偽らざる祭り
私、のんびり死体と申します。
えー今回はですね。
この、此方郡彼方町で行われております。
「偽らざる祭り」
この祭りの紹介をさせていただきます。
日本でも、特に古い歴史を持つ祭りでございまして。
ご神木の周囲ですね、町民総出で踊りながら、ぐるっと廻ります。
ご神木は、これは桜でしょうか。
非常に大きな、立派な桜です。
正面に参りましたら、大きな声で、自分の心から望んでいることを。正直にですね。
正直にご神木にお伝えし、五穀豊穣を祈願するというお祭りなんですね。
じつは、この祭り、日本3大奇祭に、選ばれそうとか、選ばれないとか言われるくらいの。
えぇ、壮大な祭りなんですよ。
では、さっそく様子を見てまいりましょう。
ピーヒャララ♪ ピーヒャララ♪
ピーロリ ピーロリ
祭りばやしが鳴っている。
皆一心不乱に踊っている。
そして、ご神木の正面、そこで叫ぶのだ。
心から、本当に望むもの。
それを、叫ばなくてはならない。
偽れば神罰が下り、本心を叫べばご利益がある。
何かに祈りを捧げるということは、リスクがあることなのだ。
最初は、小さな子供か。
可愛らしい、5歳くらいの浴衣を着た女の子が、正面にたどり着く。
「わたしはぁ、智君と結婚したい~」
皆が和む。
やはり、子供は純粋でいいな。
智君であろう、幼い男の子が照れている。
次に、50代くらいの女性が続く。
先ほどの少女の、おばあちゃんなのだろうか。
清楚にまとめられた髪の、上品な女性だ。
「私は、10代のイケメン俳優のうなじを嗅ぎたい」
一瞬、皆の笑顔がひきつる。
子供たちは、ポカンとしている。
しかし、次第に拍手が起こる。
正直さというのは、時に残酷である。
彼女は、誠実にそれを乗り越えたのだ。
やはり、品のいい女性というのは、侮れないな。
あぁ、次は30代くらいの、眼鏡の男性か。
すこし、お腹がビール腹になっている。
酔っているのだろう、顔は少し赤い。
「自分はぁ、女性専用車両が空いているのに、普通の車両に乗ってくる女に、説教したい」
よく見ると、彼は震えている。
勇気を振り絞ったのだ。
説教だけでいいのか。
優しいやつだな。
ご神木を見ると、僅かに揺れているように見える。
次は、老齢の男性だ。
職人のような、厳しそうな顔をしている。
浴衣を着崩すことなく、ピシッと擬音が聞こえてきそうな、凛々しい姿だ。
「私は、えっちな動画に出てくる、時間を止めるスイッチが欲しい」
おぅ。
おやっさん、そんなことを考えていたのか。
あんたとはいい酒が飲めそうだ。
ご神木が、目に見てわかるほどに震えている。
アンタモ、サンカシナサイヨー
あっ、私もですか。
では、僭越ながら。
そういって、私も参加することになってしまった。
どうしよう、本当のことが言えるだろうか。
あぁ、そろそろ順番が来てしまう。
言えるだろうか。
いや、言わなければ、いけない。
ここで自分に正直になれなければ、ずっと自分を偽ることになる。
のどが渇く。
これを言うことで、俺が失うものは多い。
今まで誰にも、言ったことはない。
俺の番が来た。
「俺は全裸で、30代くらいの人妻に、そんなことしたらメッって、怒られたい」
ご神木が、ぶわっと音を立てて、花を咲かせる。
舞い散る花弁が、俺を讃えてくれる。
上記で物語は終わりです。以下、おまけです。
祭りの喧騒が落ち着きを見せる頃、老齢の男性が近寄ってくる。
「一つ聞きたいのだが、よろしいか」
彼の面持ちは真剣である。
緊張しながら、うなずく。
「例の、あの30代の人妻だが、服装はどんなだね。」
思いもよらぬ質問に、赤面しながらも答える。
「こっコンサバです。オフホワイトのトップスに、カーキのプリーツスカートです。」
「ヤース、メーグミのイメージです」
なるほど、そう高齢の男性は頷く。
「入学式に着るような、カチッとしすぎないスーツに、白のブラウスはどうかね」
「胸には、白のコサージュをつけて・・・」
彼は、一つ息をついて
「30代のアダーチ・ユーミのイメージで」
俺の体に、稲妻が走る。
思わず、彼に握手を求めた。
2021年 夏 最高の友と共に
この物語を終える。