碧の河面に愛の語らいを
西条 「彼、バカにしてるだろうな、醜い争いをしてる僕らをさ。」
ミサエ「アンタには悪いけどさ、あれは手の込んだオモチャよ。」
西条 「そうか、君は信じないんだったね。」
ミサエ「ねえ、アナタはどうしてこの仕事を始めたの?」
西条 「昔、子供のころE・Tって映画があってさ。観たことあるかい?」
ミサエ「ええ。」
西条 「あれを観て泣いたんだ。」
ミサエ「冗談でしょ?」
西条 「主人公の少年にじゃないよ。腰のところにさ、鍵をたくさん付けた科学者が出てくるんだ。彼は子供のころからUFOにあこがれて、今の僕みたいな仕事をしてるんだけど、でも結局E・Tは彼の処には降りてこなかった。それどころか子供のわがままにふりまわされたあげくに、彼はE・Tと1度も話すことができなかったんだ。」
ミサエ「それが、この仕事をする動機なの?」
西条 「大学で物理を専攻したけどまともに就職する気にもならなくて。そんなときこの仕事に誘われて一も二もなく飛びついたのは、やっぱりあの映画のせいだったのかも。でも最近、妙にE・Tに出てきた科学者のことを思い出すんだ。結局、僕も彼と同じだよ。僕は何度か彼らと直接会ったけど、彼らを理解することなんて不可能なのかもしれない。彼らは絶対不可侵の他者なんだ。僕の一方的な思い入れなんて……あの科学者もそうだけど、僕もどこかで間違ったのかもしれないな。」
2人とも黙って赤い火を見ている。
西条 「君は仕事だから……って、言ってたよね。」
ミサエ「うん。」
西条 「じゃあ、どうしてこの仕事を選んだの?」
ミサエ「成り行きでね。」
西条 「でもまるっきり信じてないなら、やっぱりこんな仕事してないだろ。」
ミサエ「こういうことに大金を使いたがるバカがいるのよ。収入がいいから私はやってるだけ。」
西条 「……そんなに金が欲しいのか?」
ミサエ「子供がいるのよ。」
西条 「はは!そんなふうに見えないな。」
ミサエ「だからかしらね、母親としてはデキのいい方じゃないみたい。今、母に預けてるの。お金だけだもの、私がしてあげられるのは。」
西条 「気を悪くしないでくれよ、男嫌いかなって思ってたんだ。」
ミサエ「男は嫌いじゃないわよ。男のために友達を裏切る女が嫌いなだけ。」
西条 「? 君の相棒はそんな感じだけどな。」
ミサエ「だからあの娘、年中騙されてるわ。放っとけないのよ。」
2人とも少し笑う。
西条 「ところで、子供の父親ってどんな男?」
ミサエ「なんかアンタに似てるわ。夢ばっかり追いかけて……」
西条 「今どうしてるの?」
ミサエ「死んだわよ。自分の夢に殉じたってトコかな。」
西条 「ひょっとして……この仕事は旦那の後を引き継いだってワケ?」
ミサエ「他に割のいい仕事なんかないもの。」
また、しばらくの間。
西条 「旦那って、そんなに僕に似てた?」
ミサエ「顔じゃないわよ、性格的に。」
西条、ミサエの肩に手を回す。
西条 「ひょっとして、僕にもチャンスがあるってことかな?」
ミサエ「ちょっとカンベンしてよ、そのテの男にはうんざりしてるんだから。」
と言いつつ、ミサエはさして嫌そうではない。
#河原
トモミが紙袋を抱えて戻ってくる。
しかし普通でない気配に足を止める。
闇の中、焚き火の側で男女がキスを交わしながら抱き合っている。
ミサエと西条だ。
トモミ、ひどく寂しそうな顔をして何度か振り返りながら、少し離れた場所に置いてあるトラックに向かう。
トラックは身の丈ほどの葦の中に隠してあった。
シートに座ると、膝を抱えてうずくまるトモミ。