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花祭り〜花の女王コンテスト3

 

 花祭りの間もたいていの店は通常通り営業する。祭りと被る日は割増賃金が支払われるため喜んで出勤する者も数多くいた。


 サイラスの店ではいい宣伝になるからと「花の女王コンテスト」に出る事を後押ししていた。だからか、エマやサリアを始め他の店よりも参加する人数も多く、店全体が華やぎ浮き足立っていた。

 

 開店の三時間前という早朝に、エマが更衣室を使う許可を取ったためマックスが鍵開けに来た。

 開けてしまえばもう用無しだという事で、ロザリンとアンジェリカをエマ好みに仕立てる間、マックスはグレアムと食堂で待つ事にした。


 マックスは珈琲を淹れてグレアムに差し出すと、自分用に淹れた珈琲を一口飲んで席についた。


「あー、どれくらい時間がかかるんすかねぇ?どうせ、そんなに変わらないと思うっすがねえ」


「そうだな。アンジェは今でも十分美しいから、これ以上だなんて想像もつかないよ」



 

 エマは更衣室に入ると、ロザリンの花冠を取り髪を解いた。そして持ってきた衣装の中から、今着ているデザインによく似た、淡いクリーム色のドレスを引っ張り出した。それをロザリンに合わせ、


「あー、どうしよう?どっちも似合うわ!ロザリン様の侍女の方とあたしの好みは似てるみたい。それがアンジェリカ様と双子コーデでですって?完璧だわ。どう手を加えたらいいかわかんないわよ」


「で、では、こ、このままで、いいのかしら?」


「いいえ、完璧だけど双子コーデは明日にしましょう。今日はコンテストの日だもの。それぞれが目立つ方がいいと思うの」


「エ、エマさん!わ、私は出場する気はありませんわ!!」


「ダメです。一緒に出ましょうねえ」


 エマはイメージが固まったのか、まずは明るいクリーム色の、足首まであるシフォンのエンパイアラインのワンピースを選んだ。


 小ぶりのパフスリーブの袖にはオレンジの細いリボンが揺れ、スクエアネックの胸元には生地と同色の糸で刺繍が品よく施されている。胸下の切り替え部分には、袖と同じオレンジのリボンを結び、コサージュが留められている。


 風が吹くと裾が花開くようにフワリと広がり、華奢なロザリンを人ではなく妖精のように見せた。


「ロザリン様のイメージはフリージアの花です。とても可憐で可愛らしいんですよ」


 エマはプラチナブロンドの髪にオレンジのリボンを合わせて一緒にゆるく編み込んでいき、そのまま背中に垂らした。編み込んだ髪に小さな花を挿していき、仕上げに着けてきた花冠をそっと乗せた。


「靴はそのままでいいですね。このドレスにもよく似合ってますよ。そうそう、お化粧は最後にしますね。それと、ね、アンジェリカ様も少し触らせてもらっていいですか?」


「ええ、いいけれど、私もコンテストには出ませんわよ」


「ええ。一緒に出たいですが、グレアム様がお許しになりませんよね、きっと。アンジェリカ様は諦めます」


「ええ、私には式典での役割もありますから。でもあっさり引き下がられると寂しいですわね」


「あら、お引止めしてよろしいんですか?なら全力で『一緒に参加』に舵を切らせていただきますが」


「いいえ、失言したわ。忘れてちょうだい」


「わかりました。では、こちらにいらして下さい」


 そうしてエマは、アンジェリカにピンクやオレンジ、ラベンダー色のドレスを合わせては、目を細めて一人頷いている。


「アンジェリカ様のイメージは青いバラかトルコキキョウ、ラナンキュラスも捨てがたいわ。気品と優美さ、凛とした美しさを前面に出そうかしら。でも、それって王太子妃らしい装いになりそうね。それはイヤだわ」


「うーん、ロザリン様とのフワフワ双子コーデも可愛い!それにアンジェリカ様ったら実は華奢だけど女性らしい体つきなのよね。うーん、やっぱりフワフワでいこうかしらぁ?悩むわぁ」


 エマは悩んだ末に、ラベンダー色の袖フリルのドレスを選んだ。サテン地に何層もチュールをあしらい、一番上の生地には花の刺繍が裾に向かって散りばめてある。歩くたびに揺れるチュールの重なりがドレスの色に変化をつけている。広めのラウンドネックには、白いバラやトルコキキョウ、アネモネなど淡い色の造花が縫い留められ、胸元を華やかに演出していた。


 波打つハニーブロンドの髪を編み込みながら結い上げて、白いダリアと薄紫のラナンキュラス、アネモネ、アリウムで作ったヘッドドレスをつけた。


「ア、アンジェリカ様、す、すごく華やかで、とっても可愛らしいです。ラ、ラベンダー色は初めてじゃないですか?い、いつもの雰囲気と違って、この色も、よ、よくお似合いですわ」


「アンジーよ、ロージー。あなたもとっても素敵よ?まるで花の精が舞い降りたみたいだわ」


「フフ、アンジー様こそ!!は、花の精が、な、仲間だと勘違いして、か、()の国に連れ去って、しまいそうですわ」


「まあ!ロージーったら褒めすぎですわ」


 二人は互いに褒め合うと、照れながら恥ずかしそうに笑い合った。


「ねえ、エマさん。私、少しきつめの顔立ちと、王太子妃という肩書きのせいで、隙のないシックなドレスが多いの。こんな可愛らしいドレスは似合わないと思ってたわ。フフ、なんだか恥ずかしいけれど、とっても気に入ったわ!ありがとう」


「まあ、もったいない!!アンジェリカ様もとても可愛らしいんですもの。試したいドレスはまだまだありますよ」


 エマは満足気に微笑んで、戯れている二人の美少女を眺めてから、自分の支度を整えた。


 エマは光沢のある白いシルクサテンのドレスを身につけた。ロザリンと同じエンパイアラインだが、二枚の布を使った、いわゆる神話の女神のスタイルだ。胸元と背中の深いスリット、両肩はブローチで留め、アクセントをつけている。太めのベルトを絞め、そこから足元にかけてのドレープが美しいデザインだ。


 髪は緩く編んでサイドに垂らし、右耳の下に白いダリアの花を、そして編み込んだ髪に白い花を挿した。まるでエマ自身が一輪の花のように見えた。


「フフフ。可愛らしい娘を連れた、花の女神をイメージしたんですよ」


「まああぁ!ほ、本物の女神のようですわ!!」


 ロザリンとアンジェリカはうっとりとエマを見つめた。


「そ、それにしても、そ、その、私達のドレスは、ど、どうしたんですか?エ、エマさんの物なんですか?」


「ええ。可愛いものが好きで、気に入るとつい買ってしまうんです。でもあたしには似合わないから飾ったり妄想したりして楽しんでたんですが初めて役に立ちました。ああ、ロザリン様と出会えて、さらにアンジェリカ様にもあたしのお気に入りを着ていただけるなんて奇跡だわ!神様、女神様感謝します!」


 エマは感極まった様子で身悶えた。


「一生分のラッキーを使ってしまったとしても悔いはないわ!この花祭りはあたしにとって一生の宝物よ!本当に幸せ!眼福だわ!!ああ、この祭りだけだなんてもったいない。アンジェリカ様もとても可愛らしくてお似合いなんですもん。これかもこの路線でいって欲しいわ」


 エマは両手を組んで、蕩ける様な笑顔で二人を見つめた。


「さあ、では仕上げにドレスに合わせてお化粧をしますよ。といっても少しドレスの色に合わせて色を乗せるだけですけどね」


 エマは一人ずつ鏡の前に座らせると、それぞれのドレスの挿し色に合わせた化粧を施した。


「ロザリン様は、冬を遠ざけ春の訪れを祝福する優しい光。疲れた人々を包み込む暖かく柔らかな風。喜びを運ぶ花の精を」


「アンジェリカ様は艶やかな新芽がぐんぐんと伸びる初夏の訪れ。強い日差しとエネルギーに溢れた夏の川のせせらぎ。高潔で凛とした美しさと、嫋やかでしなやかさを併せ持つ花の精をイメージしました。あーもー、最高かよ!!と、失礼しました」


 エマはガッツポーズをしたり頬に手を当てて悶えたり、うっとりと見つめたりと、コロコロと表情を変えて二人を見つめた。


「フフ、エマさんは芸術家ですのね。今日の私達はエマさんの作品のようですわ」


「ええ。ア、アンジー様の仰ると、通りですわ。それに、エ、エマさん自身が美と花の女神の化身のようです。と、とっても神々しいですわ」


「ありがとうございます。では、外に行きましょう。お二人とも、今日はあたしの娘として一緒に祭りを楽しみましょうね」


「ええ、よろしくお願いしますわ」


 三人は更衣室を出て、グレアム達のいる食堂に向かった。


 三人が食堂に入ると、待っていた二人が音を立てて立ち上がった。二人とも目を見開いて立ち尽くしている。


「あらあら、お二人ともどうしたんですか?あたしの娘達の美しさに圧倒されたんですか?」


「あ、ああ」


 グレアムは片手で口元を覆い、アンジェリカをまじまじと見つめている。居心地の悪くなったアンジェリカがフイと目を逸らし、エマの後ろに隠れた。


「あ、アンジェ、隠れないで」


 グレアムが慌ててアンジェリカの元に駆け寄った。


「あまりにも綺麗で、声も出ないくらいびっくりしたんだ。それにしても、このまま閉じ込めて誰にも見せたくないな」


「まあ!聞き捨てなりませんね!!この美しさを独り占めしようなど。ダメです、ダメです。このままコンテスト会場まで行きますよ」


 エマは本気か演技かわからない態度でグレアムを詰った。

なかか

「まったく、この男達は礼儀知らずですねぇ。着飾った美女に褒め言葉の一つも言えないんですから、絶対にモテないでしょうよ。こんな奴らは放っといて、今日は女三人で遊びましょうねぇ」


 エマはマックスとグレアムを睨むと、ケッとばかりに言い捨てた。そしてロザリン達の手を握ると、サッサと部屋を出て行ってしまった。



 

















 


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