どこまで信じるか
「私はしばらく自分の研究に集中させてもらう。遅くとも1週間後にはギルドに顔を出そう」
新たな効果、術式が付与されたコンパスをギルドに持ってきた若き術師。
もとより登録されたハンターでもなければマジシャンでもない。
ハンターたちはデュランがギルドから出ていく姿を快く見送っていた。
すると入り口でふと、彼は足を止めた。
「……油断するなよ」
その一言だけであれば、それはただの挨拶代わりの一言だった。
しかし。
「ああ。肝に命じておくぜ」
その一言により、ハンターたちの間に微かに緊張感が生まれた。
ガノッサ・ファーレン。
豪快で気前のいい男であるが、彼は国が認めたクラスSのハンターである。
そのガノッサが真剣な声色で返事をした。
ただの社交辞令ではない。
「なぁ旦那、さっきのは……」
「言葉通りの意味さ。みんな、出発前にちと時間をくれないか? 実はな―――」
……。
…。
「よし! 反応通りだ!」
とある岩肌剥き出しの荒野地帯にて。
若きハンターのパーティーがひとつ、地面を掘り出していた。
その手には例の、ゴーレムを誘導したアイテムがある。
明るい話題で盛り上がるハンターたち。
どうやら、見つけた数で追加の報酬が出るらしい。
(……ここまで接近を許すとはな。所詮、金で動くハンターなどこの程度よ)
(他のハンターどもは?)
(大きく離れている。問題ない)
(クックック……若いハンターか。見せしめとしても都合がよいな)
その場で報酬の話を続けるハンターたち。それを囲むのは10人ほどの“いかにも”な集団。
昨日の時点で変流の術式を刻んだ儀礼道具が回収されているという報告はあった。
しかも、回収したのがハンターどもであるとも。
(なるほど、あの道具か。どんな効果を刻まれてるのかは知らんが、アレで探し当てているのは確実か)
(回収しますか?)
(そうだな。魔導院に見つかった経緯の報告も必要だろうからな)
話題は今後の、ハンターたちを始末した後のことについての相談。
なぜならば彼らにとっては勝利は疑う必要のない、当然の結果だからだ。
ブルム帝国の工作員。
覇道を歩む帝国、工作員であっても戦闘力は高い。
(よし、出るぞ。一匹も逃がすなよ)
ハンターたちを完全に包囲した工作員たちが姿を現す。
それは始末するだけならば無意味な行為。
騎士でも兵士でもない彼らに、わざわざ正面から戦う理由などない。
だが工作員たちはハンターたちに誰に刃向かっているのかを教えてやろうと、わざわざ姿を見せたのだ。
「クックック……キサマら―――なにッ!?」
しかしハンターたちの反応は工作員たちの予想と全く違っていた。
一切、狼狽えることもなく。
即座に臨戦態勢に切り替えたのだ!
それだけではない。
「しまった……ッ! 合図だとぉッ!?」
弓使いのひとりが空に向かって矢を放つと、大きく笛の音が鳴り響いたのだ!
「……ハッ! どうしたよ、そんなに驚いてさ」
リーダーらしき只人族の剣士の青年が不敵に笑う。
それを見た工作員たちは理解した。
釣られたのだ、と。
自分たちの接近は気付かれていた。
遊んでやろうと思っていたところを、逆に奇襲を受けた気分だった。
だが。
「チッ! ハンター風情がぁ…! ―――撤退するぞ」
そこで激情に任せて戦闘を展開するようでは帝国の工作員は務まらない。
感情を押し殺して逃げを選べる姿勢は一流と評価できるだろう。
即座に離脱を試みた。
その判断は見事。
だがその選択は、空笛矢が放たれたときにするべきだった。
「にゃっは~♪ ちょっと遅かったねぇ~♪」
「なッ!? ギャアァァッ!!」
「がぁぁッ!」
「ぐぁッ! あぁぁ……ッ!?」
工作員たちの悲鳴が響く!
全員、足に決定的な負傷。もはや逃げることは叶わないだろう。
「「ナイスタイミングッ!!」」
「や! 間に合ってよかったよかった。いや~! クラスSの初仕事の相手がまさか、帝国の工作員とはねぇ~。こりゃ、幸先よろしいんじゃにゃい? あはは~♪」
刀に付着した血を振り払い、猫人の侍娘がケラケラと笑う。
その背後には彼女のパーティーメンバーも見える。
「S、だと…? バカな……回収はクラスCのハンターが中心となって……上位ハンターは……」
「リザードの変異種の討伐に、か? そんなもの、テメェらを釣り上げるためのウソに決まってるだろ」
気が付けば、すでにハンターたちの包囲が完成している。
戦闘力も優れているとはいえ、相手はクラスAやクラスSのハンターの集団。
それと正面から戦えるかと言われれば。
………。
……。
…。
「大漁だな。しかしガノッサ、よくまぁ工作員がこのタイミングで動くってわかったな」
「俺じゃねぇよ」
「そうなのか?」
「昨日の夜に、な。ホレ、あのデュランって術師と偶然メシ屋で会ってな。そんときに言われたのさ。集めてる最中に襲われるだろうから気を付けろ、ってな」
「ほぅ。それで」
「ああ。何かあったときに、すぐ援護にできる状態で作業しろってな。で、今朝がたも油断するなって念押しされたからよ。たぶん、気付いたんだろうな。連中が動くだろうと確信する“何か”に」
「それで俺たち上位クラスのハンターに偽の依頼を出したのか。情報が漏れないように。お前にしては頭を使ったじゃないか」
クラスC、Bのハンターたちが回収依頼を受けたとき。
リザードの変異した個体に関わる依頼として、その場のクラスA以上のハンターが集められた。
そちらも重要案件だからと会議室に集まってみれば、なんと工作員の捕縛の話である。
「さすがに俺だけの考えじゃねぇよ。パーティーの連中と、それにギルマスにも相談したんだ。儲けを独り占めしようと単独行動したふりをして、ってアイディアもな」
「だろうな。お前の頭じゃムリだろう。お前の頭じゃ」
「おいコラてめぇ」
「だが何度も使える手ではないな。連中も今後は警戒するだろう。10人と少し。スノール領にいる工作員の何パーセントなんだか」
「……まぁ、1週間後にはデュランもギルドに顔出すって言ってたからな。それまでは俺らでなんとかするしかないだろ」
「デュラン・ダール。旅の術師か。信用できるのか?」
「さてな。だがアイツがいなければこの結果は手に入らなかったぜ。まぁ大丈夫だろ。悪いヤツではなさそうだしな。……旅の術師って話が真実なら、この国を気に入ってくれている間は大丈夫だろ。真実ならな」
人を見る目はあるつもりだ。
コルキュアスのハンターたちとのやり取りもだが、話していて後ろ暗いモノは感じなかった。
だが、ガノッサはデュランの価値観を理解するのは難しいだろうと考えていた。
自由に生きる。
それを口にする人間は大勢見てきたが、実行している人間を見るのは初めてだからだ。
(しかも、帝国の工作員の動きを読めるほど頭が切れるときたもんだ。正直、怖ぇ存在だな。できることなら、良好な関係でありたいもんだが……)




