鵺の闇界・その1
ストレス注意。
またか。
ゴールドナイツのハンターに呼び出された。
抵抗する気力など、ずいぶん昔に無くなってしまっていた。
下手に逆らえば何をされるかわからない。
今日は誰が見せしめにされるのだろうか?
……。
少しだけ、驚いた。
彼らのクランハウスに乗り込んで、英雄の剣に殴りかかった人がいるらしい。
そんな無謀なことをする人間が、まだこの王都に残っていたとは。
バカなことを。
暴力。
権力。
王都で彼らに逆らって生きていけるワケがない。
いや、どうだろうか?
素直に殺されるだけなら幸せなほうなのかも。
戦いの、いや、私刑が執行されているだろう音が聞こえてきた。
それに私たちを囲み連行するハンターたちの下品な笑い声が加わる。
ああ、またしばらく悪夢を見るのかな?
それもいつものことだけど。
……。
その光景を、私はすぐに理解することができなかった。
「ふむ……もしかして、遠慮なさっているのでしょうか? 私が武器を所持していないことが気になりますか? もしそうなのであれば気づかいなど不要でございます」
ふたり。
槍の男と拳の女。
これは、呻き声?
あぁ、そうか。顔が潰されているからうまく話せないんだな。
……え?
まって。
倒れているのは。
倒れていたのは……英雄の剣の人間?
「ったく、こんなヤツ相手にみっともねぇマネしやがって。おい、オメェ。この程度でイイ気になってんじゃねぇぞ」
「なるほど。たしかにこの程度がクラスSの頂点だというのでは拍子抜けどころではありませんね。安心しました」
「ンだとぉッ!?」
大きな剣を持った男と、仮面を被ったスーツ姿の男の人が戦い始めた。
私は戦いのことなんて何も知らない。
けれど、わかる。わかってしまう。
素人の私から見ても、きっと。
仮面の人のほうが圧倒的に強い。
「て、めぇッ! ちょこまかと動きやがってッ!! 大人しくしやが―――プギャッ!?」
たったの一回。
大きな剣を、避けたタイミングで。
わざと狙っているのだろうか、やっぱり顔を殴られた剣士が、勢いよく飛んでいった。
「はぁ……なんでわたくしがわざわざ手を下さねばならぬのでしょうか……いいでしょう。わたくしの術式で死ねる栄誉を抱いて朽ち果てなさい」
……あぁ、今回は私が運が悪かったみたいだ。
術師が何か言葉を紡ぐと、青く光る雷がたくさん飛んできた。
きっと、仮面の人は簡単に避けてしまうだろう。
だけど、私には、私たちにはムリだ。
避けることも耐えることもできない。
いつかの友だちがそうなったように、私も消し飛ぶのだろう。
「……やれやれ。ここまで救いようがないとは思いませんでしたよ」
仮面の人が、片手を、指を少しだけ動かした。
するとどうだろうか、私たちの前に何か……これは、糸?
紅く、暗い、たぶん霊気の輝きを纏った糸が、雷と人々の間にクモの巣のように張り巡らされた。
糸に触れた雷は青白い光の粒になって消えていく。
衝撃も音も無く。
それを、私たちの無事を見届けた仮面の人が軽く腕を振るう。
「―――ッ! ~~~ッ!??」
術師の女が首もとをかきむしるような動きを始めた。
よく見ると、どうやら先ほどの糸が巻き付いているのかな?
これで、半分。
8人のうち、半分が倒れている。
はは。
あはは。
あはははははははッ!!
どうしよう。口元が。
あぁ、よかった。私だけじゃなかった。
うん、わかるよ。みんな。
ずっと待ち望んでいた光景だもの。
治療を済ませてもう一度、8人が並んで立つけれど、そこに以前のような威圧感は感じられない。
たったひとりを相手に、睨み付けたまま動けないその姿には、普段のような恐ろしさは全く感じなかった。
そして。
「どうやら……少々、過度な期待をしていたようですね。これ以上は試す必要もないでしょう」
仮面の人の糸がヤツらをグルグル巻きにした。
まさか。
まさかッ!!
パチンッ、と。指が鳴る。
「そんなバカなァッ!? エーテルウェポンが……俺たちのエーテルウェポンが壊れ……バカな! そんなハズは……バカな……」
今なら私にも理解できる。
連中が、英雄の剣が、ゴールドナイツのハンターたちが私たちを弄んで笑っていた理由が。
誰かの絶望する顔が、これほど心を満たしてくれるとは思わなかったよ。
そしても一度、糸がアイツらに巻き付いた。
必死に命乞いをするアイツらに、ゆっくりと、落ち着いた声で仮面の人が言葉をかけた。
「ではひとつ、質問させていただきます。皆様は同じように許しを乞うた人々に対して……どのような対応をなさってきたのでしょうか?」
ふふ、言葉は丁寧なのにイジワルだね。
そんなこと、聞くまでもないのにね。
だから、どうか、仮面の救世主様。
アイツらを早く。
早く、どうか、仮面の救世主様ッ!!
作風に合わせると、これぐらいの描写が上限かと。
コッチ方面を濃くしてしまうと読んでて疲れそうですし。




