ちくちく疑いの眼差しが・その1
スノール領中央区。
戻った俺を出迎えてくれたのは。
「ヤツを捕らえろ! あの術師こそがスノール領内に儀礼道具をばら蒔き、混乱させようとした帝国のスパイだ!」
スパイ宣言でした。
いつの間にそんなことに?
ちらりとその辺を歩いている兵隊さんを見てみる。
うん、困惑してる。
うん、ますますワケわかんない。
「いえ、その、自分たちにはそのような命令は下されていませんが……えーと、帝国のスパイ……なんですか?」
スパイだったら堂々と門から入んないよ。
とりあえず騒いでる人たちの話を聞こうか。
……。
ハイ。
えー、連中の主張は俺の自作自演。
自分で魔獣を誘導する術式道具を設置して、その撤去を手伝うよう見せ掛けることで信用を得ようとしたのだと。
当然、自分で埋めたのだから場所は把握していて当たり前。
方位磁石に探知の付与をしたのはインチキだと。
うーん?
治安を守る兵隊さんから見てはどうなの?
「まぁ……一応、筋は通っています。ただ、そもそも設置されたのを我々は察することができていなかったのです。正体が暴かれるリスクを犯してまでそんな自作自演をする旨味があるのか疑問ですね」
そうきたか。
でもそりゃそうだわな。
バレてないんだから、更に術式道具ばら蒔きゃええやん。
というか兵隊さん冷静だね?
「貴方の報告はギルドから上がっておりますので。その一見怪しいフードもただの趣味で、特に顔を隠す理由もないと。それと……個人的に彼らのクランが嫌いです」
クラン。
クランか。
……クランってなに?
「……あぁ。えー、個人、あるいはパーティーがリーダーとなった……ハンターの軍団? とでも言えばわかりやすいでしょうか。彼らのリーダーはクラスSランク1のパーティーなんですが……」
クラスSランク1パーティー“英雄の剣”
そのパーティーがリーダーを務めるクラスSクラン“ゴールドナイツ”
兵隊さんが語るにはすこぶる評判が悪い。
周りで他の兵士も住民もハンターもうんうんと頷いているあたり、これはかなりの大物クズの可能性ありますよ!
まッ! 俺もクズっぷりでは負けないけどなッ!
しかしどうしようか?
あの手のタイプは結論ありきで騒いでいるから説得を試みるのは時間のムダだ。
手っとり早くブッ飛ばして黙らせてもいいのだが。
………おや?
「待ちなッ! まったく、騒ぎだと言われて来てみればまたオマエらかいッ!」
「ったく。普段は帝国にビビって王都から出てこねぇクセに偉そうにしてくれるじゃねぇか」
「しかもよりによって彼をスパイ扱いですか。なかなか面白いケンカの売り方をなさいますね?」
この間の、一緒に術式道具を探したときのハンターさん?
この流れは……なんだか拗れそうだなぁ~。
術式道具と儀礼道具の違いについては、そのうち術師協会のマジシャンとかが説明してくれるでしょう。たぶん。
もちろん主人公はわかってません。




