阿鼻叫喚に栄光の船出を
#回収課のオフィス
デスクの上の電話が鳴る。
受話器を取る課長。
女性事務員「外線です。コクーン(繭)のことでお話があるとか。」
課長 「回してくれ。」
黒服の男 “コクーンを返してもらおう”
課長 「回収した隕石のことかね。」
黒服の男 “あれが隕石だと? 墜落したUFOの脱出ポッドのことだ!!”
課長 「わが国は公の場で、その手の存在を否定している。存在しないものの所在など知るわけがない。」
黒服の男 “お宅の国の事情など訊いていない。……商品を渡せと言っている。”
課長 「なんにせよ、わが国の領土に落下した物体は回収して、しかるべき研究機関に送り届ける。それが我々の仕事だ。」
黒服の男 “いいのか? 君の部下2名を預かっている。商品の所在を明かさないなら、彼女らの首だけを君のところに送り届けよう。”
課長 「それは妙な話だな。」
黒服の男 “なにがだ?”
課長 「それなら、そこにいる者が知っているはずだが。」
#ホテルの部屋
受話器を持ったまま、一瞬唖然とした黒服の男。
風貌と他の黒服たちの態度から、彼が隊長格であることがわかる。
部屋の床には縛られたミサエとトモミがあぐらをかいて座っている。
黒服の男はミサエに近づき憤然とした様子でしばらく彼女を見下ろした後、渾身の力で平手打ちを喰らわせる。
#保管倉庫 DF350
富士山麓の某市。
ひとけのない倉庫街を走る数台のセダン。
ある倉庫の前で止まると、数人の黒服の男、西条、そして後ろ手に手錠を掛けられたミサエとトモミが降りてくる。
ミサエたちから奪った鍵で黒服の1人が通用口から入り、中から電動の巨大なシャッターを開ける。
広い倉庫の真ん中に、ポツンと置かれている軽トラック。あの夜運びこんだそのままの姿だ。
トラックに駆け寄って、コクーンを確認する西条。
西条「馬鹿な、このまま放置するなんて……だいぶ弱っているはずだ。」
心配そうに「のぞき窓」から中のエイリアンを覗き込む。
黒服の隊長らしき男が、満足げに鼻を鳴らす。
黒服隊長「運び出せ!」
黒服の部下が荷台に飛び乗って作業を開始する。西条は男たちに押しのけられる。
と、突然電動シャッターが降り始める。
2階のクレーン制御室から、小銃を構えた戦闘服の男たちが出て来て狙いを定める。
黒服隊長「待ち伏せか……」
外に待機していた部下の援護射撃に守られて、黒服たちは自分たちの車に戻る。
壮絶な銃撃戦。
軽トラックの横に置き去りにされた形のミサエとトモミに西条がすり寄る。
西条 「トラックの鍵は?」
トモミ「付けたまんま。」
西条がミサエたちの手錠を外す。
西条 「逃げるぞ。よーし、走れ!」
西条が背中を押すと同時に、ミサエとトモミは運転席に転がり込む。西条は荷台に飛び乗って、コクーンをかばうような姿勢をとる。ミサエがキーを回すと、エンジン音に気付いた黒服が発砲してきた。ミサエはトモミの頭をシートに押さえつけると、自分も横になったままアクセルを踏みつけた。
銃弾の舞う中をトラックが突っ切る。
動きの遅いシャッターが閉りきる寸前に、間一髪トラックは屋外に躍り出る。
気付くとフロントガラスは粉々に砕けていた。荷台では西条がうずくまって、うめき声をあげている。
ミサエ「大丈夫っ!?」
西条 「腕に当たった……らしい。」