まったり共同生活開始・その3
まずは凍ったミルクの塊を砕く。
いくら術式があるからといって、そのままじゃ時間がかかる。
鍋は備え付けをお借りしまして。
えーと?
コンロは魔導水晶と薪と両方あるのか。
ふむ。
ここは術師らしく。
指パッチンで炎の蝶!
「「おぉ~~!!」」
子どもたち、おばちゃんたち、くつろいでいたハンターたちも。
けっこう驚くな?
「術式を日常生活で使うというのは、な。戦闘が全てとは思っていないが、せいぜい建築現場ぐらいだと思ってたからな」
ちょっと意外。
でもまぁ、一般家庭の生活なんて知らんかったからなぁ。
そうか、日常生活で使うような術式はないのかぁ。
その辺のアレコレは後でじっくり考えよう。
今は目の前のホットミルク。
沸騰させないように、丁寧に温めまして~。
取り出しますは小さな小瓶。
……小さな小瓶って頭痛が痛いみたいだな。
小瓶の中身を鍋にパラパラ~っと。
クリーム色の液体が明るい茶色に。
うむ。甘い良い香り。
子どもがいるからね。
コーヒーよりは、ココアで―――
「「チョコレートッ!?」」
うおッ!?
「デュラン、お前、そんな高級品を持ち歩いてたのか?」
高級品?
……。
えー。
ルジャナ帝国ではチョコレートは非常に高級な嗜好品なんだそうな。
国内では生産されず。
国境を越えて商人たちが持ち込むモノが全て。
帝都の貴族……どころか、皇帝の一族もそうそう口にできないのだとか。
そんなに値段が……え、違う?
輸送の問題?
はぁー、なるほど。長旅で劣化しちゃうのね。
商人としては、劣化した品物を立場ある人たちに納品するワケにはいかないよ、と。
「ウワサでは、それでもいいから食べたがっていると聞くがな。だが余計な前例を作るワケにもいかんだろう? そこに関しては貴族たちのほうが気楽にしているな」
そして貴族が購入したチョコレートが平民にお裾分けされるんだそうな。
ミルクに溶かしたホットチョコレートを近隣に振る舞うのが貴族の嗜みと。
ほー、いい習慣じゃないか。
稀少価値のある物だからこそ、みんなで、か。
俺がイメージする貴族とは違うな。
しかし。
そこまで喜んでくれるなら、他の人のぶんも。
まだ帰ってこない働くお父さんたちやわんぱく小僧ども。
でも俺も荷物整理したい。
ここは奥様たちにココアの瓶をお任せしましょ。
あ、コラちびっ子。
直接食べようとするんじゃ……ほら、シャルミールに怒られちゃったよ。




