とあるハンターの日記
―月―日
とうとうオレたちが拠点としている街にも例の“水晶の湖”が現れた。上質な魔導水晶が水底に何度も精製される不思議な湖は、ハンターにとってもドローゼラ領にとっても利益の塊なのは間違いない。
クランの連中も近場に稼ぎ場が出来たことを喜んでいる。その気持ちはオレにもよくわかるんだが、どうにも……最近はイヤな予感が頭から離れねぇ。
―月―日
戦いのカンが鈍ると困ると、とりあえず適当な言い訳をして湖から離れることにした。クランのメンバーはともかく、古い付き合いのパーティーメンバーにはすぐにバレた。
まぁ、アイツらはオレの直感を信じてくれたから、とくに揉め事は起こらなかったが。若手の連中から年寄り扱いされて冷やかされたが、今回はむしろありがたく利用させて貰うとするさ。
―月―日
おかしい。どいつもこいつも危機感が妙に薄れていやがる。
水晶の湖で欲張ったバカが溺れかけた、それはまだいいだろう。引き際を間違えて痛い目を見るってのは、ハンターなら1度は通る道だからな。
だが、その溺れたヤツらが何人も“行方不明”になっていることについて、誰も疑問を抱いていない。いや、正確には大多数の人間が、だが。
そういえば、あの湖そのものが魔獣の可能性がある、みたいな話を前に聞いたことがある。あのときは、なにをバカなことをと笑っていたが……コイツは……。
―月―日
ヤツらはエサを求めている。ハンターギルドの職員から聞き出せた、行方不明になった連中が最後に繰り返し呟いていた言葉だ。
正直、オレの頭のデキでは意味がサッパリわからんが、とにかく異常な、危険なことが起きていることくらいは理解できる。
表面上はなにも変わらない、いや、むしろ以前より活気に満ちているのだが、それが余計に不気味さを訴えかけてきやがる。
くそ……情報が少なすぎる。呑気に魔導水晶に目が眩んでいた自分を殴りたい気分だ。
―月―日
旅人のための拠点が、こんなに賑やかなのは初めて見たかもしれない。それだけあの街の現状をヤバいと思っていたヤツがいたということなんだろう。
だが……状況はあまり良くないようだ。ほかの街からきた連中の話からして、ドローゼラ領のあちこちに水晶の湖が発生しているらしい。全部が街中ってワケではないようだが、関わった人間の様子がおかしくなったこと、そして行方不明者は共通らしい。
上もこの異常事態については把握しているようだが、そのせいでほかの領地に逃げ出すことができないってのはなかなかの皮肉だな。まぁ、人の出入りを制限しなきゃならないってのは理解できるがな。
―月―日
悪夢だ。
なんて酷い。クソみたいな1日だ。チクショウ。生きてる、オレは生き残った。仲間も無事だ。みんなも無事だ。怪我人はいるが死人はいねぇ。チクショウ、クソみたいな1日が。
―月―日
昨日の襲撃の後始末で1日が終わった。昔はこんなシケた街なんてと思っていたが、故郷ってのはやっぱり特別なモノなのかもしれない。
人のカタチをした水のようなナニか。いや、正確には人間のホネを包み込んでるから人のカタチになっているのか? どのみちアレが危険だってことには変わりないが。
せめてもの救いは、ヤツらの襲撃で死人が出なかったこと、そして魔導水晶に取り憑かれてた連中が正気に戻ったことか。
あとは……ただただ幸運だったとしか言えない。あの片腕の霊術使いがいなければ、まともにダメージが与えられなかったんだからな。
―月―日
片腕の術師はデュランという名前らしい。皇子サマの顧問術師の態度からして、相当な実力者だろうなとは思っていたが……まさか、ウワサの幻想狩りの魔術師だとはな。
となると、顧問術師のあのネーチャンがこんな地方の街に現れたのは偶然じゃないだろう。あまり考えたくないが、ドローゼラ領のあちこちで同じような襲撃が起きているのだろうか?
だとしたら、なんというか……気に入らねぇな。
別に皇子サマに恩義やら忠義なんてもんは欠片も持ち合わせていないが、生まれ育った土地については愛着ってもんがあるらしい。
自分でも意外だが、この街が、オヤジとオフクロが、弟の家族があの骸骨の群れに喰われるかもしれないと考えると最高にムカつきやがる。
とはいえ、これはあくまでオレの個人的な感情だからな。今後についてはパーティーと相談して、もし意見が割れるようなら……まぁ、出会いと別れもハンターの日常ってヤツだろうさ。
とりあえず、明日の朝イチでデュランとかいう術師に会いに行ってみるとしよう。
久々の投稿です。
冷房の使用をケチってはいけない(戒め)
これだけは、どうしても伝えたかった(使命感)
まだまだ暑い日は続きそうですので、皆さんは水分補給などなど体調管理には充分に、じゅ~~ぶんにッ!! お気を付けください。




