旅人きたりて
ある日のこと。
夕暮れのプロミネーズ東区の表通りを、見慣れぬ一団が今日もソリを引いて通過していく。
いや、正確に言えば見慣れぬのは集団のうちのひとりだけ。
デュラン・ダール。
かれこれ2週間ほど前から滞在している、旅の術師である。
プロミネーズ東区は隣国であるシラヌイの国との交易が盛んであり、他国の人間が入ってくること自体は珍しくない。
珍しくはないのだが、それでもデュランの行動はかなり目立っていた。
なにせ、表通りを行商人かなにかと思えるほどの魔獣素材をソリに乗せ、しかも毎日のように通っているからだ。
術式で作ったという氷のソリ。
その日も8台ほどのソリに魔獣素材が山積みになっており、その内の1台は鉱石が大量に積み上げられている。
「お、今日は温水湖じゃなくて鉱石ダンジョンか」
「相変わらず豪快に素材を持ってくるな~。見ろよ、アーマーボアの肉もたっぷりあるぜ」
人々も慣れたもので、ソリに乗せられた品々で今日のデュランの行き先について話している。
注目しているのは一般人だけではない。
素材商人や鍛冶屋なども、やはりデュランが持ち帰ってくる魔獣素材や魔導水晶が目当てだ。
素材、水晶ともに同じ魔獣から獲得しているハズなのに、その質がまったく違うからだ。
同行しているハンターたち曰く、まるで魔獣の構造を筋肉の繊維一本に至るまで完璧に把握しているかのようだ……とのこと。
そんな技術を見てハンターたちが黙っているワケがない。
本人の許可のもと、デュランの解体技術を貪欲に吸収した。
結果、ギルドのハンター全体の持ち込み素材の品質が徐々に向上している。
近隣との交流、子どもたちの相手も楽しんでいることを含め、概ねデュランの存在は受け入れられていた。
概ね、である。
歓迎していない者も多少だが存在している。
ハンターギルドの一角、テーブルにはいかにも不機嫌な少年ハンターがふたり。
「くそッ! パーティーを突然抜けたかと思ったら、よりによってアイツと組んだのかよッ!! ……くそッ!!」
「なんでだよ……俺が誘ったときは1度も来なかったくせによ……」
いつかのクラスDパーティーのリーダーたちである。
彼らが気にしているのはデュラン本人ではない。
常に彼の側をついて歩くふたりの少女である。
つまりは、そういうコトである。
「あ~あ。やっぱりこうなったかぁ。ま、そりゃそうだよね。好きな女の子が他のオトコにべったりじゃあねぇ~」
「アイツら、全然好かれちゃいなかったからな。本人たちは気づいてなかったみたいだがよ」
ひとりは、アールヴューレに。
本人は頼れる男のつもりでアピールしていたのだが、彼女には横暴な、あるいは粗暴な男にしか見えていなかった。
ひとりは、シャルミールに。
本人は実戦経験者として冒険に誘っていたのだが、彼女には自慢話を押し付けてくる面倒な男にしか感じていなかった。
パーティーメンバーにしてみれば、やっぱりか……程度のことでしかない。
「そうか……アイツら、騙されてるんだ! そうじゃなきゃ、あんな胡散臭いヤローと一緒に暮らすなんてありえねぇ!!」
「なんだとッ!? いや、たしかに、いくらなんでもおかしい! 会って数日の相手を信用するなんて、どう考えてもありえない!!」
少なくとも本人たちは本気である。
ふたりを正気に戻し、助けなければ、と。
「……おい、アレ、どうするよ? 巻き込まれるメンバーが不憫だぜ、さすがによ」
「だよな……っつーか、青春してるなって微笑ましかったけどよ……あそこまでいくと、なんだ、アレだな。見てるコッチがその、辛いわ。いろいろ」
彼らの様子を面白おかしく見ていたベテランたちも、さすがに笑えなくなってきたらしい。
暴走を始めた若きハンターたちの説得を試みるが、果たして結果はどうなることか。
ちなみにパーティーの空気が微妙な雰囲気になったのは彼ら以外にもいる。
原因は氷のソリである。
同じものを作ってみようと術師たちが試したものの、成功した者がひとりもいない。
実行してみて初めてわかる、デュランの術式の技量。
作業台程度ならば氷の塊を出現させて削るだけなのだが、ソリが思いの外難易度が高かったのだ。
曲面が上手く作れず滑らない。強度が足りず荷物を積めない。
そうして試行錯誤をする術師たちに無神経な言葉を投げ掛けたハンターたちがいた。
結果はもちろん。
旅人、デュラン・ダール。
プロミネーズ東区における彼の評価は、なかなか難しいものになっていた。




