とある猫の語り
はたしてこれは、二次創作なのか
私は猫である。名前はキー子。
この話のはじめを任されたたしがない老猫が一匹であります。
名前のない先達に習いこんな紹介から初めてはみたものの、しかしこれから話すものに名前なんて無くとも別にいいじゃないかと思ってしまいます。
それにしても猫が語りだなんて変なことを考えますよね人間は。
まあ、やると決めたからにはやりますが期待はしないでください。
それよりもこの語りを文章化するときのことをご心配なさってください。
何せ私たちニャーニャーぐらいしか言えませんから。
***
君が私を拾ってからもう3年にもなるかと思うとなんだか感慨深いものを感じる。
あの日は降り続く雨にやられて体温を奪われ満足にからだが動けなくなってしまっていた。
鈍色の雲から流れ落ちる雨をよけようと人間の子供がよく上ったり滑ったりしている変なのの下にいるときだった。
あいつは傘もささずに歩いてきた。どこかでぶつけたのかその頬は赤く腫れ上がり、片目がよく見えていないようだった。
後で知った話ではあるが、アレはどこぞの雄に叩かれた後だったそうだ。
あいつは私をその目に写すとのそばによってきて私を抱え上げた。
その瞬間私の頭の中が赤熱するような有様になったのはいう言うまでも無い。(この女!誇り高き野良猫がこの一匹をよもや抱きかかえようとは!)
飼い猫のように誇りを失い人間にこびを売るような奴らと違い野良猫はまさに至高とも呼べる存在である。その私を!至高なる一匹をよもや抱きかかえようとは!
そんなことを叫びながら(もちろん人間には伝わらないが)威嚇をしてみるが、この人間、まるで引かなかった。
普段の私ならこんな人間の雌の抱擁を避けることなど造作も無かったが、この時の私は前述の通り、普段道理のそれではなかったためにこの女に捕まってしまったのだった。
この女はどうやら寂しさを埋めるために私を求めたらしかった。
「ここが君の新しい家ですよー」
誰が人間なんかと一緒に暮らすか!とは思い出て行こうとしたものの、私の体は思っていたより弱っていたらしくその気がなかなか起きなかった。
ふん!かび臭い建物の一室に連れ込まれた後自分のけがなんてかまわずに私に水ふきと、暖かいミルクを提供した心配りに免じて、からだが治るまではいてやるか!
そんなこんなで始まった私と人間の雌との共同生活は決して楽なものではなかった。
雨露をしのげるだけましだなんてことを思っていたあの頃の自分の鼻ずらにかみつきたい気分だった。
まず、女はよく酒の匂いを漂わせていることが多い。仕事とかいうものがない日には必ずと言っていいほどあの甘ったるい匂いを漂わせて来るのだ!
匂いと言うのは我々誇り高き(元ではあるが)野良猫にとっては己の分身のようなものである。この女が餌を提供してくれるせめてもの褒美に私の匂いをつけてやっているというのに何という有様なのだ!?
と思って、女に自分の匂いを改めてつけてやろうとすり寄ったことがあったが、これがいけなかった。あろうことかこの女、私の背中で胃の内容物をぶちまけやがったのだ。
それでいて、酒精が抜けてくると「臭い」だの何だのといって私を水浴び場に隔離したのだ。何という屈辱だろう!喉笛かみ切ってやろうかと思ったほどだ。
次にこの女、私としゃべる時になぜか語尾に(にゃ)なんてつける。「ご飯だニャー」「お風呂だニャー」なんて馬鹿にしているとしか思えない!我々がニャーニャー鳴くのは我々の放つテレパシーを受信できない程度の低い者に対して意思を伝える手段なのだ。
それを元とはいえ誇り高き野良猫の私につかうとはもはや救いようのないバカである。
またこの女は度々私を洗おうとしてくるのだ。嫌がる私を捕まえて水浴び場に引きずり込み水桶のような物の中に共に入らせようとしてくるのだ!
もっといけないことは酔った状態で水桶に長く浸かっていることが多いのだ!
この女は名前のない先達が酔った勢いで水桶に落ちて溺れ死んだことを知らないのか!
全く危険だということがわからないのか?
またこの女は時折とてもも忙しそうにしている。私の手も借りたいなどいいながら、部屋で何やら四角い箱と熱心に向かい合っていることがある。
そういうときは決まって帰りが遅くなるのだそして私も彼女が早く帰ってこないか扉の前でうろうろすることが多くなった。
さみしいではないか早く帰ってこい。私の手ぐらい、いくらでも貸してやるというのに。
極めつけに君は、番いの選び方が悪い。よくもまあ口先だけの雄ばかりに引っかかるものだ。特に猫が好きなど言ってきた奴はその実私に見向きもせず暇さえあれば君の体や財布とかいうやつばかりを見ていたことを知っていただろうか?
「だまされた」
「嫌な奴だった」
「別れて清々した」
なんていいながら涙を流して悲しむ君をどういう気持ちで私が見ていたか、接していたか君はわかっているのか。
君がそのことで涙を流すたび、私が君の涙をなめとろうとしたことを君は知っていただろうか。
君がつらいとき時私も落ち込んでいたことを君は知っていただろうか。
君が笑うたび私が喜んだのでいたのを君は知っていただろうか。
君、いえ、あなたが、
あなたが鉄の箱にはねられてもうこの家に帰って来なかったときわたしが私のようでなくなったことを君は知るよしもなかったのでしょうか。
もう私の思いは届かないのだろうか。もう伝えられ無いのでしょうかうか、ニャーとしか伝えられ無いこの喉が恨めしい。
もし、私が死んであなたとと同じところに行けるのならば、あなたに私の思いを伝えられるのならば、喉を震わしてあなたに伝えようと思います。何度でも、何度でも。
拾ってくれてありがとう、私はとても幸せでした。
猫は気分屋なもんですからあまり長くは語ってくれません。
彼ら彼女らの気分次第で続きを投稿します。