚いた。
『そ、そうなのか••••••。わかった。じゃあやめとく!名前を教えてよ!』
『私はマリア。この国の王女なの。』
『マリア••••姫!』
ロイはぎこちなく一礼した。
それからしばらく、ロイは宮殿近くの薬草屋の2階で寝泊まりした。
『ロイはどこから来たの?』と私が尋ねたら、
『オレ!•••わ、わたしは隣の国から来ました!』とロイは照れながら言った。
話を聞くと、ロイは隣の国の騎士団長の息子だったらしい。しかし戦争が起き、家族がバラバラになってしまったとのことだった。
『オレは剣術では一番強かったんだぜ!•••です!』
『ふふふっ!普通に話していいのに!』私が笑いながら言うと、ロイは左手で頭をかいていた。
私とロイは毎日のように会って色々な話をした。ロイの話はどれも新鮮で、飽きる事がなかった。無鉄砲な所もあるけど実は勉強熱心で、尊敬できる所がたくさんあった。
『ロイ!早く来て!』
私はロイをさそい、よく街へ出かけた。もちろん、私が王女だとバレないように。
『まあ見て!すごくキレイな男の子!ザワザワ•••』
ロイはキラキラと光る銀髪で、目鼻立ちもはっきりとしていたので街では逆に目立ってしまっていた。
『まあ素敵。お名前おしえていただけないかしら?』
と、ロイは貴族の娘や財閥の令嬢から声をかけられる事もあったが、
『オレには姫をお守りする役目があるんだ。』
と、一切表情を変えずに断っていた。
『誰も横にいる私が王女って気づかないわね。』
とロイに言うと、
『完璧な変装ですよ、マリア姫。』と、ロイもイタズラっぽい笑顔を浮かべていた。
ある日、
『ロイは自分の国に帰らないの?』と私が尋ねたら、
『私はずっとここに居ます。マリア姫にどう思われようが、私はこれからもずっと、姫をお守りいたします。』と言った。
ロイは事あるごとにこう言っていたが、その時はいつも左手で頭をかいていた。ロイが照れている時のクセだった。
しかし、そんな日常はある日を境に一変した。
とある日の朝、海の向こうの国が突然攻め込んできたのだ。
『マリアはこっちだ!』
父上は私を小さな馬車に乗せ、私だけを逃がそうとした。
『ロイは!? ロイはどこにいるの!?』
私が叫ぶと、
『ロイは敵の最前線で戦ってくれている!誰よりも勇敢にな!』
と父上は申された。
『ロイ••••!』
私はなされるがままに、馬車で遠くに逃がされていった。
〜3年後〜
『マーナ!私の着替えは!?』
『申し訳ございません、ミラお嬢様。お着替えはすでにベッドの横にご用意してあります。』
『そ、そう!わ、分かりにくいのよ!』
あれから私は、西の国に逃れてきていた。
ここでは王女と分からないように「マーナ」と名乗った。
今はとある富豪の家で雇われ、一人娘のミラお嬢様のお世話係をしている。
『マーナ!私のお気に入りのブローチが無いじゃない!』とミラお嬢様は言った。
『あれはもう飽きたからと、ミラお嬢様がお捨てになられたのでは。』と私は答えた。
『そ、そう!そんな事アナタに言われなくても分かってるわよ!』
お嬢様は私を睨みつけると、クルッと向こうへ行った。
私はとにかく今出来ることを一生懸命にした。
お嬢様のお給仕から掃除から、馬のお世話まで。
私がいつも皆にしてもらって嬉しかった事をとにかく頑張った。
『父上、母上、どこにいるの?•••それにロイ•••。』
ある日、街にこんな立て札が立った。
【宮殿に近国のランド王子がお越しになり、お妃候補を探すための舞踏会をおこなう。参加したい者は当日ドレスを着て宮殿までくるように】
『マーナ!すぐにドレスを準備しなさい!誰よりも立派で、魅力的なドレスじゃなければ承知しないわよ!』
お嬢様はいつもにも増して興奮していた。
私はお城で数多くのドレスを着てきて、誰よりもドレスには詳しかった。一般的な貴族や富豪では準備できないようなドレスを用意する事ができた。
『ミラお嬢様、準備できました。』
『遅いわよ!マーナ!•••でもドレスは上出来よ。これで私も注目の的だわ!ランド王子は私のものよ!』
お嬢様は上機嫌だった。
『そうだマーナ!アナタも舞踏会に参加しなさい!』
『わ、わたしもですか?』私は急な命令に驚いた。
『アナタはこのドレスを着るの』
ミラから渡されたのは、もう何十年も着古した、ボロボロのドレスだった。
『これを着たアナタが隣にいると、さらに私が引き立つじゃない』
『•••承知しました。』私は舞踏会について行く事となった。
舞踏会当日。
宮殿は多くの人々で賑わっていた。老若男女みんな着飾っていて、特に若い女性は本当に皆きらびやかなドレスを身にまとっていた。
『なんだか懐かしいな•••』私は昔のことを思い出した。
『ロイと出会った日、あの時も私はドレスを着ていたな•••』ボロボロのドレスだが、なんだか少し嬉しくなった。
『マーナ!王子様が来るまで、アナタは会場の外で居ていいわよ!アナタが居ると格が下がるから。』
ミラはそう言うと私を手で追いやり、舞踏会場の中心に行き、各地の貴族達と笑顔で談笑していた。ひときわ華やかなドレスを褒められ、満足そうだった。
『どこでいようかな。。』
私が宮殿の裏門を歩いていると、裏口の窓から男性の声がうっすらと聞こえてきた。
『どうして私がこんな舞踏会に参加しなければいけないのだ!?はっきり言って迷惑だ!』
かすかにしか聞こえなかったが、かなり不満そうだった。
『しかしランド王子、そろそろお妃を召された方がいいかと•••』
年配の男性が言い返している声も聞こえる。
『私には必要ない!私にはまだやる事があるのだ!』
『で、ですがこの舞踏会は当国の男爵様がご準備してくださったのです。そうおっしゃらずに参加だけでも•••』
『•••事情は心得ているつもりだ。舞踏会には参加する。しかし、妃をめとるつもりはないぞ。』
そう言うと、声が聞こえなくなった。
『今のが王子様なのかな。私も似たような事があった気がする。王子様も大変だな。なんだか懐かしいな。ふふふっ』
私は昔のことを思い出し、少し楽しい気分になり、舞踏会場へ戻った。
『マーナなにしてたの!?ランド王子が来ちゃうじゃない!』
ミラはソワソワした様子だった。もうすぐ王子が登場するらしい。そして•••
『ランド王子が来られた!』
一斉に奥の扉に視線が向かった。
『ワアァァァ!!王子様だ!!ランド王子だ!!』
悲鳴とも歓声とも取れる声があちこちから響いた。しかし私はすでに後ろの方に追いやられていた。
『全然見えない•••』
そうこうしているうちに、舞踏会は始まった。
オーケストラの生演奏で、それはそれは壮大な舞踏会だった。王子の周りには次々に若い女性が近づいていた。
『マ、マリーでございます!』
『エ、エレンでございます!』
『ダ、ダリアでございます!』
『•••私はランドだ。』
盛り上がるランド王子の周りから離れたところで、私は何をしようか考えていた。
『何もせずに居ていいなら、少し懐かしい気分に浸らせてもらおうかな』
ミラも王子の周りに行っていたので、私は少々の息抜きの時間を過ごしていた。
『ミラでございます!!』
ミラお嬢様の声が響いた。
どうやらランド王子とのダンスの順番が回ってきたらしい。
『みてあのドレス、すごい•••••ザワザワ』
ミラのドレスはひときわ美しく、来客者達の視線を集めていた。
『ランドだ。••••••美しいドレスだな。』
『こ、光栄でございます!』ミラお嬢様のうわずった声が聞こえた。
遠くからだが、ランド王子とミラお嬢様が踊っているのが見える。
その時、
『あっ!』
ミラのヒールが折れ、そのまま倒れそうになった。
『あぶない!』
ランド王子はとっさにミラを守ると、そのまま床に倒れ込んだ。
『うぅ••••!』
ランド王子は顔を押さえてうずくまっている。顔から血を流しているようだ。
『わ、わたしじゃないわよ!そうだ!マーナ!マーナはどこ!?アナタのせいよ!』
ミラは必死にマーナを呼び寄せた。
『どうされましたか!?ミラお嬢様!まあっ•••!』
私が急いで向かうと、顔から血を流してうずくまっているランド王子の姿が見えた。
『うわっなんだあのドレス!』
『よくこの舞踏会に来たな』
人々のささやき声が聞こえる。
『あ、アナタのせいよ!あなたがしっかりと靴を手入れしていなかったから•••!』
『だまってて!!』
私は思わずミラを静止した。
『すごい出血•••!ランド王子、そのまま動かないでいてください』
私はそう伝えると、ソッと傷口に手をかざした。
『祝福を•••』
すると、ランド王子を光が包み、傷口はみるみるふさがっていった。
『い、今の口の利き方はなに!?もうアナタはクビよ!』
ミラの声が響いた。
私はそれよりも、ランド王子の事が気になった。
『大丈夫でしょうか、ランド王子•••』
ランド王子は顔を上げた。そして、私の顔を見た。
『すまない、ありが•••••••••!!』
ランド王子の顔色が変わった。
『••••••マリア姫!』
『ランド王子!?•••••••••ロイ! 』
私は何がなんだか分からなかった。
すると、ランド王子•••••ロイは私の目の前に来た。
そして、私の前で片膝を付いた。
『どういう事だ!?あのボロボロのドレスの女は何者なんだ!?』周りから声が漏れる。
『マリア姫、お守りできず申し訳ございませんでした。』
ロイは続けた。
『マリア姫のお父上お母上はご無事です。私の国で元気に暮らされております。あれからずっと、マリア姫の事を探していました。しかしこんな形でお会いできるとは•••••!』
ロイは大粒の涙を一滴たらした。
大勢の前でひざまずくロイを見て、私も大粒の涙がこぼれていた。
『ロイ、ロイはなんでいつもそんなに堅苦しい言い方なの?』
するとロイは
『マリア姫は私の恩人です。それに•••』
『私は心から、マリア姫を愛しています•••!これから先ずっと、姫をお守りいたします•••!』
『ロイ!!』
『マリア姫』
ロイは私を抱きしめてくれた。
強く強く、痛いくらいに。
『ずっと姫をお守りいたします』
ロイは同じ言葉を繰り返した。
『マーナ•••?マーナがあのマリア姫•••!?』
ミラは床にへたり込んだ。そして、ミラの横に年配の男性がやってきた。
『お客様、あのような態度の女性はこの舞踏会にはふさわしくありません。ご退場、願います。』
そう言われると、ミラはなされるがまま、門の外へ出されてしまった。
『でもどうして? どうしてロイはランドと名乗っていたの?それに王子って•••』
するとロイは
『戦争の時、マリア姫のお父上とお母上を連れて、南の小さな国に逃げ落ちたのです。そこで子供達に剣術を教えたり、内政の補佐などをしていたのです。』
『じゃあロイが父上と母上を守ってくれていたのね』
私はまた涙がこぼれた。
『そこの国では後継ぎがおらず、私に次期国王になってほしいと、皆から頼まれてしまったのです。』
『すごいね。ふふふっ』
私は笑った。
ロイは左手で頭をかいていた。
ロイが照れている時のクセだった。
『ランドと名乗ってたのは、戦争の時にかなり無茶をしてしまっていたからです。敵からはかなり恨みを買っていると思うので•••一応名前は変えておこうかと。。』
『ロイらしいね!また詳しく聞かせてね!』
そう言うと、ロイは
『はい。これからはいつでも』
とつぶやき、再び私を強く抱きしめた。
私もチカラ一杯ロイに抱きついた。
周りがあっけに取られる中、年配の男性が近づいてきた。
『ランド王子、いや、ロイ様。ロイ様のお気持ちは今よく分かりました。色々と無理を言って申し訳ございませんでした』
するとロイは
『いや、そのお陰でマリア姫と会えた』と笑った。
『いきましょう、姫』
ロイが右手を出した。
『ええ。』
私も、右手を添えた。
2人が舞踏会場を出る時、全員が一列に並び、腰をかがめて頭を下げ、敬礼してくれた。
『みんなすまない。ありがとう。』ロイは言った。なんだか凄くたくましかった。
帰りの馬車の中、私はイタズラっぽく聞いた。
『ねえロイ。ロイはなんでいつもそんなに堅苦しい言い方なの?』
するとロイは
『マリア姫は私の恩人です。それに•••。』
『それに私は心から、マリア姫を愛しています!これから先ずっと、姫をお守りいたします!』
『すごくうれしい。ありがとう。』
私がそう伝えると、ロイは照れた表情で左手で頭をかいていた。
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