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3

あれからレオンは黙り込んでしまい、ミナトはずっと正座をしたままだった。

静かな部屋にチクタクと時計の針の音だけが響く。


「……ソフィアさんはもう入学されてるんですか?」

「──!」


ミナトがヒロインの名前を出すと一瞬驚き、微かに頬が赤くなった。


(なにこれ、めちゃ可愛い)


「なぜ彼女を知っている?」

「それは先ほど言いました。(やっぱり)ソフィアさんに惹かれてるんですね……」

「違っ──」


レオンは慌てて否定するものの、その顔は誤魔化しきれないほど赤くなっている。


ヒロインのソフィア。

伯爵令嬢として生まれたものの、身体が弱くずっと領地で療養していた。成長するにつれ体の調子は良くなり、学園に入学することとなる。

しかし入学の直前、領地と王都を繋ぐ唯一の橋が大雨で崩壊したため、入学式に間に合わなかった。


橋が修繕され1カ月ほど遅れて入学したものの、学園に通う生徒は昔からの顔見知りや、家格でグループが出来ており、領地から出たことのなかったソフィアは友達が出来ずクラスで孤立していた。


他人と接する機会がなかったソフィアは対人関係が苦手で、常にどこかビクビクしていた。

また病弱だったせいか体が小柄なため、男からしたら庇護欲をくすぐられる存在だった。


肉食系の令嬢たちにいつも囲まれていた王子やレオンにとっては、初めて出会ったタイプの女の子。微笑みながらお礼を言われるだけでコロっと落ちてしまったのだ。


「王子のお誕生日は終わりました?」

「いや、来月だ」

「あー……」

「何だよ?」


(王子の誕生日……物語の中盤に出てくるイベントだ。ということは物語も半ば、王子とヒロインは順調に距離を縮めている所かな?レオン様はこの誕生日の後にヒロインに告白して振られる。あっ、さっき本人にネタバレしてしまったよ)


余計なことを言ってしまったと、肩を落とす。


「お前の言うことを半分だけ信じてやる。名前も知ってるようだし」


右手で目を覆いながら、はぁ……とため息をつくレオン。


「あ、ありがとうございます」

「それにソフィアと王子が噂になっているのも知っている」


そう言ったレオンの瞳はどこか寂しそうで、ギュッと拳を握り締めていた。


「……そうですよね」


小説内では二人はいつも一緒にいたため、周りからは公然のカップルと言われていたことを思い出す。

ミナトはレオンの表情をを見て無神経なことを言ってしまったと後悔していた。


(私の中では小説の登場人物だったけど、レオン様は実在してるし感情だってあるんだから……)


内省していると「なぁ…」とレオンが声を上げた。


「あくやくれいじょうって何だ?」


レオンからの思いがけない質問に、答えていいものかどうか一瞬迷うも、自分が言ってしまったことなので素直に答えることにした。


「私の世界にある小説の中で、ヒロインの女の子を虐げる令嬢が出てくるんですが、その方たちのことを『悪役令嬢』って言うんです。お姉さま…シンシア様はソフィアさんに嫌がらせしてませんか?」

「嫌がらせ……」

「集団で悪口言ったり、突き飛ばしたり」

「注意はよくしてるのを見るが、悪口は聞かないな。突き飛ばしたりも見てない」


(小説ではソフィアが入学して王子と出会ってすぐぐらいから、地味に嫌がらせが始まったって書いてあったけど)


レオンの言葉にミナトは手を顎に置き考える。


「シンシアがそんな酷いことするのか?」

「本には書いてありました。そのせいで断罪されて修道院へ……」

「そうか……」


レオンは腕を組み、少し悲しそうな表情をしている。


(いつもならキュンってするんだけど、私まで胸が苦しい。そんな顔をしてほしくない)


「──私、ソフィアさんとレオン様が上手くいくように微力ながらお手伝いします」


推しのレオンに悲しい顔をしてほしくない一心で出てきた言葉だった。


「はぁ?何言って──」

「そうすればシンシア様は断罪されずに未来の王妃様になれるでしょ?みんながハッピーエンドです!」

「いや…………」


(私は結末を知っているし、レオン様以外誰にも見えない。ソフィアの予定とか調べて偶然の出会い演出したり、お姉さまにレオン様を通じてアドバイスができるわ!)


変な使命感に燃えているミナトを見ながら、レオンは「人の話を聞かないな」と盛大なため息をついた。

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