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花祭り〜花の女王コンテスト4


 グレアムは慌てて三人の後を追った。マックスは追う事も出来ず、真っ赤な顔で立ち尽くしていた。


「え?嘘だろ。何してんだ俺?し、心臓がバクバクして、あ、足が動かねえ。何でだ?ありえねえ!」


 マックスは訳が分からず茫然としていたが、置いて行かれたと気づくと、両頬を思いっきりパチンと叩いて後を追った。


「女って怖えー。マジ怖えー。あ、あんなの人間じゃねえよ。化粧であんなに変わるのか?なんか畏れ多くて一緒に歩けねえや」


 マックスはそう言いつつも、キョロキョロと三人を探しながら後を追いかけた。


 一方店を出たエマは、二人の手を引いて聖母マリア寺院に向かってゆっくりと歩いた。


 大通りは祭りを楽しむ人が少しずつ集まり始めていた。通りに並ぶ店の店員や、祭りの日だけ出店する屋台の人達、コンテストに出るために着飾った女性、恋人と腕を組んで歩いているカップルや、小さい子供を連れた家族連れなど。その誰も彼もがエマ達三人の姿を見ると立ち止まり、目の前を通り過ぎるのを口をポカンと開けて見送った。


 特に若い男達は目を奪われ、吸い寄せられるように近寄ると、鼻の下を伸ばして腕を掴もうとしたり、目の前に立ち塞がり行手を阻もうとする輩が多かった。グレアムは三人の護衛のように、その一つ一つに睨みを利かせながら腕を払い、しつこい奴には剣の柄を握り直して見せたりと、あらゆる手を使って近づけまいとした。


 エマはそんなグレアムの苦労を歯牙にもかけず、両隣を歩く二人を見ては目じりを下げた。


「ああ、ロザリン様もアンジェリカ様も本当に素敵だわ。今日はあたしの我が儘に付き合って下さってありがとうございます。どうかこのまま、最後までお付き合い下さいね」


 ロザリンはエマの手に縋りつくようにギュッと握り直すと、泣きそうな顔をして立ち止まった。


「あ、あの、み、道行く皆さんにう、腕を引かれたり、さ、触られたりするのですが・・・。その、な、何か、してしまったんでしょうか?み、皆さんに見られるのが、そ、その、怖くって」


 ロザリンは不安そうに俯いた。


「ロザリン様、鏡をご覧になったでしょう?ロザリン様が花の化身のように美しいので、見惚れたり手を伸ばしたりするんですよ。怖がらずに、そんな奴らは放っておいたらいいんです」


「そ、そんな、見惚れるだなんて。エマさんやアンジェリカ様にならわかりますが、わ、私なんて」


「もう、ロージーったら。さっきお互いに褒め合ったばかりじゃない。私が嘘を吐いたと思ってるの?私こそ普段と違うドレスに身を包んでいて落ち着かないのよ。でも、あなたに似合ってるって言われて嬉しかった。それに周りからも好意的に、いえ、称賛されていると感じてるわ。それでね、それはあなたにも向けられているのよ」


「そ、そんな・・・」


「ああ、本当に綺麗だよ、アンジェ。こんなにも可憐で美しい君を、俺は誰の目にも触れさせたくないな。出来るならこのまま、王宮の花園で俺だけのために咲いていて欲しいと思ってしまうよ」


「グレアム様、今はロージーの話をしているのよ!」


「まあ!なんて狭量な男なの?!美しいものは万人で愛で慈しむものよ。独り占めなんて許しません。いいですか、アンジェリカ様の可愛らしさは武器ですよ、武器。完璧なんてものは目指さなくて結構。気が強そうに見えて気配り上手。きつい目元を気にされてるの?それなのにコンプレックスを悟らせまいと強がる姿も超絶に可愛らしいですよ、もう悶絶ものですからね」


「いや、これは参った。エマ嬢の感性が俺と一緒とはな」


「エマさんまで!私ではなくロージーの、」


「いえ、ア、アンジェリカ様の可愛らしさについてでしたら、わ、私も申し上げたいですわ!」


「な、ロージー、何を言うの?今は私の事でなくあなたの・・・」


「ロザリン様の可愛さは見た目通りですが、アンジェリカ様の可愛らしさは解り辛いかもしれませんね」


 エマがアンジェリカについて話すと、グレアムも負けじとそれに食いつく。ロザリンもどこで介入しようかと、二人の会話の隙を狙っているようだ。


「そうだな。特に学園や社交界では見えにくいはずだ。アンジェは何事も完璧にこなして隙を見せないからな。ここだからこそ、アンジェも見せてるんだろう」


「何ですか?ご自分は難しい場所でアンジェリカ様の魅力に気づいたと言いたいんですか?」


「ハハ、そう聞こえたか?」


「厚かましいですね。アンジェリカ様の愛らしさは、一緒に過ごせば誰でもすぐに気づきますよ」


「そ、そうですわ。アンジェリカ様は、か、完璧でクールに見せておりますが、い、一旦懐に入れると情が厚く、かか、可愛らしい反応を見せてくれますのよ」


「まあ、私はそんなにわかりやすいですか?なんだか恥ずかしくて居た堪れませんわ」


 アンジェリカは頰を染めてプイと横を向いた。


「ハハ、アンジェの愛らしさは隠しようがないから仕方がない」


「もう、三人共おやめ下さい。私はロージーと話してるんですよ。ねえ、ロージー。あなたとはこれから先も、ずっと、そばにいて欲しいと思ってるの。だから、ね、周りの目を気にするより私を見て」


「え?そ、それは?」


 アンジェリカはロザリンに向き合い、真剣な表情で語りかけた。


「私と同じものを見て、あなたの考えを聞かせて欲しいの。私が悩んでいる時は相談に乗って欲しいし、間違った時や気づかない時には教えて欲しいわ。生涯の友として、私を支えて欲しいの」


「あ、わ、私には無理です」


「あなたがサンタマリア教会で声をかけてくれた時、私には信じられる人が一人もいなかったの。陰口や笑い者にされても平然とした態度でいると余計に悪く言われたわ。そんな時にあなたと出会ったの。今でも覚えてる。勇気を出してくれたんでしょう?手も声も震えていたもの。同情して、くれたのよね?」


「い、いいえ。同情して声をおかけしたのではありませんわ。た、泰然としてらっしゃって、国民のために行動され続けている姿に、思わず声をおかけしてしまいましたの。し、失礼をして大変申し訳ありませんでしたわ。で、でも、なぜ今、そのお話を?」


「咎めてるのではないわ。ロージー、あなたは私の評判が一番悪い時に声をかけてくれたの。噂を鵜呑みにしないで、自分の目で見て、考えて声をかけてくれたんでしょう?」


「え、ええ」


「一人で部屋に閉じこもっていると、惨めで、情けなくて、笑われて当たり前の出来損ないの人間のように感じたわ。でも誰にも、両親にもそんな姿を見せたくなかった。だから平気なふりをして普段通りの生活を心がけたわ。外出するのも、いつも通りに行動する時は気持ちを奮い立たせていたわ。でないと動けなかったの」


「そ、そんな風には、み、見えませんでしたわ」


「ええ、そうね。見せなかったもの。でもね、あの日、私はあなたから勇気を貰ったの。私のしている事は間違っていないと心から思えた。あなたと友達になりたいと思ったわ。あなたに認めて貰えるような、あなたに釣り合うような女性になりたいと思ったの」


「そ、そんな、お、畏れ多い・・・」


 アンジェリカはロザリンの手を取って話を続けた。


「ロージー、あなたが大好きよ。もしあなたが悲しい思いをしているなら一緒に乗り越えたいわ。悩んでいるなら一緒に考えましょう?嫌な事があれば私も一緒に怒るわ。嬉しい時や楽しい事を共に喜び合いたいの」


 ロザリンはアンジェリカの心を尽くした言葉に涙をこぼした。


「何も怖がる必要はないわ。あなた一人じゃないの。私が辛い時あなたが側にいてくれたように、私もあなたの側にいるわ。そして、いつもあなたの幸せを願ってる。だから、ね。周りの目を気にする必要はないの。ね、私では、あなたの力になれないかしら?」


「そんなこと!・・・あ、ありがとう、ございます。すぐには、む、無理かもしれませんが、私も、アンジェリカ様にふさわしい、人間に、な、なりたいです」


「そう?じゃあ、まず初めに私と一緒に花祭りを楽しみましょう」


「は、はい。喜んで!」


「アンジェ、そんな本気の口説き文句、俺も聞いたことがないぞ。思わずロザリン嬢に嫉妬してしまいそうだ」


「あら、すでに嫉妬なさってるんじゃありませんか。何といってもグレアム様は狭量ですからね」


「エマ嬢の言葉は聞き捨てならないな。それに面と向かって言われたくない。恥ずかしくなるじゃないか」


「まあ、グレアム様ったら!!」


 グレアムの素直な返答に、ロザリンとアンジェリカは笑みを零した。


「さあ、お腹もすいてきたし、とりあえず話は終わりにしましょう。いいですね?」


 エマは手を叩いて話を終わらせると、近くの屋台で揚げパンとミルクティーを頼んだ。ロザリンとアンジェリカは初めて食べる屋台の揚げパンを、エマの真似をして美味しそうに頬張った。


「フフフ、美味しいでしょう?私の好きな朝食なんです。この機会に私達の生活を色々知って下さいね。まだまだ美味しいものやお勧めがたくさんありますからね」


「ええ、楽しみだわ」「ほ、本当に!」


「さて、今日は花の女王コンテストに参加するんで、聖母マリア寺院まで歩きますよ。予選は午前中で締め切るんでそれまでにね」


「そ、そうですね。エ、エマさんは優勝候補ですもの」


「ほお、そうなのか?確かに、その衣装も似合ってる。アンジェには負けるがな」


「あら、お褒めにあずかり光栄です。それにしては口だけな感じが否めませんがね」


「まあ、それは否定しないよ。なんせ俺はアンジェ以外は皆同じに見えるからな」

 


 通りの店が開く時間になるとさらに人が増え、四人が立ち止まると人に囲まれ、エマ達は口々に称賛され、花を渡されたり握手を求められたりと、なかなか前に進めずにいた。


 しばらく歩いていると、背後のざわざわとした人混みの中からマックスの声がした。


「ちょ、ちょっと通してくれ!こら、邪魔だ、どけってば!!」


 マックスは金縛りと赤面の魔法が解け、ようやく四人に追いついた。



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