明日なき暴走に無明の闇路を
#河原
身支度を整えたあと、焚き火の前に2人並んで座る西条とミサエ。
ミサエは頭を西条の肩に預けてまどろむ。
突然、目の前が閃光に包まれる。
金属音と原色の光の乱舞。
……しばらく経って、再び辺りが静けさに包まれる。
西条が立ち上がって夜空を見上げると、螺旋や鍵型の軌跡を描いて光点が彼方へ去るところだった。
ミサエは目を見開き、座ったままの姿勢で固まっている。
草むらから飛び出してきたトモミが、川面を指さし悲鳴を上げる。
コクーンは何処にもなかった。
#軽トラックの車内
一夜明けて、ミサエもトモミも西条も呆然の態で車を走らせる。
運転するミサエ。その隣りに西条。トモミは助手席に座っている。
トモミ「これから、どうするの?」
ミサエは黙って車を走らせる。
あてもなく、ただ西に。
しばらくして西条が口を開く。
西条 「いや、かえって身軽になったのかもしれない。」
あとの2人は黙って聞いている。
今はもう、精神的にも西条に頼りきっている。
西条 「金のことはあきらめよう。もともと奴らを相手の取引は危険が大きすぎる。それよりみんなで身を隠そう。」
ミサエ「でも私には……」
西条 「君の子供も一緒に、さ。当座の生活は心配ないよ。今までの稼ぎを分散して、いろんなトコロに蓄えてある。」
西条はトモミの方を振り返る。
西条 「もちろんトモミちゃんも一緒だよ。」
不安げなトモミの顔が、パッと明るくなる。
西条 「ちよっと、そこで降ろしてくれないか。」
ミサエ「どうして!?」
西条 「地下へ潜るための手配を全部済ませてくる。偽造旅券屋や闇資金の洗濯屋は用心深い。面識のない君らを連れていくわけにはいかないんだ。わかるだろ?」
ミサエ「でも……」
西条 「これでも僕は10年以上この世界で生き延びてきたんだ。その実績を買ってもらいたいね。」
農道の右手には田畑がひろがり、左手は薄暗い林になっている。
林に食い込むように作られた車寄せにトラックは停車する。おそらく農作業車を停めるためのものだろう。
車を降りた西条は、ミサエにメモの切れ端を手渡す。
西条 「ここで合流しよう。3日経っても僕が現れないときは……」
ミサエは西条の言葉をさえぎって、
ミサエ「ずっと待ってるわ。」
ミサエはなぜか西条と目を合わせることができなかった。
走り去る車を見送る西条。
林の中から出てきた黒服が西条を取り囲む。
黒服隊長「時間切れだ。どうなるかは、わかっているな。」
西条 「ああ。」
#軽トラック
すれ違う車がフロントガラスのないトラックを不審げに見て通り過ぎる。
ミサエ「車を替えた方がよさそうね。」
またも1台のオープン・カーが前方から近づく。好奇の目に晒されるのにうんざりしてミサエが視線を落としたとき、すれ違いざまにオープンカーに乗った男がトラックの車内に何かを投げ入れた。
発煙筒だ。
ミサエは慌てて車を路側に停め、煙の充満する車内から発煙筒を蹴り出そうとドアを開けた瞬間、煙の向こうから突き出てきた小銃が彼女の頭に突きつけられた。
トモミの方を見ると、困惑してこちらを見返す彼女の頭にも銃が突きつけられている。
ホールド・アップ。