新型ウイルス感染 誹謗の代償 プロット
新型コロナウィルスに感染した方の情報がSNS棟で拡散され辛い思いをされているとか…
職場や顔写真自宅の住所までさらされるなどあまりに酷いです。
有事に防衛反応が引き起こされるのはわからないでもないですが、因果応報、とんだしっぺ返しがないとも限りません…
自己愛や家族愛からくる行動とはいえ過ぎた防衛反応は危険な事態をもたらすかもしれないという警告の意味も含めて書きます。
世界的な流行が一刻も早く過ぎ去るように。
そんな思いを込めて…
新型コロナウィルスに感染した方の情報がSNS棟で拡散され辛い思いをされているとか…
職場や顔写真自宅の住所までさらされるなどあまりに酷いです。
有事に防衛反応が引き起こされるのはわからないでもないですが、因果応報、とんだしっぺ返しがないとも限りません…
自己愛や家族愛からくる行動とはいえ過ぎた防衛反応は危険な事態をもたらすかもしれないという警告の意味も含めて書きます。
世界的な流行が一刻も早く過ぎ去るように。
そんな思いを込めて…
新型ウィルス感染 誹謗の代償 『プロット』
職場も失った。
家族とも離れ離れになった。
友人も失い、住み慣れた故郷も失った…
いつも通りただ生活し働いていただけなのに。
優子は家具もない部屋の片隅で膝を抱えている。
小売店での販売業に従事していた優子は新型ウィルスが流行する中マスクを着用することさえ許されていなかった。
それでもうがいや手洗いを励行し最大限感染しないよう気を付けいていた。
新型ウィルスの世界的な感染拡大については連日報道されていたからである。
しかしほどなくして発熱、倦怠感、咳…
不特定多数の客と関わる仕事、万が一にも感染してしまっていては大変なことになる…
そんな思いで受診するがやはり結果は陽性。
感染拡大初期でもあったことから指定病院への入院治療は問題なく行われた。
若かったことそして持病もなかったことから2週間を待たずして体調はみるみる回復していった。
健康の回復は問題なく進んだ。
だが優子の気持ちは晴れることなくベッドで横になりながら久しぶりに電源をあげたスマホを力なく傍らに沈めた。
SNS上では優子の顔写真、働いていた店舗、親兄弟の職場まで晒され誹謗中傷が繰り返されていたのである。
そしてライン上には家族からの悲痛なメッセージ。
感染時の面会は謝絶されていたためラインでの家族からのメッセージで初めて事態を把握したのである。
そして職場からのライン…
『あなたのせいでうちの店舗は営業を停止しているわ。あなたはもう出勤してこなくてよいから。お店もSNSで晒されて私達まで感染者扱いされているのよ!』
ネット上で繰り返される優子への誹謗…
『信じられない…あのお店私も行ってたんだよね。感染していたらどうしよう』
『店は何していたんだ? 使用者責任! 管理監督責任だろ!客に感染したらどう責任取るんだ!』
『感染していた従業員の顔写真と住所特定しました! アップします』
優子のフェイスブックやインスタグラム、ツイッター全てが誹謗中傷のメッセージで溢れかえっていた。
体調の回復した優子が自宅に帰ることはなかった。
自宅も誹謗中傷の嵐となっていたからである。
心無い張り紙、スプレーで落書きをされた玄関、壁…。
両親や兄弟たちはすでに自宅から消えていた。
優子は仕方なくウィークリーマンションに身を潜め傷ついた心と体が癒えることを待った。
テレビやスマホなど情報機器には触れる気持ちになれなかった。
連日のように報道される新型ウィルスのニュースを目にすることは今の優子にはあまりに辛すぎた。
それでも時折テレビのニュースだけは目にした。
感染の流行はこうなった今でもやはり関心事であったし当然他人ごとではないのである。
隠れるように近隣のコンビニに行き食べ物だけは確保し身を潜めながらただ時間が過ぎるのを待った。
何も悪いことをしたわけではない。
感染症のことは十分理解していた。
出来得る限りの対策はしていた。
感染症が流行していても働かないわけにはいかない。
勤め先の方針に逆らうわけにもいかない。
物をつくること運ぶこと売ること…
患者を診ること介護すること
誰かがやらなければならないこと…
誰もが一生懸命社会の為自分の為家族の為に働いている。
ただいつものように自分のするべきことをしてきただけなのに…
なぜ自分だけが感染してしまったのか
なぜこんなにも誹謗されなければならないのか
職場を失い
家族とも離れ離れになり孤独だけが残った。
この空間を飛び回る電子の情報はきっと今も自分のことを誹謗しているだろう。
そんな思いがとめどなく脳裏をよぎる…
ウィルス、会社の仕打ち、ネット上で誹謗する目に見えない人人人、そして社会。
それらへの薄暗い想いが日に日に増していくのが目に見えるように分かった。
そして2週間後…
再び訪れる熱っぽさと息苦しさ、そして咳。
優子は退院後目にしたニュースで知っていた。
感染者が治癒後再び感染するケースが存在することを
感染の症状に苦しむ優子は再感染に慌てふためくことはなかった。
カーテンを閉め電気もつけず薄暗い部屋の隅でその口の淵をわずかに歪めた。
薄暗闇でそれは微笑んでいるようにも見えた。
優子はゆらりと起き上がり外へと出かける。
形ばかりマスクをしサングラスをかけニット帽を被っていた。
ゆらゆらと駅に向かった優子はホームに滑り込んだ電車に乗る。
そして咳き込むマスクの中にそっと手のひらを滑り込ませる。
マスクの中で微笑みながら差し入れられた手のひらをしっかりと舐めた。
昼前の電車はラッシュアワーをとうに過ぎ乗客はまだらであったが咳き込む優子を怪訝な顔で睨み付けた。
いぶかしい顔をしながら車両を移動する者もいる。
新型ウィルス感染はまだまだ収束などしていないのである。
そんな乗客をサングラス越しに眺めながら優子は電車内の手すりと言わずつり革といわずところ構わず手のひらを擦り付けながら歩き回る。
時折マスクの中に手のひらを滑り込ませその手のひらに自身の唾液をなじませながら。
ほどなく優子は勤めていた小売店の入ったショッピングセンターに着く。
サングラスをかけなおしニット帽を深めに被る。
ネットでの炎上から一時休業していた店舗も細々と営業を再開していた。
元の職場の仕事仲間に気が付かれることがないように商品や手すり、ところ構わず触れて回る。
咳き込む姿を見咎められないよう我慢しながらたっぷりと自分の薄暗い澱をなすりつけて回る。
十分に自分の分身たちを残した優子は元の職場を後にしショッピングモールを悠然と練り歩く。
もちろん薄暗い澱を捨て去るように手のひらを擦り付けながら…
呼吸が苦しくなる
熱も上がってきたようだ
咳込みを堪えるのも難しくなってきた。
周囲の目から逃れるように優子はショッピングモールを後にした。
スマホの向こう側で顔も知らない多くの人間が自分を代表する感染者を誹謗し社会から剥離しようとする。
自分も同じ側にいたのかもしれない…
ふと優子の脳裏にそんな思いがよぎりすぐに消えていった。
ふらふらと街を彷徨う優子の息はいよいよ荒くなり体も火照るように熱かった。
咳き込みも抑えようがないほど酷くなる。
非難がましい視線が痛いほど指すがもうそんなことに気を留める余裕もなかった。
マスクからは熱くたぎった呼吸が漏れている。
時刻はもう夕方になろうとしていた。
帰宅ラッシュに差し掛かろうとする中、優子は次々とバスを乗りかえ電車に乗り移動することをやめなかった。
どこにも帰るところが無くなってしまった優子には留まり向かうべく場所などなかったのである。
しかし彷徨う優子もとうとう動けなくなった。
咳き込みながら地下鉄の暗がり、人けのないエアダクトの付近まで来るとぐったりとその身を壁に預けただ苦しげな呼吸だけを繰り返した。
優子はマスクとサングラスをつけなおすとそのまま眠るように目を閉じた。
ホームには新型ウィルスに対する注意喚起のアナウンスが響き家路に向かう多くの人々の足音だけが響いていた…