惜しい人材
その日、査定人であるモーリィは少しばかり遅い時間にギルドに出勤していた。
彼は長年、様々な素材を適切に鑑定しているベテランである。
しかし、あまり現場に出過ぎると若い査定人の経験値を奪うと考えており、時折こうしてのんびりと出勤しているのだ。
いつものように出勤、だがその日は少しばかり勝手が違った。
「……ふむ。この魔導水晶、どうしたのかね?」
「それですか? 少し前に買取りのお客さんが来たそうです。ハンターズギルドのメンバーカード無し、売買カードも無しの新人だろうって」
「新人、なぁ」
一粒つまんで眺めるモーリィ。
光にかざしてじっくりと眺める。
その様子を見て首をかしげる若い査定人たち。
コボルトと森ハウンドの魔導水晶など、珍しくも何ともないのだが。
(やれやれ……困った連中じゃのー。この様子では、どんなハンターが持ち込んだかも確認しとらんだろうなぁ)
翌日。
朝イチで出勤したモーリィ。
昨日の今日で再来するとは思えないが、可能性はある。
そして夕方。
「査定をお願いします」
「む! キミ、その魔導水晶を持ち込んだハンターはどんな人物かね?」
「はい? あぁ、ええと……あの、あそこのテーブルの、フードで顔の見えない」
「そうか。ありがとうよ」
「あ、モーリィさん。彼はハンター登録はしてませんよ?」
「おや、そうなのか。ふむ」
「デュランさんよ、あんた、ハンター登録せんかね?」
「断る」
即答である。
「ふぅむ…理由を聞いても?」
「面倒だからだ」
即答である。
「お前さんが持ち込んだ魔導水晶はかなりの上物じゃ。相場の倍は値段が付くじゃろう。だが素材買取りでは他と同じ査定額しか出せん。どうじゃ? 今からでも依頼として処理すれば―――」
「断る。モーリィと言ったな、話はそれだけか?」
取り付く島もない。
結局、通常価格を渡すとデュランなる人物はギルドを出ていった。
「勧誘は失敗か。仕方ない、とりあえずあの男……デュランが持ち込んだ魔導水晶はワシが預かるぞい」
「モーリィさん、そんなに違うんですか?」
「もちろん。純度が他と比べ物にならん。言っておくがな、コレを他と混ぜて流した日にはギルドの目利きを疑われたぞ? ハンターギルドの査定人どもはボンクラだとな」
そんなものか、といった様子の若手たち。
「……とにかく、ワシは支部長のところに行ってくるでな。コレをお前たちが見逃したことも報告するからの、説教を覚悟しておくんじゃな」
「「えっ?」」