親のない子に刹那の道連れを
#逃げる途中、軽トラックの中
西条は前の座席に移っている。
運転するミサエと西条に挟まれた形のトモミが西条の腕に包帯を巻く。
西条 「貫通したらしい。大丈夫だ。」
トモミ「でも、よかった。助けてくれたんだ。」
西条 「ところでさ、後ろの荷物……あれダミーだろ?」
答えようとするトモミの口をミサエが指で押さえて制する。
ミサエ「どうして?」
西条 「用意周到に待ち伏せまでしてたんだ。本物をわざわざ撒き餌にするほど君らはバカじゃないだろ?」
ミサエ「じゃあアンタたちはどうなの? 何の障害もなしにブツを取れると思ってたってワケ?」
トモミ「ねえミサエちゃん、どういうこと?」
ミサエ「バカね。ここでの会話はコイツの仲間が聞き耳を立ててるに決まってるでしょ。うかつなこと口走れば、黒服がさっそく飛んで行くわよ。」
トモミ「でも、この人も撃たれてるのよ。黒服だって何人か撃たれてたよ!」
ミサエ「防弾でも着てたんじゃない? それに、本当に撃たれてたって気にするような連中じゃないわ。」
西条 「じゃあ、コレで喋ってくれるかい?」
西条が拳銃を取り出す。トモミが息を呑む。
ミサエ「やってみな。アンタ道連れにするくらいの覚悟は出来てるんだよ。」
トラックのスピードを上げるミサエ。
しばらく考えこむ西条。
西条 「負けたよ。どうもこっちの上司は無能なもんでね、最初からうまくいかないような気がしてたんだ。でもさ、聞き耳を立ててるのはウチの連中だけじゃないようだぜ。」
ハッとするミサエ。
ミサエ「ドコなの!?」
西条 「ちょっと待てよ。」
懐から電波感知機を取り出した西条は、車内のいろんな場所にアンテナを向ける。備え付けの無線機の辺りでひときわ甲高い電子音がする。
西条 「ここだな。木は森に隠せってね。」
ミサエ「じゃあ回線を切ってても……」
西条 「会話は君の上司に筒抜け。」
トモミ「やーん、課長の悪口いっぱい言っちゃったー。」
ミサエ「でも簡単には信用しないわよ。アンタには一回騙されてる。」
西条 「最初からよく考えてみてくれ。北海道で君らと会ったのが本当に偶然だと思うかい? なぜ僕らに、君たちが北海道にいることがわかった? 誰が君らを北海道まで行かせた? そもそも北海道で、本当に仕事らしい仕事があったかい? いままでに君らの上司が、そんな無駄なことをさせたことがあったのかい?」
ミサエ「……」
西条 「結局君らは利用されてたんだよ。僕らをおびき出すためにね。」
ミサエ「でもどうしろっていうの。だからって寝返らないわよ。どうせそんなことしたって殺されるに決まってる。」
西条 「君はかしこいよ。だからさ、僕と組まないか?」
ミサエ「は!?」
西条 「君の組織と僕の組織。どちらか高い値を付けた方にブツを売ろうじゃないか。」
ミサエ「ちょっと待って、アンタには仲間を裏切る理由なんてないわよ。」
西条 「あるよ。この間の失敗を責められてたのは本当の話さ。僕はどうせ現場を外されて左遷されることになってたんだ。はっ、現場以外なんて。僕にとっては何の意味もないよ。」
言いながら西条は胸をはだけ、テープで貼り付けていたマイクをはがす。ミサエに拳銃を手渡しながら、はがしたマイクを目の前に持ち上げてみせる。
西条 「と、いうわけで皆さん。金のことは追って連絡するよ。それまで、せいぜい金策の相談でもしててくれ。」
そう言うとマイクを車外に放った。同時にミサエが無線機に銃弾を撃ち込む。
西条 「それじゃ、本物のブツがある所に行ってもらおうか。」
ミサエ「アンタ……本当に信用していいのかしらね?」
西条 「銃は君に預けるよ。今度裏切ったら殺してくれてかまわない。」