「slave」を「奴隷」とだけ訳す時の違和感 ~あれっ、社畜の方が奴隷よりヤバそうじゃね?~
12/5特に意味のない(?)挿絵を追加しました
苦手な方は、設定から挿絵をオフにしてくださいませ。
こんにちは。黒星★チーコと申します。
さて、最初に申し上げたいことがございます。
皆様の中にはタイトルの後半【あれっ、社畜の方が奴隷よりヤバそうじゃね?】を読んで、「そうだよ!!」と思われた方がいらっしゃいますか?
もしいらしたら、貴方は多分社畜または元社畜だった方でしょう。
こんなエッセイよりも貴方の心身の健康の方が大事です。
(勿論読んでくださるのはとっても嬉しいのですが)今すぐ目を瞑ってゆっくりとお休みください。
いのちだいじに!!!です。
前置きが長くなり、申し訳ありません。
突然ですが皆様、「奴隷」と聞いてどんな待遇を受けている人を想像しますか?
私は、多分この単語を初めて知った(当時小学生だった)時のエピソードとイメージがリンクしていました。
古代エジプトの、ピラミッドを建てる時に石を運ばされた奴隷です。
手枷や足枷を嵌められ、じりじりとした炎天下の中で水分補給もままならず、足を止めれば管理者に鞭で叩かれ、死ぬまで重い石を運ばされる……。
ところがこのイメージ、ハリウッド映画の影響だそうで。実はそんなにひどい待遇でなかったという説があると最近知りました。
エジプト国民の義務、強制労働ではあったけれども、労働が終わったらご褒美にお酒が飲めたから喜んで参加している人もいたとか。
……あれ?奴隷とは?
いやいや、奴隷として他にもひどい扱いを受けた人がいる筈です!
例えば古代ローマ時代の奴隷。
……ところがどっこい。実はこれも、手枷足枷で鞭でシバかれるイメージとはちょいと違うそうでして。
一番過酷とされたのが、農場などで農作業をさせられていた奴隷と、鉱山などの公共事業での奴隷。
あとは犯罪を犯した奴隷が懲罰的に下水道等の仕事をさせられたともされていますが、犯罪を犯した場合はちょっと話が違うので今回は触れません。
農場で働かされている奴隷は、自作農が1人~2人ぐらい。大規模農園では奴隷を管理する役の奴隷を含め10人以上を使うこともあったとか。
しかし自作農の奴隷は、貴重な労働力であり資産なので大切にされたという説もあります。
ここまで読んで、皆様、昔の社会科の授業を思い出しません?
これ、日本の歴史で言うなら「小作農」制度みたいなもんじゃないですか。
小作農と絶対的に違うところは、奴隷は主人のモノ扱いなので、生殺与奪の権を握られていたと言うこと。
ただし、当時の家父長は妻や子供の命も同じように握っていたそうです。……あれ?
他にも一般市民に認められている権利の多くは奴隷にはなかったとされているのですが、昔の小作農も人権なんてあってないような物だったらしいですからね……。
また、過酷ではない奴隷として、都市部で働いていた奴隷は分業制で決められた仕事を割り振られている者が殆どでした。
彼らは決められた年季を勤め上げて奴隷の身分から解放される事もあります(解放後も普通の自由人とは異なりペナルティがあるそうですが)。
奴隷ひとりの売値は、4人家族が1~2年食べていける程の金額だったので、進んで身売りする人も居たくらいとか(昔の日本でいう口減らしの奉公人とかと同じですね)。
更に、都市部では頭脳労働をする奴隷も多数居ました。
貴族の行政官(この仕事はボランティア)を支える下級官吏(今で言う役人さんですね)や、貴族の子女に勉強を教える家庭教師等がその代表です。
彼らの中には個人財産を持ち、事実婚ではあるものの結婚した人達も居るそうです。
さあ、皆様の奴隷に対するイメージが少し変わったのでは無いでしょうか?
ここでひとつ、現代とリンクさせてみましょう。
実は古代ローマ市民(特に都市部)の価値観から言わせると、資本主義社会に生きる現代の私たちの殆ど……産まれたての赤ちゃんから総理大臣まで、『全員奴隷』と考えて良いのです。
というのも、当時の価値観は「働いてお金を稼ぐのは卑しい行為=奴隷のする行為だ」という事だったからです(自由人も働いてはいたそうですけど)。
因みに「奴隷の子供も奴隷の身分」なので、産まれたての赤ちゃんも、親のすねかじりでニートをしている人も、その親が働いているなら奴隷です。
……これ、最初知った時びっくりしたんですけど。あまりにも現代と価値観が違いすぎる。
今の日本で奴隷じゃないの、一族全員不労所得で暮らしている人に限られません?
ここで再び。……奴隷とは???
ああ、勿論古代ローマ時代よりもさらに昔の古代ギリシャは他国からの捕虜を奴隷として酷使していたといいますし、エジプトやローマでも酷い目にあった奴隷は沢山いるでしょう。
また、私はあまり知識がないのですがアメリカ南北戦争時代の黒人奴隷も酷い扱いだったと言いますよね。
ただ、私が言いたいのは日本語の「奴隷」=英語の「slave」が、酷い扱いの奴隷から、全くそうでない人々まで多くの意味を内包しすぎているという事なのです。
ここで、私の中学生の時の実体験をお話ししましょう。
私が通っていた個人塾の授業である時、英文の物語のワンシーンを丸々訳せという問題を出されました。
私の英語力は高校受験時をピークに下降しています。なのでその全文を英語でここに書くことはできません。
(そもそもその物語もうろ覚えですし。)なので、ある一ヶ所を覗いて全て下に日本語で書き出します。
是非読んでみて下さい。そして、その情景を想像してみて下さい。
◇◆◇
主人とslaveはある森の中を進んでいた。
主人は馬に乗り、簡素な服を着た少年のslaveはその横をずっと歩いてついていく。
「そろそろ休憩しよう」
森の中の開けたところに出て、主人がそう言って馬を降りた。
slaveは座るのに丁度良い丸太を見つけたが、そのままでは座り心地が良くないのではと思い、ハンカチを取り出してかけ、主人の座席を作った。
それを見た主人はslaveに微笑んだ。
◇◆◇
さあ、皆様。このslaveは、どんな感じの少年だと思いますか?
果たして虐げられた奴隷でしょうか?別の言葉で訳せませんか?
勿論、この時私の持っていた英和辞典には「slave」の名詞の意味は「奴隷」としか書かれていませんでした。しかし、妄想力……失敬、想像力の豊かだった当時の私は頭の中に別のイメージが浮かんでいました。
この少年が簡素な服を着て馬の横で歩かされてはいるものの、主人との間に少なくない信頼をお互いに抱いている状態だと思ったのです。
「先生……これ、奴隷というより従者とか従僕ですよね?」
私が全文を訳しつつ、こう質問すると先生は小さく驚いた後、誉めてくれました。
「ああ!私もここは奴隷だとイメージが合わなくて引っかかっていたんだよね。うん。従者……いい訳し方だよ。今度他の生徒に聞かれたらそう言ってみようかな」
私が英語の授業で先生に誉められたのは後にも先にもこれ一回こっきりでした。その為、つい最近まで忘れていたんですよね。
【あれっ、社畜の方が奴隷(slave)よりヤバそうじゃね?】と気づくまでは。
実はこの話題、既に5年くらい前にTwitterでバズっているらしいですね。恥ずかしながら存じ上げず、今回調べていて知りました。
なぜその時に「奴隷」の定義が広すぎる……と、多くの人に浸透しなかったのか、残念でなりません。
働いているか、働く人に養われている身ならば奴隷(まぁある意味お金の奴隷みたいなもんですよね……)という価値観から見れば、私達は「奴隷がフツー」ですよね。社畜はフツーより働き過ぎの人達を指すのですから、ヤバイんです。
昔の話ですが、残業と休日出勤を一年間繰り返す生活で身体を壊し、退職して手術する羽目になった私が言います。
社畜は奴隷よりヤバイんです!!
「人員を追加できない」と言う上司や経営陣の言い分は、大抵は「お前を酷使すれば人員を追加する必要など無い」と同じです!!
それで身体や心を壊しても、なけなしの退職金や補償金をちょっぴり払って後は知らんぷりなのです!!
今だけお金を沢山稼ぎたい!!と割りきって、頑張って働いている人を止める気はありません。
ですが「私がいないと仕事が回らない」とか「周りに迷惑がかかる」なんて理由で身体が悲鳴を上げているのに残業(特にサービス残業)や休日出勤をしている人がいるのなら、その人はスパっと休んで転職を考えた方が良いです。
もしその人が身体を壊して退職や休職に入ったら、上司や経営陣はしれっと新しい人や機械を導入しますよ。
だってそれができずに残った人に更なる負担をかければ、ドミノ倒しのように残った人達も倒れていき、その会社が潰れるだけなのですから。
いのちだいじに!!!
ところで。
ここまで読んでくださった忍耐力と寛容さをお持ちの素晴らしい皆々様に、残念なお知らせがございます。
えーと、このエッセイにはオチがありません。
申し訳ございません。
敢えて言うなら……
社畜ではないですが、決して!社畜ではないのですが、わたくし、黒星★チーコはもう目の前に毎年恒例の繁忙期が迫っておりまして、ここからアホみたいに忙しくなる筈……というかもう忙しくなりかけています。
なのに、こんなエッセイを書いている場合じゃねえだろ!と言うことです。
お粗末様でした。
お読みいただきありがとうございました!!