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蠍の紅水晶

 クラスSハンター。


 ギルドだけでなく国の、国王が認めた者のみに与えられる称号。


 それは必ずしも戦闘力を保証するものではない。


 もちろん銀剣の乙女はパーティー名から察する通り、バリバリの武闘派である。


 戦いには自信がある。


 自信があった。




 サソリのマークの仮面。


 いかにも怪しい風貌で使い魔を飛ばす。


 グローインド王国にとって友好的ではないと断定し、即座に対応したものの。


(今の一撃を予測していたのか。かなりの手練れだな)


 本気の不意打ちを気軽に避けられた。


 それだけで警戒するには充分。


 銀剣の乙女たちは本気でサソリの仮面を倒しにかかった!


 が。




「……ったく。チョコマカチョコマカと面倒なヤローだぜ」


 攻撃が当たらない。


 個人の強さだけでなく、連携にも自信があった。


 絶え間無く攻め続けているのに掠りもしない。


「見切られています。敵ながら見事と言わなければいけませんね」


 相手の強さを認める。


 それを素直にできるのも、さすがはクラスSと言えるだろう。




 サソリの動きを掴めないことに苛立ちを感じ始めたその時。


「……ん? 奴め、何をする気で―――ッ!?」


 銀剣の乙女たちが間合いを離した!


 サソリの手元に出現したモノ。


 紅い水晶のナイフが二本。


 それが保有する圧倒的な霊気に、彼女たちの本能が警告を発したのだ!




「あれはまさか……エーテルウエポンなのかッ!?」


「かも、しれません。それも……オリジナルの、です……」


 エーテルウエポンとは?


 ダンジョンや大型の魔獣の中から発見される強力な武器である。


 なぜ、どうやって存在するのか、長く由来が不明だった桁違いの性能を持つ武器である。


 銀剣の乙女たちが使用しているのもエーテルウエポンだ。


「オリジナルだと……? バカな……いや、だが、確かにヤツは自分の霊気だけで具現化した……ッ!」


 様々な組織が研究を続けた結果。


 かつて一流の霊気の使い手が自らの霊気を具現化したもの、それが本来のエーテルウエポンであるとされている。


 既に具現化した状態で見つかるものは、その領域に辿り着けなかった者が使うためのコピー品であると。




「……はッ! やるなッ! 面白い、そうでなくてはなッ!!」


 リーダーの強気の発言。


 そうでもしなければ逃げ出したいくらいだった。


 そうしなかったのはクラスSの誇りと、愛国心か。




 戦闘の再開。


「……くッ! テメェッ!」


 手加減されている。


 当たらない、簡単な軌道の攻撃しかしてこない。


 しかしこちらの攻撃は相変わらず通用しない。


 全て紅水晶のナイフで受け止められる。


 それどころか。


「―――ッ!? そんな、術式を発動前に斬るなんてッ!?」


 式陣が雷光の槍を放つより先に、ナイフで斬り破壊したのだ!




 強すぎる。


 それでも気力を頼りに戦いを続けるが。




(……? ナイフを握り潰した、だと? 何をするつもりだ……)


 武器を自ら手離す。


 降伏の意思表示……などではない。


 一体何を?




「………バカな」


 サソリの仮面がゆっくりとこちらに歩いてくる。


 両手にはナイフの代わりに紅い霊気が揺らめいている。


 霊気の強さはむしろ、ナイフに比べればかなり減少した。


 たが、纏う気配が違う。


 もはや存在としての定義が違うとさえ感じる、絶対強者のもの。




「「―――ッ!?」」




 仮面の男が消えた!


 瞬間。


「きゃあッ!」


「うわッ!」


 術師二人の悲鳴!


「速――距離を―――ぐぅ……ッ!」


 そしてアーチャーの呻き声。


「キサマぁッ!!」


「てめぇッ!!」


「このォッ!!」




 ………。




 クラスSの認定を受けるまで、常勝不敗であったわけではない。


 しかし。


(つよ……す、ぎる……手足が……動かない………ッ!)


 全身を細切れにされたかのようだった。


 痛みは無い。


 ただ感覚というべきか、身体を動かすのに必要な機能が全て停止している。


 完全敗北。


 もはや死を待つだけである。はずが。




「……すぐに動けるようになる」




 その一言を残し、サソリの仮面は木々の奥へ。


 そして気配が完全に消滅し、同時に自由を取り戻す。


 しばしの沈黙。


 そして。


「……王都に急ぐぞ。陛下に報告はもちろん、他のクラスSハンターたちにもヤツの存在を知らせなければ」


 生かされた屈辱を圧し殺し、銀剣の乙女たちが走り出す。

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