漂泊者につかの間の休息を
#回収課のオフィス
会議室に急場の対策本部らしきものが作られている。
大きな肘掛け椅子に座り、卓上の電話で相手と話している課長。
ミサエ“用件は、言わなくてもわかってるかしら?”
課長 「ビタ1文払う気はない。」
ミサエ“最初の口上としては、そんなもんかしらね。でも、ブツがないことが上層部にバレそうになれば、そんなこと言ってられないわよ”
課長 「残念だよ、もう生きた君と会うことがないと思うとね。」
電話が切れる。
別室から、回収課の職員が大判のプリントアウトを持って入ってくる。
職員 「逆探できました。」
黒服隊長「居所がわかったのか!?」
テーブルを挟んだ課長の向かい側に、黒服の隊長と部下が何人か立っている。
課長 「今の電話だけでそこまでわかるとは思っていない。奴らも一応プロだ。」
職員がプリントアウトを広げて説明を始める。
職員 「まだ国内ですね。もう東日本じゃないと思います。」
課長 「どこまで掴めそうだ?」
職員 「時間を掛ければ正確な位置もわかるでしょうが、ただ突き止めたとしても相手が移動してますからね……」
黒服隊長「そんな悠長なことを言ってていいのか? もうコクーンなど、どうでもいい。早く西条を見つけて殺してくれ。」
黒服の隊長が悲痛な声を出す。課長はうんざりしたように、
課長 「何かわかれば知らせる。」
しばらく職員と話を続けた後、イラだったように、
課長 「お引き取り願え。」
黒服たちが出て行った後、
課長 「無能ってのは、本当らしいな。」
会議室にちょっとした笑いが起こる。
#河原
夕刻になって、軽トラックは砂利の広がる河原に乗り付けた。
ミサエ「どうするの?」
西条 「彼はだいぶ弱ってる。経験から言って、水に浸すのがいい。手伝ってくれ。」
車を降りてコクーンを河原に降ろそうとする。しかし怪我をしている西条は、すぐさま苦痛に顔をゆがめる。結局3人がかりで、なんとかコクーンを川に漬けることができた。
夕闇の中で焚き火をして、濡れた体を暖める3人。
トモミ「アタシ、なんか食べる物買ってくる。」
ミサエ「あんた1人じゃダメよ、アタシも行くわ。」
トモミ「でもー、その人ツラそうだよ。」
暖まると、西条の傷の痛みが戻ってきたらしい。
しばらく迷うミサエ。
ミサエ「いい? コンビニは入っちゃダメよ。」
トモミ「どうして?」
ミサエ「いるのよ、ああいうところには連中が。なるべくお婆さんが1人でやってるようなパン屋さんか何かを探すのよ。田舎だからあるはずだわ。」
いろいろと注意を授けたあと、トモミを送り出す。
戻ってきて、西条の包帯を新しいものに替える。
西条 「すまんね。」
ミサエ「いいのよ。」
西条、半ば水に浸ったコクーンを見やる。