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水の歌より 願いを託して

「……あの魔術師ならば生きていますよ。無事、かどうかまでは保証できませんが……少なくとも()()生きています」



 ――いつの間に。



 デュランさんの行動、そして間髪入れず現れた巨大な魔獣。


 そりゃ突然の出来事の連続で混乱してたけど、だからってこれほどの霊気の持ち主が現れたことに、誰ひとり気が付かなかったなんて……ッ!


 いくら敵意を感じなくとも、あからさまに怪しい。


 みんなが目の前の女の人を警戒し、武器を構える。


 けど。


 ……アンタだね? ずっと、歌っていたのは。そして――アタシを呼んでいたのは



「えぇ、その通りです」



 いったい何が目的なんだい?


 ほかの人たちはわざわざ追い払うようなコトしておいて、なんでアタシだけを呼んだ?



「別にほかの人間たちを拒む意図はありませんでした。ただ……相応の“器”を持たない者にとって我ら精霊の歌があまり良くないモノであることを忘れていました。それについては確かに私の落ち度です。申し訳ありませんでした」


「「精霊……ッ!?」」



 これがウワサの精霊か……ッ!


 うーん。思ったより神秘的なアレとか感じないんだなぁ。


 なんつーか……なんとなく身近な雰囲気してる。



「……あー、うん。たしかに言われてみりゃあんときの氷のデカブツと似たような雰囲気を感じるな」


「ぐぬぬ……ッ! こんな状況でなければ、是非とも色々と話を聞きたいところであったのだがのぅ。術師協会で自慢できたのじゃがなぁ」



 そういや何人かのハンターは、前にデュランさんと探索に来たときに精霊見たって言ってたな。


 それ以外の人たちはまだ警戒体勢のまま。


 正直、アタシも……不気味、だな。


 明らかに人間とは異質な霊気。素人に毛が生えた程度のアタシですらそう感じるんだ、プロのハンターはなおさらだろう。



「ネルガ老はこんなときでもブレませんねぇ。そんなことより精霊さま、どうやら……先ほどの魔獣に心当たりがありそうですよねぇ? アレについて、教えてもらえると助かるんですけどぉ」



「アレは、アレこそが水の守護精霊たる私の本体。対である“氷”と違い、人間を信じることができぬまま、悪意に犯され暴走した成れの果て」



 ◇◇◇



 水の守護精霊さまから聞かされた話は……かなり、気分の悪い話だった。


 そりゃ精霊だってキレて暴走したくなるに決まってんじゃん!


 こういう話を聞くと、エーテルウェポンに対する見方というか……印象が変わっちゃうよなぁ~。


 というか、ハンターの人たちもスッゴい複雑な顔してるし。


 まぁね、自分の使ってるエーテルウェポンにも悲しくなるような事情があったらとか考えちゃうよね。


 って、それどころじゃない! デュランさんッ!



「私の本体があの魔術師を狙ったのは必然だったのです。何故ならば、彼の内側にはかつて我ら守護精霊を追い詰めた忌まわしき力と同じものが存在したのですから」


「ふぅむ。忌まわしき力とは……あまり愉快な話ではなさそうだのぅ」


「世界の理から外れた、存在してはならない力。ただ、ソレをあの魔術師が所有しているのは……あるいは必然なのかもしれません。孤独な旅人である、あの魔術師ならば」



 孤独な旅人?


 それはいったい――うぉッ!?



 アタシが質問するよりも先に、守護精霊さまの瞳が――ハッキリと“拒絶”の意思を感じる瞳が向けられた。


 知ることを許さない?


 いや、なぜかはわからないけれど、きっと……知るべきではない、知ってはいけない真実があるのだと、そんな気がする。


 …………いや。


 それがどうしたッ!!


 デュランさんはアタシの師匠で恩人だッ!!


 頼むッ! デュランさんを助けるのに力を貸して「取り引きをしませんか?」ふぇ?



「私に残された最後の力を託します。その代わりに、暴走してしまった私の本体を思いっきりブッ飛ばしてくれませんか?」



 お、おぅ……?


 いや、それは望むところだけれど……っていうか、いきなり雰囲気変わったような……。


 精霊さま、人間を恨んでんじゃないの?


 え? そういう感情は本体が全部持っていったからそれほどでもない? 力を合わせて幻想に挑んだときのこともハッキリと思い出してる。


 言われてみれば、最初から敵意も無かったっけ。



「ひとつ、気になるのだけれど。これは純粋な好奇心で聞くのだけれど、なぜリディアちゃんを選んだのかしら? さっき“器”がどうとか言っていたのと関係あるの?」


「もちろんです。もう少し正確に言うのであれば、彼女が扱っているその棒状の武器が理由です。リディアと言いましたね。貴女はソレが我ら守護精霊の魔導水晶で作られていることを知っていますか?」



 ……は?



「「……はぁッ!?」」



 いや、そりゃ、普通の素材じゃないってのは……そりゃ、まぁ、デュランさんが手持ちの素材でも良いヤツ使ってるみたいなことは言ってたけどさ……守護精霊の、魔導水晶?


 魔導水晶って、アレだよな……魔獣を倒したときの、心臓とか、そうゆう役割の……。


 え? それってデュランさんが精霊を――?



「いいえ。貴女が想像するような悲劇はあり得ないでしょう。その武器から強い意志を感じますから。すでにあの魔術師の魔力と混ざりあってしまっているので、どのような守護精霊のモノなのかはわかりませんが……護る、という強い意志を感じます」



 精霊さまが、嬉しそうに……柔らかい微笑みを浮かべたのを見て、アタシは心底ホッとした。


 ムリヤリ奪った精霊水晶であれば、これほど強い輝きは宿らないらしい。精霊の強さは、魔力の輝きとはつまり“心の輝き”なんだとか。


 同じ精霊という存在だからわかる。


 これは、託されたモノなのだと。


 …………。


 デュランさん、マジで何者なんだろう?


 正直、アタシはそんなに特別ブッ飛んだヒトって感じはしないんだけど。


 上手く表現できないけれどさ、術師としては強いのかもしれないけど、なんかな……どっかで“普通の人”って雰囲気なんだよな、やっぱり。


 っと、そんなことは後回しだ!


 水の守護精霊さまが言う。アタシは精霊水晶を使った武器と、魔力と霊気を通わせていたから“取り引き”の相手としては理想的らしい。


 普通のエーテルウェポンとは勝手が違うから、たとえクラスSのハンターでも扱うことは難しい、と。


 なるほど。


 つまり、アタシが理屈を考えてもしょうがないってことだな!



「それで構いません。もとより守護精霊と人間との関係は決して複雑な、儀式的な神聖さなどはなかったのですから。ただ……お互いに、護りたいモノを護るために力を合わせて。それだけだったのです」



 水の守護精霊さまの身体が光の粒子となり、アタシと――何故か相方である妖精に入り込む。


 妖精、メッチャ驚いてるんだけど。すっごいアワアワしてるんだけど?



『まぁ、妖精は我々に近い部分ありますからね。大丈夫、大丈夫。最初だけだから。慣れればどうってことないですよ!』



 頭の中に守護精霊さまの声が響く。


 アンタちょっと性格変わってない? え、もともとはこういう感じだった?


 肉体が負の感情を根こそぎ持っていったから、こっちの精神体は本来の自分を思い出せた……と。


 さっきまでは肉体のほうに引きずり込まれないように張り詰めていただけ。


 ふーん。アタシに力を渡したから、もうその心配は無くなったってコトか。



『それでも、私は永く自分を見失い過ぎました。このまま私という自我は1度、世界に還元されてしまうでしょう。貴女が生きている間に再び言葉を交わすことはできませんが……世界の一部となっても、ちゃんと貴女のことを見守ってますよ。たぶん』



 そこは断言しろよ!


 って、もういねぇし。そこはもっとこう……もっとこう、さァッ! 精霊さまなんだから、なんかあるだろォ!? 神秘的な別れみたいなとかさァッ!


 はー、なんか頭痛くなってきた。


 しかも精霊さまの声はアタシにしか聞こえていなかったらしく、ほかのハンターの人たちからは本気で心配している目で見られてるし。


 いいよ、もう。


 早くエーテルウェポンの力を解放して、デュランさん助けなきゃ。


 ほら、アンタもいつまでもイヤそうな顔してるんじゃないよ。妖精から精霊にランクアップしたんだし、素直に喜んでおきなって。



 さて。ここからはマジでいこうか。


 アタシの中に宿る、魔力と、霊気と、精霊の力。


 その全てをひとつにまとめ上げて実体化させる。



 ――出ろッ!! “アクア・ネビュラ”ッ!!



「おぉッ! コイツはすげぇなッ!」


「水の刃、かの? ひとつひとつに凄まじい魔力が宿っておるな。これがエーテルウェポンのオリジナルか。たしかに格が違うのぉ~」



 まるで水晶のような、透明な水の刃がアタシの周囲に何本も浮いている。


 身に付けていた魔獣の革製の軽鎧も、蒼い金属っぽい質感のドレスアーマーに変化していた。


 なるほどねぇ……ちょっと、早まったかな?



 コイツは――強力すぎる。



 精霊の力を恐れるって気持ちも理解できちゃうな、コレは。


 ま、いいか。


 受け取っちまったモンは仕方ない。返したくても精霊さまは世界に還元されちゃったらしいし、ここはありがたく使わせてもらうとしよう。



 ◇◇◇



 ハンターの人たちには1度、水の上から避難してもらった。


 どうやら足下の水そのものが、暴走してしまった水の守護精霊の本体らしい。


 さっきまではタダの水にしか見えなかったが、いまのアタシにはその内側が――デュランさんが連れ去られたであろう、水の結界というか、領域というか。とにかく、そういうヤツが感じ取れる。


 つまり、デュランさんはいま、バケモンの腹の中で戦ってるワケで。


 それをアタシは吐き出させたいワケで。


 ならば、やることはひとつしかないよなぁ?



 具現化できるありったけ。水の刃を大量に、広い範囲に配置して――全力でブッ叩くッ!!


 貫け、アクア・ネビュラッ!!



「――――、――――ッ!!??」



 出たッ!


 ヘビの魔獣ッ! いや水の守護精霊さまの一部分なんだろうけど、どう見ても完璧に魔獣だなッ!?


 ガラスのように派手に砕けた湖面から勢いよく、弾かれるように飛び出してきた。


 それから人影もひとつ! デュランさんッ!



「――ん? あぁ……リディアか……。ふぅ……思いの外、酸欠でギリギリだったみたいだな……。頭が痛いし空気は旨いな、まったく」



 よし! デュランさんも無事に――無事、に……?


 …………。


 腕ェェェェッ!?


 え? ちょ、左腕……え?



「左腕? あぁ、さっきアイツに食われた。なに、この程度、死ななければ安いものだ。――幻想といい精霊といい女神といい、大事に関わるといつもこんなもんだしな……」



 そりゃ腕1本と命と引き換えじゃあ深刻さに違いは――女神?



「――――、――――ッ!!!!」



 げっ。暴走精霊から足が生えた。


 水揚げしちまえば簡単に料理できるかなと期待したけど、そこはさすが、暴走しても守護精霊ってコトか?



「攻撃、くるぞ! 全方向からだッ!」



「「うぉぉぉぉッ!?」」



 なんじゃこりゃあッ!?


 空間に急に裂け目が現れて、そこから水の槍か何本も飛んできた!



「これは……空間の術式じゃとッ!? バカな……ヤツは式陣のひとつすら展開しておらんかったというのに!?」


「術式によるものではないからな。式陣など必要ない、ただそれだけのことだ」


「術式ではない、だと……? そんな、ならばどうやって……」


「ネルガ老。鳥が空を飛ぶのを、魚が水を泳ぐのを、いちいち理屈で考えたことがおありか? つまり、ヤツはそういう存在ということだ」


「むぅ。守護精霊に人間の理屈は通用しない、と。ズルいのぅ。ワシだって空間のマテリアはほとんど扱ったことがないのにのぅ」



 こんなときでもジッチャン、ブレないなぁ本当に。


 優秀な術師ってのは、どっか変わってる人じゃないとなれないもんなのかな。アタシのお師匠さまがまさにソレなワケだし。


 それにしても……空間そのものもを武器にしてくるとか、こんなもんどうやって対応すりゃいいんだ?


 正直、アタシの頭の出来じゃあサッパリなんだけど。


 ハンターたちも攻撃そのものは余裕で避けていたけれど、どうしたものかと困ってる感じだし。



「大丈夫だ。暴走した守護精霊は強力だが、守護精霊の……オリジナルのエーテルウェポンで止めることができる。少なくとも私の知る限りではそうだった、という話だがな……」



 デュランさんの知る限り、か。


 やっぱり昔に――ってことなのかな。同じようなことがデュランさん自身にもあって、アタシの武器に使った精霊水晶はそのときの……とか。


 まぁでも! デュランさんも過去に暴走精霊と戦ったってんなら、今回もなんとかしてくれるだろ!


 幻想の魔獣とも何度か戦ってるっぽいし、きっとデュランさんもオリジナルのエーテルウェポンのひとつくらい――――。



「と、いうことだリディア。私が援護する。お前があの暴走精霊を倒してくれ。大丈夫だ、守護精霊の力を得たお前ならきっと勝てる。……たぶんな」



 そこは断言してよ!?

気が付けば300話到達してましたね。


このままだと完結までに600話くらいになりそうです。長いなぁ……。

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