繭泥棒に星屑を
#紀伊半島のとある山岳地帯。
真夜中、人気のない山奥。
木々は倒れ、地の草は所々焦げている。
辺り一帯に金属片のようなものが散乱し、煙が薄く漂っている。
何かが墜落したような混乱を極めた現場で活動する軍装の男たち。
煌々と輝く照明を背景にして、ガイガーカウンタで放射線値を測定しながら、必死に何かを探す。
隊員1「ありました!!」
隊長格らしき男がゆっくり歩みよると、隊員1が指さす先に卵状をした碧の物体があった。縦2メートル、横1.5メートル程の大きさだ。
別の隊員が物体の放射線値を測定してうなづいてみせると、待ちきれないとばかりに隊長風の男は碧色をした繭にはりつく。
表面にほんの少し触れると、丸い小さな小窓が開く。中には胎児のように身体を丸めたヒューマノイドタイプの生物がいた。
ただ、ひたすら深く昏睡しているように見える。
隊員2「グレイ・タイプですね。」
隊長は立ち上がる。
隊長「回収しろ。」
#帰りの山路
麓に向かって走る大型車両がある。
繭を運搬する、コンビニのロゴを付けて偽装したトレーラ。
路幅に対して車のサイズが大きすぎ、少しでもハンドル操作を誤れば崖下に転落しそうだ。
かなりの僻地であるので舗装もされておらず、赤土がむき出しになっている。
運転手のとなりに座る隊長。
運転手「金は?」
隊長「ベース・キャンプに着いてから。……商品と引き替えだ。」
残りの隊員はコンテナの中。彼らの真ん中に、カートに乗せた繭。
車が砂利道に掛かる。
道の上に突き出した大きな木の幹の上で、しだいに近づくトレーラを待ち構える黒衣の人影。
車が真下に来ると同時に人影はダイブ。
コンテナの上に落下するが、砂利道の騒音で中の隊員たちは気付かない。
車上の人物はリュックから小型電動ドリルを取り出し屋根に穴を開け、手にしたボンベから噴出する無色透明の催眠ガスを穴の中に流し込む。
しばらく待ち、コンパス状の特殊なカッターで今度は大きな丸い穴を開け、そこから中に侵入した。
前部の座席で、隊長がトランシーバーに話しかける。
隊長「……商品に異常はないか?」
応答はない。
隊長「止めろ。」
停車。
隊長は、運転手に小銃を構えさせてコンテナの扉を開いた。
隊員たちは、全員コンテナの床に倒れている。
隊長「おい、どうした!?」
誰も彼の問いに答えようとしない。
と、突然脚許にいた隊員の一人が彼の脚を掴んだ。それは変装した侵入者だった。
侵入者と揉み合いになる隊長。銃の狙いがつけられない運転手は、たまらずコンテナに飛び込んで乱闘になる。
最初こそ格闘技の応酬であったが、しだいに子供の喧嘩のような混戦となり、その中で一瞬の隙をつかれ隊長と運転手は叩きのめされてしまう。
勝ったとはいえ侵入者もダウン寸前に消耗しつくしている。
這うようにして繭ににじり寄ると、転がしてコンテナから落とす。
侵入者は、そのまま路上を転がして繭を下の崖に落とそうとする。
そこへようやく追いついた隊長が飛び掛かる。相手の顔面を殴りつけると帽子がとれて、長い髪がこぼれる。
隊長「女!?」
相手の女は口中の血を吐き捨てると、隊長の顔面に蹴りをお見舞いする。しかし拳銃を抜いて、隊長はなおも相手を制しようとした。
隊長「と、止まれ!!」
繭に寄りかかった女は不敵な笑みを浮かべると、繭と一緒に崖を転がり落ちていく。這ってきた運転手がそれに発砲しようとするが、隊長が制する。
隊長「よせ。」
彼が顎をしゃくると、ふもとから回転灯を点滅させたパトカーが登ってくるのが見えた。
女が落ちた先には軽トラックがあり、その荷台に繭と女はスッポリおさまる。運転席から出てきた別の若い女は、荷台に逆さまにおさまった女をあきれ顔で見上げた。
トモミ「ミサエちゃん、またボロボロ。」
ミサエ「早く、車を出せ!!」
トモミ「はいはい。」
言いながら荷台に幌を被せ、闇の中に走り去った。
タイトルバック「アマノカワより」