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あれから2週間、王子の生誕祭は明日。


シンシアは淡い水色に金の糸でふんだんに刺繍が施されたエンパイアラインのドレスが王子から贈られていた。


レオンが贈るドレスは淡いピンクで胸元のレースが豪華なプリンセスライン。小柄で可愛らしいソフィアに似合うドレスに仕上がっている。


お店からレオンの元に届き、最終確認を終えたばかりのドレスをミナトは眺めていた。


「うわー綺麗」

「気に入ってもらえるだろうか?」

「絶対気に入りますよ!気に入らないなんて言ったら私がぶっ飛ばします!」

「ぶっ飛ばす……」

「実際はそんなことできないけど、それぐらいの気持ちたってことです」

「ありがとう、嬉しいよ」


ソフィアの家までは、従者がドレスとは別に注文していた装飾品と一緒に届けることになっている。


ミナトはレオンに「少し出てきます」と告げ、従者が乗った馬車に乗り込む。


ソフィアの喜ぶ様子をレオンに伝えたいという一心だった。



ソフィアの家に着くと従者がドレスと装飾品を慎重に運び込み帰って行くのをミナトは見ていた。

「帰りどうしよう」と呟いたがその場にいた誰にも聞こえない。


精神体だからか幽霊のように空を飛ぶなんてことはできなかった。生きている人たちと同じように、歩きか馬車に乗るしか移動手段がなかったが、いくら歩いても疲れないのは幸いだった。


もう帰ってしまったのものは仕方がないと諦め、ドレスを運ぶ侍女の後ろをついて行くと、ソフィアの部屋へと入ったのでそれに続く。


ソフィアは荷物を受け取ると「ゆっくり見たいからしばらく一人にして欲しい」と侍女を部屋から出し箱を開けた。


「うわー……綺麗」


鏡の前でドレスを当てくるくるとまわる姿はまさに物語のヒロイン。

喜んでいるソフィアの様子にミナトも「良かった」と一安心し、部屋を後にしようとした。


「あーあ、でもなんで王子の態度が急変したんだろ。私なにか失敗したのかな」


ソフィアの口からそんな言葉が飛び出したので「えっ?」と立ち止まる。


「そもそもシンシアが急に外見が変わったのよね。もしかしてシンシアも転生者なのかしら?」


転生者──ミナトは読んでいた多くの小説に登場していたのでその言葉を知っていた。

でもまさかソフィアが転生者だったとは夢にも思わない。


「王子と結婚して、いずれ女王になればみんなに傅かれると思ったのに……あー、ムカつく。まぁでもレオンも公爵家だから良いかな。王子の次にカッコいいし。前世みたいに頭下げて、相手の顔色伺う生活なんて二度とごめんだわ。ちゃんとキープしとかないとね」


贈られた宝石を手に取り、嬉々としているソフィアが呟いた言葉がミナトに届く。


「──っ……なに、それ……レオンでもって、どういうこと?レオン様のこと好きじゃないの?ソフィアにとってレオン様は王子の代わりなの?」


短い期間ではあったが、二人が急接近したように感じていたミナトはショックを受ける。

楽しそうに話をしたり、忙しい合間を縫って悩みながらもドレスを選んでいたレオンを思い出すとソフィアの言葉が許せなかった。


「──家柄とか外見とかじゃなくて、レオン様自身をちゃんと見てよ」


ボロボロと大粒の涙が溢れる。

いくらミナトが叫んでもソフィアには聞こえない。歯がゆくて仕方がなかった。



その日、レオンの元に戻れなかった。




****




「おまえ、どこほっつき歩いてたんだよ?」


生誕祭当日


朝から公爵家はバタバタしていた。

シンシアが主役の王子にエスコートされるので、早くから念入りに準備されているからだ。



朝早く公爵家に戻ると、いつものルーティンをこなす姿を遠くから眺め、レオンが準備を始めた昼過ぎに姿を見せた。



「へへっ、誰にも見えないって便利ですね。この世界に来てからほとんどレオン様の側にいたのでちょっと街中見たくてウロウロして来ました」

「そうか。おまえが無事ならそれでいい」

「!心配してくれたんですか?」

「──っ、うるさいのがいつも側にいたから静かに半日過ごせて良かったよ」


憎まれ口をたたいたレオンだったが、耳まで赤くなっており、ミナトは喜ぶ。

たった一か月だけど仲良くなれた気がしたのだ。


「早く準備してソフィアさん、お迎えに行かないと」


瞼の奥に熱を感じ、早く早くとレオンを急かす。


「そうだな」

「──ソフィアさん、レオン様のドレス喜んでましたよ」

「やっぱりソフィア嬢の家まで行ってたのか?」

「だってあの綺麗なドレスを送られたソフィアさんがどんな反応するか見たかったんですもん」


ミナトは昨日の言葉を自分の心にしまうことにした。


ソフィアが打算的だとしても、レオンを蔑ろにしないならば……彼だけを大事にしてくれるならば、良いのかもしれないと納得するしかなかった。


この世界では部外者でしかない──


そんな自分が勝手に暴走して物語を変えてしまった。


シンシアが王子と上手くいけば、レオンがソフィアと幸せになれるなんて、そんなこと誰にも分からないのに。


物語のエンディング後、レオンは別の誰かと幸せになれたかもしれないのに。


一晩中そんなことを考えていた。



「レオン様はこのままソフィアさんお迎えに行くんですよね?」

「ああ」

「私、先に会場に行ってますね。お城なんて行くの初めてなんで色々見学して来ます」

「そっか……」

「ソフィアさんが綺麗だからって襲ったらダメですよ」

「何馬鹿なこと言ってるんだよ」

「ふふっ、じゃあまた後で」


バタンと部屋を出たレオンを見送り、準備を終えたシンシアが乗る馬車に相乗りし王城へと向かった。


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