譲れないもの3
いつも読んで下さりありがとうございます。
初歩的なミスで「譲れないもの2」と「譲れないもの3」の順番を間違って投稿してしまいました。話が繋がらず驚かれたと思います。大変失礼致しました(>人<;)
「リディ、私は不誠実な事はしたくないと思っている。だから話し合いたいんだ。二三日は実家に戻ってもいいが、落ち着いたら帰って来てくれ」
「やめて!!聞きたくないって言ってるでしょう!」
「そんな事を言わないで。お互いに納得いくまで話し合いたいんだ」
「イヤよ!あたしは話す事なんてないわ」
「いや、話す必要がある。二人の今後に関わる事だ。だから、リディが帰ってくるのを待っているよ」
「イヤよ!なんにも聞きたくない!!」
何度も繰り返す押し問答の末、ヘンドリックの言葉を遮ってリディアはヒステリックに叫んだ。その態度にヘンドリックは怒りが身体中から吹き出しそうになった。腰に履いた剣の柄を握って気持ちを落ち着けようとしたが上手くいかなかった。
「他でもない、私が頼んでるんだぞ!!それでも従わないのか?」
「あたしに命令するのはやめてよぉ!!」
「くそっ!黙れ!!もういい、好きにしろ!その代わり後で後悔しても遅いぞ!!」
ヘンドリックは低い声で吐き捨てるように言うと、リディアに背を向け町に向かって歩き出した。
「ヘンリー!!あたし、家には帰らないからぁ!!」
後ろからリディアの叫ぶ声が聞こえるが、ヘンドリックは振り向きもせず、ただひたすらに前を向いて歩いた。リディアは燃えるような目でその背中を睨みつけると、イライラをぶつける先を探しながら町に向かった。
「何であたしが悔しい思いをしないとダメなのよぉ!あたしは悪くない!何で信じてくれないのよぉ!信じてくれないヘンリーなんて大っ嫌い!!」
「うそ、嫌いじゃない。でも、あたしを大切にしてくれないヘンリーはイヤ、イヤ、イヤよ!!何であたしがこんな思いしなきゃいけないのよぉ!幸せにしてくれるって言ったじゃない!あたしの事を守ってくれるって!全部嘘だったのぉ?ヘンリーのバカァ」
リディアはひとしきり悪態をつくと気が済んだのか、鼻を啜りながら実家に向かってトボトボと歩き出した。
「父さんや母さんに何で言えばいいの?女王の娘になれたら喜んでくれるって思ってたのに。降ろされたって知ったら何て言われるんだろう」
リディアは惨めな気持ちのまま、いつの間にか町のはずれまで戻って来ていた。
「おい、あんた顔色が悪いがどうしたんだ?」
顔を上げると騎士の格好をした男が立っていた。見上げる背の高さや体格、陽光を受けてキラキラと輝く金髪と、優男っぽい甘いマスクがどことなくヘンドリックに似ていた。
リディアは一瞬、ヘンドリックが戻って来てくれたのかと顔を輝かせたが、違うとわかり大きく落胆した。
「なあ、どっか調子でも悪いのかよ?」
リディアは男には興味が無いとばかりに返事もせず、溜息を吐いてからまた歩きだした。男は軽い調子で、揶揄うようにリディアに話しかけた。
「おいおい、ちょっとこっち向けよ!楽しくお喋りしようぜ!あんた、先日の花の女王コンテストでラストまで残った子だろ?美人だから覚えてたんだ。俺はハラルド。武者修行で諸国を旅する平騎士さ」
ハラルドは簡単に自己紹介をすると、リディアに手を差し出した。だけどそれも無視してリディアは歩いた。ハラルドはなおも、リディアの後ろを歩きながらお喋りを続けた。
「ちょちょ、ちょっと無視すんなよな。どうせ町まで行くんなら一緒に行こうぜ。俺さ、今度の剣術試合に出るんだ、すげえだろ。予選大会は雨で動きにくかったけどさあ、へへ、結構余裕で残ったんだぜ。ああ、そういや、強え奴がいたらしいが、幸い俺は違う奴らと戦ってたからそいつとは当たらなかったんだ。運も実力のうちっていうし、俺って女神様に愛されてんだな」
リディアは、無視しても平気でお喋りを続ける男を追い払おうと決めて口を開いた。
「さっきから煩いんだけど」
「おっ!ようやくこっち見たな!やっぱ美人だなあ。マジで好み!!なあなあ、これから一緒に飯でも食わねえか?旨い店を教えてくれよ」
「あんたとなんて食べたくないわ。あたしの事なんか放って早くどっか行きなさいよ。あんたとなんかどこにも行かないわよ」
「つれねえこと言うなよ。なあ、仲良くしようぜ。こう見えても俺って強いし優しいし、モテるんだぜ」
「それが何よ。あんた、平騎士って事は平民なんでしょ。あたし平民には興味ないの」
「何言ってんだよ。その口調はあんただって平民だろ?まさか王都で流行ってる物語みたいなんを夢見てんのか?ハハハ、子供みてえだな。あんなでたらめな話信じてんのかよ」
「うるさい!!あれはあたしとヘンリーの物語なんだから!何にも知らないくせに、でたらめなんて言わないでよ!!」
ハラルドは両手を頭の後ろに組んで、ニヤニヤ笑いながらリディアの後からついて歩いた。
「へえええぇぇ。あの物語のヒロインだっていうのか?それはすげえなぁ。なあ、なら、あんたのお相手は王子様だって言うのかよ?」
リディアはカッとしてヒステリックに答えた。
「そうよ!あたしは王子様と恋に落ちたの。だからあんたみたいな平騎士なんかに用はないわ。とっとと消えてよ!!」
「うわっ!気が強えなあ。フーン、でもさ、王子様があんたみたいな平民のじゃじゃ馬を好きになるか?婚約者っだった女はすげえ別嬪でいい女だったんだろ?ま、俺はあんたみたいな生意気な女を組み伏せるのが好きだけど・・・なーんてな、笑うとこだぜ。ジョークだよ、ジョーク。へへ、なんなら試してみるか?優しくしてやるぜ」
ハラルドは唇をペロリと舐めて笑った。
「ハッ!誰があんたみたいなクズ男、バッカじゃないの。早く消えてよ」
「ハハ!冗談だよ、冗談!これぐらいで気い悪くすんなよな。冗談言えるくらい仲良くなったって事で、一緒に旨いもんでも食いに行こうぜ」
ハラルドはリディアの肩に腕を回して抱き寄せた。リディアがバランスを崩してハラルドの胸に倒れ込むと、力強く抱きしめた。
「危ねえなあ!やっぱ疲れてんだろ?いいから俺に寄っかかれよ。それとも王子様みたいにお姫様抱っこしてやろうか?」
リディアは腕を突っぱねて身を捩ったが、腰をしっかりと掴まれていて動けなかった。
「あんたが引っ張るからじゃない!離しなさいよぉ!!初めて会った男なんかについて行くわけないでしょう!!離さないならあんたに襲われたって大声で叫ぶわよ!問題を起こしても剣術大会に出られるのか試してみる?」
ハラルドは慌てて手を離した。
「おおっとぉ!!悪かった!放したんだから叫ぶなよ。俺さ、この祭りの間はリィジュウ亭に泊ってんだ。気が向いたらいつでも遊びに来いよ。ま、自己紹介も済んだし、これでもう知り合いだな。という事で、また近いうちに会おうぜ、リ・ディ・アちゃん」
「な、なんであたしの名前?!・・・フンだ!あんたになんか会いたくないわよ!!もう、どっか行ってよ!!顔も見たくない!」
「ハハハ、まったく手厳しいなあ。今度会った時には名前を呼んでくれよな!ハリィでもハルでも呼びやすいのでいいからさ。頼むぜ、リディアちゃん!」
背後からハラルドの高笑いと声が追いかけてきたが、今度こそ無視して、リディアは速足で町を目指した。
町の広場が近づくにつれ、再び賑やかな音楽と笑いさざめく楽しげな声が風に乗って聞こえてきた。パレードの後ろでは、恋人同士や友達と手を繋いでダンスをしている姿も見えた。
リディアは羨ましそうにチラリと眺めてから、メイン通りから一本外れた裏道に入った。
「おい、リディア!お前どこに行くんだよ」
不意に背後から声をかけられ、リディアは裏道に入った所で、いつの間にか立ち止まって考え込んでいた事に気がついた。さっきの男が戻って来たのかと思い肩を怒らせて振り返ると、マックスが立っていた。
「なあんだ、マックスかぁ」
「なんだはないだろう?お前、パレードはどうしたんだ?」
「別に・・・あんたには関係ないでしょう」
リディアはドレスをギュッと掴むと、ごまかす様に笑った。
「お前なあ、何笑ってんだよ。さっきルイスに会ったが心配してたぞ。弟にまで心配かけるなんて、どっちが年上かわかんねえな。しっかりしろよな」
「マックス煩い!あんたこそ何でこんな所にいるのよ」
リディアは咄嗟にごまかす事が出来ず、カッとした勢いのまま言い返した。本当は少しでも早く、実家の自分の部屋に隠れてしまいたかった。
「ああ?広場に行こうと思ってたらお前の姿が見えたから確かめに来たんだ。まさか本当にお前だとは思わなかったけどな。で?なんで山車に乗ってないんだよ。まさか、またなんかやらかしたのか?」
「やらかしたって何よ!あたしは何にもしてないわよ。あたしは、あたしはグレアム様に嵌められたのよ!」
マックスは頭でもおかしくなったのかと訝るようにリディアを眺めた。しわくちゃなドレス、髪はまだきれいに結わえられ花を挿しているが、化粧もせず、何より憔悴した様子に不信感を覚えた。
「お前、昨夜の神事で何かやらかしたんだな。そんでパレードから外されたんだろ」
リディアの肩が跳ね上がった。その様子を見てマックスは大きく溜息を吐いた。
「お前さあ、なんでいっつもそうなんだよ。人の所為にばっかりしてさ。その性格、嫌になんないのかよ」
「人の所為になんてしてないわよ。昨夜だって本当にグレアム様が先にイヤな事を言ったんだもん。その所為で女王の娘を降ろされたのよ!悪いのはグレアム様よ!!なのに司教様もヘンリーもグレアム様の味方をしたのよ!あんまりじゃない!!」
リディアはポロポロと涙を流しながら、マックスに訴えた。一人でも共感してくれる人を探したかった。だけどマックスも呆れた顔でヤレヤレと肩を竦めただけだった。




