チラチラと帝国の影が
宿屋にて、とりあえずコーヒーを振る舞う。
他のお客さんやハンターたちが羨ましそうにこちらを見ている。
仕方ないなぁ。
宿の人に鍋を3つ用意してもらった。
ブラック、砂糖入り、ミルクと砂糖入りの3種類。
あ、宿のスタッフさんもどうぞどうぞ。
「それで、いったいどんな話を仕入れたのさ?」
「それがですね、最近、街道に盗賊が出るらしいんですけど……その、盗賊の正体っていうのが」
「ブルム帝国の工作員って話なのさ!」
おや、現地のハンターさん?
「おう。コーヒーごちそうになってるぜ! で、だ。まぁなんでそんなことがわかるんだって話になるんだがよ」
理由はいくつかあるそうな。
まず、大前提として西方スノール領はブルム帝国と長いことにらみ合いを続けている。
代々のスノール家の努力により侵略は許してないが、大なり小なりの衝突は何度もあるそうな。
「フィンブルム王国に住んでいる者であれば常識の範疇ですな。それで、スノール領を混乱させるために賊を手引きしていると?」
「いや、手引きじゃねぇ。本人たちが直接吹っ掛けてきてる」
盗賊にしては統率のとれた動き。
なにより戦い方が違うとか。
襲撃の頻度に対して死者が出ていない。
意図的に怪我人を増やして動きを制限するのは軍隊のやり方だそうだ。
「盗賊なら拠点を潰せばしばらくは大人しくなるもんだが、工作員は別だからよ。連中、普通にその辺に溶け込みやがるからな」
はー、なるほど。
誰が敵なのかわからないのは面倒だな。
ん?
そういうことなら、俺とかバリバリに怪しい姿してるけど。
え? 目立ち過ぎて逆に?
そんなに目立つこと……あ、たしかに。
ハンターぞろぞろ引き連れて歩いてたもんな。
「それにアンタ、術師だろ? 武器持ってねーし。ローブ姿は珍しいが、特にスノール領に潜入するにはちと不向きだぜ」
数が少ない術師はそれだけで目立つ、か。
あ、もしかしてこの宿にいるハンター?
やっぱり俺を警戒してか。
いやいや、別に怒りはしないって。
事情が事情だし。
しかし。
ふーむ、どうしようかな。
別に通行規制とかは……ない?
なら中央区に向かってもいいかな。
「問題ないが、今は人が集まるのを待ったほうがいいぜ。つっても、明日の朝に出るんだけどよ」
街を移動する人たちが集まって、お金を出しあって充分な護衛を。
経済的だな。
しかしそれなら普通に兵隊さんたちに……あ、はい。街を警戒するのに忙しい。
盗賊行為が陽動の可能性。
言われたら納得するしかない。
帝国。
帝国かぁ。
一緒に移動する人たちには悪いけど、ちょっと楽しみだな。




