がっかりバトル? クラスS・英雄の剣
「……ッ! テメェ! 俺たちを本気にさせたいようだなッ!?」
え? あぁ、うん。そうだねプロテインだね。
……おっとイカン、少し現実逃避したくなってた。
ハンターたちの装備に霊気の光が宿った。
ステータスを簡易チェックしているが、光の強さに合わせて彼らの能力も高まっているようだ。
なんだかなぁ。
一発目の不意打ち食らわせたリーダー君はともかくさ、他のメンバーまでこのタイミングってどうなのよ?
もっと前に、せめてリーダー蹴ったあたりでやれよと。
「フッ……オレたちに喧嘩を売ったこと、あの世で後悔するがいい。―――セァッ!!」
ランサーが向かってくる。
さすがに速い。
加護無しでは、俺では避けきれないだろう。
なるへそ、これがエーテルウェポンの効果か。
無防備に地面に激突してた人物と同じとは思えないな。
まぁ避けるけどね。チートあるし。
「―――ナニッ!? キサマ……この俺の突きを避けるとは。ただの身の程知らずではなさそうだな?」
ニヤリと笑う槍使い。
顔立ちが整っているのでなかなか絵になるじゃないか。
再び槍を構える。のはいいのだけど。
他のメンバーは動かないのかな?
……あ、これコイツ倒すまで動かないヤツだわ。
だってこっち見てヘラヘラと笑ってるもん。
なんのために全員でパワーアップしたんだよ……一斉に飛びかかってきてもいいのよ?
「セイ! セイッ! セェイッ!!」
あん、どぅ、とろあ~♪
からの回し蹴りッ!
「ぷぎゃッ!?」
狙い通り、顎に命中。
見た目こそ服装に合わせてスマートなお靴でございますが、爪先はゴーレム金属を加工・祝福した凶器みたいなものでございます。
……砕けたかな?
―――おっと。
「おや。私の攻撃を避けましたか。誉めてあげましょう。しかし偶然とはそう何度も都合よく起きるものではありませんよ?」
今度は女武闘家か。
偶然もなにも、霊気の気配がなぁ。
不意打ちかまそうとして後ろから近寄ってたのバレバレでしたがな。
アレだ。
せっかく相手が油断してるのに隙アリッ! とかオリャァァッ! とかって叫んじゃうのと一緒。
「この…ッ!? このォッ!!」
何度も都合よく回避した結果。
登場したときはドヤ顔だったのに、すっかりムキになっちゃってまぁ。
「げぎょッ!?」
悪いね。
チートはあっても所詮は人間、ちょいと事故ればお陀仏だからね。
女だから、は。手加減する理由にはならんのだ。
続けて3人、4人と。残り半分。
さすがの英雄の剣たちも焦り始めたようだ。
対照的に、ギャラリーは嬉しそう。笑いを噛み殺してるねぇ。
気持ちはわかる。
俺だって立場が違えば間違いなく喜ぶもん。
「バカな……あり得ねぇ……テメェッ! くそ、エーテルウェポンなんだぞッ!? 俺たちは……俺たちはクラスSハンターなんだッ!! こんな、こんなヤツにッ! こんな……ッ!」
勇者(仮)が吠える。
いうてキミ、一発蹴り入れてからなんにもしとらんでしょうに。
しかし、なるほど。
噂と、今の発言と。
彼らの心の支えはエーテルウェポンの存在か。
狙い目、決定。
ヒーラーが回復を始めたので待機。
せっかくだからね。
そして8人がそれぞれ武器を構え直して俺を睨む。
ハンターとして、少なくとも国内では頂点だったろうからな。
大勢の前でコケにされたんだ、さぞやムカついているだろう。
もう少し、煽ったり遊んだりしてもいいのかもしれないけど。
飽きちゃった。
同じクラスSでも、お隣の国で戦った銀剣の乙女と比べると色んな部分がお粗末さまだね。
きっと、経験値とか、感覚とか、立ち回りとか。
特殊な力を持つ装備に頼りきりで成長することがなかったんだろう。
『強化された能力で暴れはしたが、道具を使いこなすための創意工夫を重ねることはせなんだな。たしかに、これならクラスB帯のハンターたちのほうが手応えもあろう』
逆に言えば、それだけエーテルウェポンとやらが与えてくれる力は大きいワケだ。
つまり。
『つまり?』
ソレを。
ブッ壊したら……スッキリできそうな気がしない?
『そういうとこ、ブレんのぅ。ま、命を奪うワケで無し、報いは連中の業に従って起こるもの。なれば遠慮無くやっちゃるか!』
では、幕引きの準備しましょ。
「「――――――ッ!!??」」
糸まきまき!
8人全員を糸で拘束。
飛んでくる罵詈雑言
そんな……この状況で放せと言われて放すヤツがいるわけないだろ。
指パッチンッ!
対象は武器防具まで。
服と本体はひとまず見逃しええぇぇぇぇッ!?
「そんなバカなァッ!? エーテルウェポンが……俺たちのエーテルウェポンが壊れ……バカな! そんなハズは……バカな……」
そんなバカな。
コイツら……体型……えぇ……?
「……見ろよアイツら。急に太りやがったぞ」
「……能力だけじゃなくて見た目も儀礼装備で変えてたのか」
ひそひそ、くすくす、と。
こういうのを嘲笑っていうんだろうな。
しかしまさか、ホントに体型を装備で誤魔化してたとは。
俺だって筋トレとかは女神さまの加護とか関係なしに頑張ってんのに。
おっと、呆然としててもしょうがない。
次。
今度は本体どもを糸まきまき。
「ぐッ!? くそがッ! 俺たちは国が認めたクラスSパーティー、英雄の剣なんだぞッ!! 国中のハンターだけじゃねぇ! 多くの貴族だって俺たちが命令すりゃ動くんだッ! こんなマネしやがって、ただで済むと思ってんのかッ!?」
お前は何を言っている?
もちろん、ただで済ませるワケがないだろう?
「なにィッ! ―――ヒッッ!?」
拘束されたポッチャリ……デップリどもが一斉に黙る。
連中に巻き付く糸に赤と黒の霊気の光を宿らせた。だけ。
だがしかし、捕まってるほうにしてみれば只事ではないだろう。
それで自慢のエーテルウェポンを破壊したところを見ているのだから。
案の定、命乞いが始まった。
国と貴族とハンターギルドと。
権力を駆使して俺の望みを叶えてくれるらしい。
だから、命だけは助けてくれと。
バカだねぇ。
そんなん関係なしに最初から命だけは助けるつもりなのに。
が。
ここで素直にオッケー出すのはよろしくない。
コイツらに従ったと思われるのはムカつくし。
それに……期待の視線をビンビン感じちゃうんですもの。
もう少し、お灸をすえてやらねばなるまい?
それじゃ、ひとつ。質問に答えてもらおうかな。
「な、なんだ? 俺たちでわかることなら特別に答えてやってもいいぞッ!」
この状況で上から目線かよ。
ある意味マジに大物なんじゃないか?
それはさておき。
―――お前たちは、同じように助けを求めた人たちをどうしてきた?
「そ、それは……」
言葉に詰まるか。だろうな。
女神さまが視ただろう光景。
周囲の人たちの反応。
同業者のハンターたちでさえも。
悪意を集めるだけの行動をしてきたみたいだし、命乞いなんて何度も聞いているだろう。
俺はこんなん連中でも殺すのはイヤだから見逃すけどね。
ストレスは溜め込まない方向で生きたい。
さて、女神さま。
調整はようござんすか?
『うむ。これで彼奴らめも終わり……いや、ある意味では始まりか。少なくともチャンスは残されるのだからな』
命は奪わない。
その代わりに力をまるっと奪う。
今度は地道に頑張ればいいと思うよ。
もっとも、無事に過ごせるかどうかは俺は知らないけどね。
全ては自業自得。
それでは英雄の剣の諸君。アデュー。
「―――どっせぇぇぇぇいッ!!!」
うぉッ! 増援ッ!?
って、この声は……。
「ったくよぉ。だから装備に甘えんなって……あれほど口を酸っぱくして言ったっつーのによ」
わお。
なんでこんなとこにボルバンが?




