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黄金の獅子・その1

試しに主人公以外でも一人称視点を。


「風を感じながら月見で一杯。風流だろ? 今日はそんな気分だったんだよ」


 こちらに背を向けたまま男は答えた。


 確かに月見酒はいいものだ。


 昔はキレイなお姉ちゃんとワイワイ呑むのも楽しかったけど歳をとると静かに呑むのも……って、違う違う。


 うん。声、若い感じだ。


 強さはまだわからないが、胆力は大したものだ。


 殺気をぶつけてるのにな~んにも反応がね、薄いんだよね。




 何者なのかは……聞くだけムダだろう。


 雰囲気でわかる。


 こういう軽い感じのヤツのほうが口が固いんだよね。


 ただ、ひとつ気になることがあった。


 気配。


 一応、これでも殿下の武将としてそれなりの実力のつもり。


 なのに、突然現れたこの男の気配。


 まったく読めなかった。


 それほどの気殺ができるのに、どうして急に?


「ん~? あぁ。今さ、この城に第二皇子のところの役者が揃ってるって報せがあってね。どんなものか興味が出たもんだから……つい、ね」


 ……あちゃー。


 報せがあったとこの男は言った。


 報せたのは誰か?


 裏切り者の可能性は低い。


 今日、皆が集まったのは偶然が重なった結果でしかない。


 なにか意味があって集まったワケじゃない。


 内部の人間はそれを知っているから、危険を犯してまで外部と接触する理由がないのだ。


 と、なれば……この男の仲間、あるいは部下。


 だとしたら優秀な密偵だねぇ、ホント。


 だ~れも気がつかなかったんだもの。


 ……逆にこの男は密偵には向いてないな。


 実力者と戦いたい。


 気持ちは理解できるんだけど、それを密偵役がやっちゃダメでしょうに。




「ところでおっさん、この下の広場ってさ、いわゆる訓練所ってヤツなのかな? ちょっとくらい暴れても大丈夫なヤツかな?」


 霊気は変わらない。


 戦闘濃度にはだいぶ遠い。


 けど、雰囲気でわかる。


 この青年、戦いたくて仕方ないって気配。


 ん~、でもワルいね。


 お前さんを動かすのは危険だって、本能が反応してるんだよね。


 おじさんも仕事だからさ、ワルいねぇ。


「ん? あぁ、別に気にしなくていいよ。それがおっさんの役目なんだろうし。それに―――どうせ、あんたの刃は俺には届かないから」




 ……一応、本気で仕留めるつもりだったんだけど。


 滑り落ちるように避けられた。


 なるほどねぇ。


 霊気を高めることなく、か。こりゃ厄介だわ。


 さて、まさかのんびり眺めてるワケにもいかないね。


 落下地点に先回り。


 ……と。まぁそりゃ素直に落ちてはこないよねぇ。


 壁蹴りで軌道を変えたか。


 だけどそれも予定通り―――だよッ!!




「おっと。危ないじゃないか」




 ……タイミング、間違わなかったはずなんだけどなぁ。


 密偵に向いてない青年だと思った。


 前言撤回。


 この青年、危険だ。


 感じる霊気と実際の動きが違い過ぎる。


 気配を消して、霊気を抑えたまま戦えるってのは、かな~り厄介だよ。まったくさ。




 騒ぎを聞き付けた部下たちが集まってきた。


 さすがに……あの仮面の相手はムリだね。


 逃げた、であろう他の密偵を追いかけてもらうしかないかな。


 一応、包囲は完成している。


 訓練所にも塀の上にも兵士たちが並び、ライトで仮面が照らされ―――ッ!?




 獅子の、紋章ッ!




 少し前にグローインドの工作員から報告があった。


 クラスSパーティー、銀剣の乙女がたったひとりに全滅したという話だ。


 まぁ、全滅って言っても全員ちゃ~んと生きてるんだけどさ。


 彼女たちの素晴らしいところは、その失態を隠すことなく国とギルドに報告したことだろう。


 誰だって自分の失敗は隠したいもの。それがクラスSともなれば注目度も違うだろうし尚更だ。


 もっと言えば……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ってコト。


 なのでもちろんその姿も詳しく報告されているんだけど……あ~あ。ドンピシャだわ。


 向こうは蠍、こっちは獅子か。


 ……個人ではなく組織的な連中、確定だねコリャ。




 しかしまぁなんというか、表情は仮面で見えないんだけど……楽しんでるね、この状況を。


 若いねぇ、その余裕さ。


 さて、おじさんでどこまでがんばれるかねぇ。




 ……。




 戦闘スタイルは格闘術か。


 つくづく、密偵向き。


 武器を持たなくても戦えるってのは、護衛というか、守る側から見ればとっても厄介だよ。


 しかしなぁ……。


「っと、ははッ! 当たらないかぁ」


 うーむ、ナメられてる。


 惚れ惚れするほど見事な見切り。


 そして訓練中の新兵並みに残念な攻撃。


 うーむ、ナメられてる……ッ!


 そこまで露骨なのってさすがにどうかと―――。




 ッ!?




 なん、だッ!?


 霊気…違うッ!!


 これは―――どわぁッ!




「へぇ……気づいたのか。さすがだね」




 ……速い。


 いや、たしかに速さにも驚いたけど、それだけじゃない。


 今の一撃は……あぁ、今の一撃は完全に致命傷の一撃だった。


 なんだ?


 何を仕込んだ?


 正体はわからないが、気のせいなんて疑う余地がなかった。


 まったく……困っちゃうね。


 そら余裕なワケだよ、本気で終わらせるつもりなら、向こうはいつでも決着付けられるんだもの。




 うん、ダメだ。惑うな。惑わされるな。


 ヤツの戦い方はただの格闘なんかじゃない。


 仮面の獅子が示すように、その一撃は命に届く鋭い牙だ。


 幸いにしてバトルマニアな気質っぽいから、兵士たちに被害が出ないのがありがた―――




「今だッ!」


「とぉぉぉッ!」


「てぇぇいッ!」




 ちょっとぉぉーーーッ!?


 なにしてんのぉッ!?


 言っちゃワルいけどキミたちじゃカスリ傷ひとつムリだって!




「ぎょッ!?」


「みゃッ!?」


「ぞぉッ!?」




 今まで色んな敵と戦って、色んな攻撃を見てきたけど。


 まさか味方を大砲みたいに扱われるとは思わなかったよッ!!


 あーあー壁やら地面やらにめり込んじゃて。


 でも手加減はしてくれたらしい。


 気配からしてちょいとケガした程度だろう。




 ……だけどおじさんに対しては手加減はしてくれないらしい。


 ぶっ飛んだ部下に気を取られた瞬間の不意打ち。


 その速度、そして霊気濃度。


 感覚的に、少なくともクラスAの上位ハンター並み。


 ……はぁ。


 できることなら、ひとりでこの場を収めたかった。


 少しでもヤツに情報を与えないためにも。


 だけどそれはもう望めないだろう。


 面白がって実力を見えるよう表に出し始めているけれど、その実一切の霊気を封じたまま桁違いの破壊力を扱えるのだから。




 近くにいた副官に伝言を頼む。


 同じく三剣士と呼ばれるミハイルくんとユリアンくんに。


 どんなふうに伝えてもらうか……いや、単純に“例の仮面の仲間だ”と伝えてもらえば充分かな?


「やはり……ッ! はい、急ぎ御二人に! カラザワ様、どうかご無理を為さらぬようッ!!」


 ご無理を為さらぬようにとは、なかなか厳しいことを言ってくれちゃって。




 さて。


 こういうの、おじさんのキャラじゃないんだけども。


 二人の到着まで―――命懸けでやらせてもらうよ?

次回も一人称視点になります。

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